妖しいクラスメイト ~だれにも言えない二人の秘密~

無月兄/カドカワ読書タイム/カクヨム運営公式

第一章 瞳に映る妖たち

1話

 人間、だれでも人には言えないみつの一つや二つ持っているだろう。それは、わたしいつだって例外じゃない。

 というか私の場合、かかえた秘密は人とくらべても、相当特別なものだと思う。だけどまさか、そのせいであんな体験をすることになるなんて、思ってもみなかった。

 これは私と、あさぎり君というクラスメイト、秘密を抱えた二人の物語。


「行ってらっしゃい。車に気をつけるんだよ」

 なかにおちゃんの声を受けながらげんかんを出ると、目の前に広がるのは、の合間の青空。それに、すっかりれた田んぼと田舎いなかみちだ。

 両親がくなり、お祖母ちゃんの家でらすようになってから、もう少しで丸二年。今ではすっかり慣れたけど、最初のうちはこの土地の田舎ぶりにおどろいたものだ。

 テレビのチャンネルは少ないし、線路を走るのはかたみちが一時間に一本しかないディーゼルカー。地元の人は汽車とぶ。一時間に一本なんて、おくれたらこくかくていだよ。


 今年から通っている高校を選んだのも、そんなめんどうな汽車通学をしたくないから、歩いて通えるところに、というじゅんな動機もいくぶんあった。

 ようやく広い道へと出ると、目の前から小学生のいちだんがやってくるのが見えた。横に広がって歩いていたので道を空けてあげようと、わきへとよける。私の目がその姿すがたをとらえたのは、そんな時だった。

 目にしたとたん、サッと血の気が引き、体が冷たくなるのを感じた。とっさにそれをかいから外そうと、顔を下へと向け自分の足元だけを見る。

 私は気づいていない、何も見ていない。

 必死に自分にそう言い聞かせながら歩いた。いつの間にか手はつめむくらいにきつくにぎられ、今にもふるえだしそうになるのを何とかこらえている。

 前からやってきたどもたちは、そんな私を気にすることなく、ワイワイさわぎながら近づいてくる。

 私がこんなにもこわがっているなんて、気づいてもいないだろう。まして怖がっている『あれ』のそんざいなんて、目にも映っていないにちがいない。

 そいつは子供達の真ん中に立ち、かれらといっしょになって歩いていた。

 遠目に見ただけだと、つうわかい女の人のようにも思えた。だけど近づくにつれて、その顔がびっしりとうろこおおわれていて、目がじゅうけつしたように真っ赤になっているのがわかる。

 もちろん、そんな人間なんているはずがない。つまりそこにいるのは、人間でない何かだ。

 そんなものを見れば、普通なら悲鳴を上げるだろう。けれどそれが自分達の真ん中にいるにもかかわらず、子供達は誰一人声を上げない。それどころか、目を向ける者さえいない。

「やっぱり、私以外には見えないんだろうな」

誰にも聞こえないように小さくつぶやくと、うつむいたまま足を進めた。決してあれの方を向いてはいけない。目を合わせるなどもってのほかだ。

 ああいったやつらは、こちらが気づかなければ、ほとんど何もしてくることはない。どうして子供達と一緒になって歩いているかは知らないけど、子供達がその存在に気づかないかぎり、きっと無害だろう。

 けど、こっちが見えていることがわかると、しつこいくらいに追い回し、時にがいを加えてくることだってある。多くのけいけんから、私はそれを知っていた。

 私が見えていることに気づかれないように、決して目を合わせることなく、けいはんのうをすることもなく、そっと歩く。

 子供達とすれ違うしゅんかん、その女が私に目を向けたように見えた。もしかすると、それはただのかんちがいだったかもしれない。だけど、元々怖がっていた私のしんぞうけるには十分だった。

 思わず走ってげだしたくなるけど、その気持ちをグッとこらえて、何ごともなかったように歩き続ける。自分が見えていると相手にさとらせないことが、さいぜんたいしょほうなのだ。

 もういいだろうか。しばらく歩き、子供達の声が聞こえなくなったところで足を止める。かえり、ついてきていないかたしかめたかったけど、もしも今、後ろにいるかと思うとそれもためらわれた。

 そう思った次の瞬間だった。誰かに、急にかたたたかれたのは。

「きゃあ!」

 思わず悲鳴を上げ、振り返る。見るとそこには自分と同じせいふくを着た長いかみの女の子が立っていた。

……」

 私は驚きながらかのじょの名前を呼ぶ。彼女はやま美紀。私と同じ高校に通うクラスメイトだった。

「ちょっと麻里、いくらなんでも驚きすぎでしょ」

 美紀があきれた顔で言うけど、こっちにもじょうというものがある。

 彼女を見ると同時に、そっとその後ろをかくにんする。さいわい、さっきの鱗の女の姿はどこにもない。うまくけられたようだ。

 ようやく安心すると、美紀に作ったがおを向けながらゴメンと言う。

 美紀も、私が本当は何におびえていたかには気づいていないだろう。

 美紀は私にとってクラスメイトであると同時に、一番仲の良い友達だった。けれど、そんな彼女にも、今何があったのかは言わなかった。いや、言うことができなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る