第14話 二人の約束


              ☆☆☆その①☆☆☆


 ワンボックスに到着をすると、車の影に亜栖羽を降ろして、後ろのドアを開ける。

「三人とも、今のうちに!」

 別に誰が見ているというワケではないものの、彼女の肌を護ろうと意気込む青年は、まるで救出に来た特殊部隊のように、油断なく行動。

 三人が車に乗り込んで扉が閉じられると、すぐに窓が開けられて、亜栖羽が身を乗り出してきた。

「オジサン、ごめんなさ~い! 水着のトップ、ありました~☆」

「? うわわっ!」

 慌てて身を乗り出した少女は、窓の枠で豊乳が隠されているものの、ビキニのトップがないから逆に、裸を想像させていた。

「えっとっ…ビ、ビキニ、あったの?」

 慌てて赤面を逸らしながら、問い返す。

「はい~。浮き輪の後ろに、引っかかってたみたいなんです~☆」

 申し訳なさそうに話す少女の表情も、護ってあげたくなる可愛らしさだ。

「そ、そう…まあ、見つかって良かったよ」

 大人を装って言いながら、まだ心臓がドキドキしている。

「そ、それじゃあ、海に戻る?」

 と聞いたら、ミッキー嬢たちも身を乗り出してきた。

「いえ~、アタシたちもなんか、着替えはじめちゃってまスし」

「私はもう…色々とお腹いっぱいです…はふぅ…」

「そう–うおおっ!」

 窓枠で胸を隠した女子高生三人の姿は、みんなヌードを連想させられてしまうような、バストアップの半裸姿だ。

「わ、わかりました…それじゃあ、う、浮き輪…返して、来るね…」

 真っ赤になった強面を逸らして、掌を差し出す青年に、特に桃嬢は興奮の息が強めの感じだったり。

「はい、オジサン 浮き輪です」

「う、うん。それじやあ、返してくるから」

 と伝えてから、青年なりの、大人としての気遣いを思い出す。

「あ、そうだ。僕の荷物の中に、アルコールのウェットティッシュが入ってるから、使っていいからね」

「「「は~い♡」」」

 窓枠にプヨんと豊乳を押し付けている少女たちから、ペタンコな浮き輪を受け取って、青年は海の家へと向かった。

 浜辺への階段を下りながら、空気の抜けた浮き輪をジっと見つめる。

「……この浮き輪に、亜栖羽ちゃんの胸が…っ!」

 密着していたのだと思い出すと、何だか返したくなくなってしまう。

「あの…浮き輪なんですけど…」

 空気を抜いた理由を説明しようとしたら、店員さんは筋肉青年の上陸現場を目撃していたらしい。

「あ、はいっ! だ、大丈夫です! はいっ!」

 失礼があったらダゴンに頭から丸呑みにされてしまうのでは。

 とか怯える様子の店員さんが、浮き輪を受け取ろうと両手を差し出す。

「あ、あの…この浮き輪なんですが…っ!」

「は、はひっ!」

 恋人の胸が密着したので売ってください。

 とハッキリとは言えず、色々と悩んで考えて、申し出てみる。

「うっうっ、売ってくれませんかっ!」

「ひ、ひいいっ!」


              ☆☆☆その②☆☆☆


「あ、オジサ~ン。お帰りなさ~い♪」

 シュンとしながらワンボックスに戻ってくると、気づいた亜栖羽が窓を開けて、育郎のタオルや着替えを手渡してくれる。

「あ、うん…あぁあありがと」

 着替え途中な少女の白いブラ紐がチラと見えて、緊張しながらドキドキしながら受け取った青年だった。

「? オジサン、どうかしましたか~?」

 シュンとしたまま戻ってきた事に、少女は気づいていたようだ。

「えっあっいや…っ! ちょっと仕事で 考え事しててね、あはは」

 浮き輪を売ってくださいと、地元の業者さんからの好意での借り物なので無理ですと、押し問答が続いて敗北した様子を悟られるのは、大人としてダメなんじゃないかなと、育郎は思っていた。

 車外で着替えながら、車内からは、少女たちの会話が聞こえてくる。

『でも二人とも、まだ泳いでてもいいのに~』

『いやあ、二人のイチャイチャでお腹いっぱいだわ』

『ほんにほんに~♪ 食べすぎ注意です~♡』

 そんなにイチャイチャしてたんだ。とか、赤面する育郎である。

 更に、ネタばらしも聞こえて来た。

『え~、ミッキーたち、水着引っかかってたの、気づいてたの~?』

『いや言おうとしたんだけどさ、桃ちゃんに止められて』

『だって 美味しい場面じゃないですか~? 半裸の美少女が筋肉の巨人の生贄にされる図…はふぅ…それに』

 と、窓が開けられて、桃嬢が顔を覗かせる。

「ふっ様も、亜栖羽ちゃんをダッコできて、良かったと思ってますですよ。ね~♡」

「えっ、あっ、いや、その…」

 当たってるだけに返答できない、純情青年だ。

「うわGOさん解りやすいっスね~。素敵っス!」

 サムズアップをくれるミッキー嬢。

「そうなんですか~? えへへ~、オジサンってば~♡」

 亜栖期もまんざらでは無いっぽい。

 そんな感じで、海水浴が終わった。


  青年は運転しながら、それぞれの少女を、自宅の近くまで送る事になった。

 ミッキー嬢の家の近隣まで送って、桃嬢の家の近くの駅まで送って、亜栖羽のマンションの裏の公園まで送る。

「オジサン、今日は本当に、ありがとうございました♡」

「いやぁ、僕も楽しかったよ」

 笑顔の少女が、可愛いし嬉しい。

 車を走らせるまで見送るつもりな少女が、微笑んでいる。

 育郎は、思っていた事を、思い切って聞いてみた。

「あ、あの…亜栖羽ちゃん」

「はい」

「その…この間、電話で話した…ドライブの約束…まだ、大丈夫、かな…?」

 デートのお誘いをするにも、顔中が真っ赤な二十九歳だ。

「…! はい!」

 ガチガチなお誘いに、少女は明るく大きな返事で、了解をくれた。

「オジサン、また後で電話します~♪」

 言いながら、赤面を隠したいように、少女はマンションへと帰って行った。

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