ぜんぜん違う話の断片その01
鶴乃谷市内某所。路地裏に面した外階段の6階踊り場。二人の女学生が並んで階段に座っていた。空は赤紫から青灰色へとグラデーションを描き、ゆっくりと暮れていっている。いまにもあたりは夜闇に沈みそうだ。
彼女たちのうち一人は創星高校の制服を着ており、もう一人は地元公立中学の制服を着ている。
星高生の方は眼鏡の奥の視線が鋭く、冷たい印象をしている。やや痩せすぎだが、充分に美人と呼べるだろう。
一方の中学生は対照的に、可愛らしいという言葉がぴったりだ。普通にしていても見る人を明るい気分にさせるような、独特の愛嬌がある。冷徹と温和。そんなペアだ。
「珍しいじゃないの。あなたから連絡してくるなんて」
「そうですか?」
「だってあなた、私のこと嫌いでしょう? なびかないから」
「そんなことないですよ。先輩のそういう鋭いところに緊張しちゃって、ちょいっとだけ苦手かもですけれど……」
そう言う中学生の口調にいやみなところはなく、その包み隠さない感じは見る人に微笑ましさや親しみを感じさせるだろう。ところが、先輩と呼ばれた女子高生は興味なさそうに「ふん」というだけだった。
「それで、何の用?」
「じつは、見守り隊の人が高校の放火犯を特定したいそうで」
「………………帰っていい?」
「私だって帰りたいですよ」
「そもそもそれは警察がやることで、高校生がやるようなことじゃないでしょ」
「それが、解決しそうにないせいでジッとしてられなくなったみたいで。鶴乃谷の平和は我々が守る、みたいな」
「アイツら……。地域の安全安心のためなら学生二人を危険な犯人探しに使ってもいいって思ってるのかしら」
「いちおう先輩も私も見守り隊のメンバーなんですから、仕方ないですよ。それに犯人を捕まえるんじゃなくて、証拠をつかむだけ。なのでたぶん、そんなに、危険では……」
先輩の視線の冷ややかさに負け、女子中学生の言葉は途中で途切れる。
「証拠を握ろうとして犯人から危ない目に遭わされる可能性だってあるでしょう?」
「そのときはそのときで、現行犯逮捕できるとかなんとか」
噂では、見守り隊の上層部には引退した自衛隊員や警察署長、現役の興信所社長や警備会社の幹部もいるという。その真偽は彼女たちも知らなかったが、証拠さえ、あるいは犯行現場さえ抑えられれば、通報するまでもなく警察が派遣されてくることに疑問はなかった。
「それで、私が校内。あなたが学外ってこと?」
「そうですね。私も星高に出入りできたらもっと連携して動けるんですけど」
「あなたなら簡単なんじゃないの?」
「それが、あそこの先生とか職員の人って地元の人少ないんですよ。だから、今はまだ無理です」
「今はまだ、ね」
先輩は眼鏡を外すと額に手を当て、歯を食いしばるとそのままゆっくり息を漏らした。
「ものすごく嫌だし腹立たしいけど、拒否権がないのは解ってる」
「いつものように、ですよね」
「そう。いつものように。それで、その犯人について少しは手がかりがあるの?」
「それはですね──」
コミュ力の怪物、地域社会の擬人化。そう呼ばれた少女。
己の目的のため鶴乃谷における強い人脈と影響力を欲した少女。
二人は見守り隊にスカウトされたとき、迷うことなく入会した。それがどういうことかを考えもせず。以来、彼女たちは何度もペアになり、任務をこなしてきた。そしてまたこうして、新たな任務が始まったのだった。
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