第二章 肝試しの怪

10話

「おはよう朝霧君。昨日はありがとね」

 よくあさ、学校に着いて朝霧君に声をかけると、彼もあいさつを返してくる。

「昨日も言ったでしょ。平気だって」

「ケガ、大丈夫だったか?」

 そう言って、回復していることをアピールしてみせると、急に横から声がした。

「よう晴。って、五木?」

 声をかけてきたのは相良君。朝霧君も返事をすると、その後相良君に向かって頭を下げた。

「五木から、口止めを頼んでくれたって聞いた。めいわくかけたな」

「まあ、アイディア出したのはおれだしな。その……だれにも言わないでくれるよな?」

 相良君はバツの悪そうな顔をしながら、けいかい気味に聞いてくる。

だまっておくわよ。昨日、帰りに朝霧君と会って話したの」

「帰り? ああ、晴が病院に行く途中か?」

 朝霧君のお母さんが入院してるというのは、どうやら相良君も知っているみたいだ。

 そうしていると、急に教室の前からクラス全体に向けて声が飛んだ。

「みんな、今度の土曜のことでちょっといい?」

 見ると、黒板の前にクラスメイトの一人が立っていた。少し前から、次の土曜日にクラス全 員で集まって何かしようという案があって、かのじょはその発案者の一人だった。何をするかはみんなの意見を聞いて決めると言っていたけど、どうやら決定したみたいだ。

「今度の土曜、みんなできもだめしすることに決まったから。なるべく全員参加でお願いね!」

 元気のいい声がひびくと、クラスのいたるところから声が上がる。わたしはそれを、顔を引きつらせながら聞いていた。

 私だって、おおぜいで何かするのは嫌いじゃないけど、他にもボウリングとかカラオケとかこうはいっぱいあったはず。なのに、なぜ肝試しになったんだろう。おもしろがっている人もいたけれど、私は参加しようって気にはなれかった。するとそんな私の隣で、朝霧君が言った。

「俺はやめておく」

 このじょうきょうでもハッキリ断れるたんりょくには感心するけれど、これはチャンスかもしれない。うまく便乗すれば、私も肝試しに参加せずにすむかも。ところが、そう都合よくはいかなかった。

「なんだよ朝霧。付き合い悪いぞ」

 言ったそばからていてきな声が飛び、朝霧君も困り顔になる。どうしよう。朝霧君に味方して、なんとか自分も参加せずにすむ方向に持っていけないかと考える。

 だけど私が口をはさもうとする前に、横にいたさが君までも参加をすすめてきた。

「何か予定でもあるのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」

「なら行ってもいいじゃねえか」

  まずい。ここで朝霧君が折れたら、ますます私も行きたくないとは言えなくなってしまう。

「行きたくないなら無理にさそわなくてもいいんじゃないの?」

 やんわりと朝霧君に味方をするけど、残念ながらクラスのふんを変えることはできなかった。

「なるべく全員参加って言ったろ」

「肝試しって言ったって、別に本気でやるわけじゃないし、行こうぜ」

 私のえんもむなしく、朝霧君もだいに周りの声にまれていっている。そしてとうとう……

「じゃあ……参加する」

 ダメだったか。朝霧君も参加することが決まり、ますます嫌だとは言えない空気になってしまった。朝霧君がもっと我をってくれたら私も断れたかもしれないのに。そんな完全な八つ当たりを心の中でしながら、結局私も行かないとは言いだせないまま、参加することになってしまった。


 辺りがすっかり暗くなった頃、学校からほど近い場所にある小さな山の入口では、だんこの 場所では決して聞こえることのない騒がしい声が響いている。

 予定されていた、肝試しの日だ。雨がって中止になってくれればと、おうじょうぎわ悪くいのったりもしたけど、見上げた空には雲一つなかった。ちゅうはんくもって月の明かりを隠さないだけマシかもしれないと思うことにする。

 すでにほとんどの人は仲の良い者同士でグループを作っていて、持ってきたおこうかんして いる子もいた。

 かくいう私もお菓子は持ってきた。そしてそれ以外にも、ライトやお守りだって持参している。お守りは普段は学校の通学鞄につけているものだ。といっても残念ながら今まであまりごやくを感じたことはないけど、それでも気休めになればといちおう持ってきた。

「ずいぶん気合入ってるね」

 お守りを握りしめる私を見て、隣にいるが言う。

 私はせいふくだけど、彼女をふくめ、多くの子はふくで来ている。普段学校でしか会わない人も多 いから、こんな風に大勢が私服でいるというのはなんだかしんせんだ。これで、やるのが肝試しじゃないならよかったんだけどね。

「だいたい、何で肝試しなのよ」

「今さらそれ聞く? かくしていた人達たちが、最近妖あやかしモノのアニメにはまったらしいよ。ほら、この辺がせいになってるやつ」

 それでか。そのアニメなら私も知っている。少女まんが原作で、今までに何度もシリーズが放送されているそのアニメは、まちみのモデルとしてこの地方の風景が使われていた。

 一息ついて辺りを見回すと、遠くにいた朝霧君の姿が目に入る。朝霧君も、私と同じく、制服で来たらしかった。参加をいやがっていたけど、教室で約束させられた通り、結局来たみたいだ。

「よーし、みんなそろってるな」

 イベントの発案者が出てきて全員がそろったのをかくにんすると、みんなにコースとルールについての説明を始めた。

 今回行う肝試しのないようは、この山道のおくにあるほこらまで二人一組で行って、そのしょうめいとして祠の前に置いてあるカードを持って帰ってくるというものだった。

 山道といっても急な坂道じゃない。きちんとしたそうはされていないけど、今回コースになっているルートはみちはばもそれなりにあってわかりやすいから、暗くても迷う心配はないだろう。

 ペアになる組み合わせと出発する順番、おどかし役を誰がするかはこれからくじで決める。

 肝試しでペアというと、男女の組み合わせで行うカップルイベントのようなものも多いけれど、あいにくこのクラスは女子の数が男子の三倍近くいるから必ずしも男女の組み合わせになるとは限らない。

  私の相手は誰だろう。くじを引き、係の子が番号を読み上げながらペアとなる人を探し始めると、すぐに返事が聞こえてきた。

「相良君 ――」

「よう。五木か」

 相良こう。彼が、この肝試しで私のペアとなる相手だった。

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