3話

 昼休み、教室で、仲の良い友達と一緒におべんとうを食べていた時だった。

「うちのクラスに朝霧晴 はる 君っているでしょ。彼に好きな人がいるって話、誰か聞いたことな い?」

 突然そんなしつもんをしてきたのは、私の隣 となり にすわっているよし 。女の子というのは、大 たい ていれんあいの話題が大好きだ。『好きな人』という言葉を聞いて、美紀や他の子達も、いっせいに色めき立つ。

 同時に、何人かが教室を見回し、話題に上った朝霧君をさがすけど、彼はもちろん男子生徒の姿は一つもなかった。元々、うちの学校はしょうぎょう けいの高校で、男子生徒の数が少ない。特に昼休みは、ほとんどの男子がバスケやサッカーをするため教室から出ていき、今みたいに一人もいないのもめずらしくない。だんじょがそのまま男女間の力関係にもえいきょうを与えて、男子が教室にいづ らいっていうのもある。

 だけど朝霧君をはじめ男子がいないのは、むしろチャンスでもある。だって、これで声をひそめることなくこいバナできるから。

 朝霧晴。改めてその名と姿を思い浮かべる。

 白いはだふたまぶたと長いまつ、ややちゅうせいてきな顔立ちだけどそれぞれの顔のパーツは整ってい るように思う。体は全体的にほっそりしていて、は高くもなく低くもなくといったところ。 顔のとくちょうと合わさって、落ち着いて物静かという印象だ。

 とはいっても、外見をのぞいてはどんな人なのかほとんど知らない。もちろん、彼が好きな相手なんて聞いたこともなかった。

「朝霧君って、朝霧晴君のことだよね。私は知らないけど、美紀はどう?」

「私も聞いたことないな。あんまり話したことないし」

 久美子はみんなに聞いて回るけど、誰からも朝霧君の好きな人のじょうほうは出てこない。それ以前に、この場にいるほとんどが、彼のことをあまりよく知らなかった。

「大人しそうなタイプだよね。顔は悪くないけど」

「一度席が近くだったことがあるけど、他の男子といっしょに騒いだりすることもなかったと思う」

 みんなに聞いてわかったのは大人しいということくらいだった。これでは、彼が好きな人は誰かという本題にはとてもたどり着けそうにない。

「それで、なんでそんなこと聞くの? 告白でもするの?」

 最初に話を始めた久美子に、美紀がワクワクした顔でたずねる。けれど久美子はみょうな表情 をかべた。言いにくそうではあるけど、それでもなんとか答える。

「するっていうか、告白はもうして、それで振られたんだよね」

  その言葉に全員がだまる。しつれんという事実に、みんな何と声をかければいいかわからず、 こまっている様子だった。私もこういう時の上手ななぐさめ方 かた なんてわからない。

「違う、私じゃなくて三組の子! 知ってるなら教えてほしいって言われたの」

  周りから向けられたあわれみのまなしに、久美子があわててさけんだ。

「その子、朝霧君と同じ中学で、前から好きだったみたいなんだけど、この前思い切って告ったんだって。でも、他に好きな人がいるって言われて、ことわられて……それならせめてその好きな人が誰か知りたいって」

 振られたのがこの場にいない第三者とわかって、みんなホッとする。もっとも、どちらにし ても振られた人がいるということに変わりはないけれど。

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