12話

 歩き始めてしばらくたつけど、いまだ何も起こらない。どこかに脅かし役が隠れているはずなのに。そう思っていると、道の先に、コンニャクをぶら下げたつり竿ざおが見えた。びっくりするくらい古典的でざつけだ。こういうのはせめて脅かす直前までばれないようにするべきじゃないの?

 釣竿の先にライトを向けると、そこにはくじ引きによって脅かし役ににんめいされたがいた。

「よくぞ見 み やぶった」

  笑いながら言う美紀を見て、私も相良君も、思わずあきがおになる。

「美紀が脅かし役って、ミスキャストだよね。せめてギリギリまで隠れてなよ」

「どのみち、コンニャクじゃだれも驚かないでしょ。それに、ずっと一人で待ってて寂しいんだもん」

 確かに、脅かし役の大部分は、暗い中ライトもつけずに一人でずっと待っていることになる。ある意味、二人一組でいる私達よりも怖そうだ。

「これあげるから頑張って」

 なぐさめにと、持ってきたおわたすと、美紀はかんげきしたように私にきついてくる。

「ありがとう。愛してる」

 安い愛だ。

 美紀からの愛(?)を受け取って、肝試しとは何だろう、ともんに思った私達は、また歩き始める。美紀との一連のやり取りのおかげで、当初とくらべると、きんちょういくぶんやわらいできた。愛(?)の力はだいだ。

 さらに先へと進んでいくと、今度は二人目の脅かし役の子とそうぐうする。

 こちらは美紀とは違って、いちおうそれなりに驚かそうとするはあったみたいだけれど、やっていることはシーツをかぶって飛びだすだけ。もちろん怖くもなんともない。

「これからもう少し行ったらほこらだから。気をつけてね」

 親切に、道案内のおまけつきだ。脅かし役というのは名ばかりで、怖がりな人のために用意したお笑いよういんなんじゃないかと思ってしまう。

「なあ、肝試しってこんなだっけ?」

「さあ……」

 相良君もたようなことを思ったんだろう。二人とも、まるで緊張感のないまま祠の前までたどり着く。

 祠は開けた場所に建てられてはいたけれど、祠自体が小さくて、普通に歩いていたらうっかり通りぎてしまいそうだ。かくした側もそれに気をつかってか、その手前には、見落とすことのないようにライトが置かれていた。

 ライトに照らされた祠の前には、持ってくるようにとのあったカードを入れた箱が置いてある。

「あれか?」

  相良君がるけど、私はそれ以上先に進むのをちゅうちょした。箱よりも、祠の隣にあるモノ の方が気になったから。

 最初はかげになっていて気づかなかったけれど、そこには座るのにちょうどいい大きさの石が置かれていて、その上に誰かがこしかけていた。

 近くに生えた木のえだじゃをして顔はよくわからないけど、おどかし役かな?

 最初はそう思ったけど、明らかにクラスの子たちとはふんが違う。何よりおかしいのは、相良君がそのそんざいに対して、まったく何のはんのうもしていないことだった。

 もしかすると、これは本物のあやかしだろうか?

「どうかしたか?」

  急に立ち止まった私を、相良君が不思議そうに見る。

 相変わらず、祠の隣にいる人には気づいていないようだ。やっぱりこれは妖か、でなければ話に出ていた土地神かもしれない。

 さいわい、向こうは私が見えるやつだってことには気づいていないようだ。ならこのまま見えないようにいながら、この場を去った方がいい。

「何でもない。今行くね」

 はやる気持ちをおさえながら、カードの入った箱を開けるためゆっくりと祠に近づく。

  途中、そっと横目で妖の方を見る。姿すがたは人間に似ているけど、体にはボロボロのみすぼらしい着物をまとい、顔をおおかくすように包帯がいくにもぐるぐるとかれていた。

 不気味に思いながらも、それをして箱のふたを開けると、そのとたん、箱の中から勢 いきおいよく何かが飛びだし、辺りにけたたましい音が響いた。

「きゃっ!」

 声を上げ、その場にたおれる。何が起きたのか と、いっしゅん頭がパニックになる。けれどそれを見 て、相良君がきだした。

「おいおい大丈夫か? これ、びっくり箱だぞ」

「びっくり箱?」

 驚きながら中を見てみると、そこにはバネのついた人形と、箱を開くと音の鳴る仕掛けがあった。たんじゅんな仕掛けだけど、しきが妖の方に向いていたせいで、本気でビックリしたよ。

 その横では、さわがしく思ったのか、妖がジロリとこちらを見ていた。本物の妖の横でびっく り箱に腰を抜かすという、なかなかにシュールな光景だった。

いつ、驚きすぎ」

 いや、妖さえいなければ、ここまで驚かなかったの。だけどそうは思っても、とても言えるはずがない。

 まあ、恥ずかしい思いをしたけれど、妖に気づかれてないだけまだマシだ。妖はまた少しの間私達を見ていたけど、きたのかすぐにまた明後日の方を向く。

 ホッとしながら立ち上がると、箱の中にあったカードを取り、ふたたび蓋をして元の場所へと戻しておく。

 なんとか妖もスルーできたみたいだし、これで後は戻るだけだ。

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