9話
人通りの少ない
話を終えた私は、そのまま家に帰ろうとしたけれど、妖に襲われた
「歩くのがつらいなら、後ろに乗るか?」
見るとそばには朝霧君のものと思われる自転車が
けれど、わざわざそんなことしてもらうのは悪いなとも思った。
「
そう言って歩きだすけど、一歩、また一歩と歩くたびに、足元がふらついた。
「どう見ても大丈夫じゃないだろ。いいから乗れ」
朝霧君はそう言うと、私に向かって自転車を
悪いなとは思うし、一度は断っておいて、今さら
「よろしく、お願いします」
変な
ちらりと横を見ると、自転車を漕ぐ朝霧君の
「朝霧君の家、この辺じゃないよね。何でこっちの方にいたの?」
この辺りに住んでいるのなら、朝霧君だって私と同じ中学に通っていたはずだ。そうじゃないってことは、家に帰る
「
朝霧君の言う病院は私も知っていた。大きな病院ではないけれど、家から近いこともあって、
よく見ると自転車のかごには、学校指定のものとは違う、
「お母さん、入院してるんだ」
「体が弱くて、少し前から。大きな病気ってわけじゃない」
朝霧君はそう言うけれど、それでも家族が入院となるとやっぱり心配だと思う。いつも、こんな風に通っているのかな?
「他の家族の人はどうしてるの?」
例えばお父さんは、いつお見舞いに行ってるんだろう。仕事が終わるのが
「父親は
「えっ……」
言葉に詰まる。もしかして、
「ごめん」
だけど
「……何が?」
そうして、それ以上は何もなかったように
それからもう少しだけ自転車で進むと、目の前の道が二つに分かれているのが見えた。ここを左に曲がれば私の家へと続く道。だけどそれを伝えるより先に、朝霧君に向かってこう言った。
「送ってくれるの、ここまででいいや。これから、お母さんのお見舞いがあるんでしょ」
朝霧君が向かおうとしている病院は、この道を右に曲がった先にある。私の家まで送ってもらったら、その分遠回りになるだろう。
「いや、でも……」
「私ならもう大丈夫だって。ほら」
朝霧君が自転車のブレーキをかけた
「それより、早くお母さんのところに行ってあげなよ」
「うーん、本当に大丈夫か?」
「平気平気。ここまで送ってくれてありがとね」
心配そうにたずねられるけど、実際、少し前までクタクタだった体も、自転車に乗せてもらっている間にだいぶ
「それに、あの時助けてくれてありがとう」
毛玉に襲われた時、もしも朝霧君が声をかけてくれなかったら、
「あ、ああ……」
朝霧君は
「なあ、
「何?」
首をかしげながら、次の言葉を待つ。だけど、朝霧君の口からその続きが出てくることはなかった。
かわりに、ただ一言。
「……いや、なんでもない」
それだけ言って、
「何よ。言いたいことがあるならちゃんと言ってよ」
「いや、本当に何でもないんだ」
「……そう?」
よくわからないけど、たぶんこれ以上聞いてもきっと朝霧君は何も答えてはくれないだろうと、なぜだかそう思った。
「じゃあ。帰ったら、ケガしてないかもう一度よく見ろよ」
それだけ言って、朝霧君は病院へ向かう道へと漕ぎだしていく。
最後、彼はいったい何を言いかけたのだろう。不思議に思いながらも、小さくなっていく
「ありがとねー」
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