5話
放課後。ホームルームも終わり、みんなが続々と教室の外へと出ていく。もちろん私達たちも例外じゃない。
「
「そう。しごかれに行ってくるよ」
美紀はそう言うけれど、その表情は楽しそうだ。ソフトボールを始めたのは高校に入ってか らだけど、元々体を動かすのが好きで
「
「私はいいよ。やりたいこともないし。じゃあね」
そう言って美紀と別れる。
私は別に運動
だけど他に趣味がない分、読書量はそれなりに多いと自負している。今もちょうど、図書室 から借りていた本を読み終え、これから返しにいくところだった。
(朝霧君だ)
そのうち一人は、昼休みに話題に上っていた、クラスメイトの朝霧君だった。
何か用があるわけでもないし、ついさっきまで同じ教室にいた彼。それでも、昼間の話の印象がまだ残っているのか、こうして見かけると、つい
もう一人にも目をやると、こちらも同じクラスの相良
朝霧君、まさかあんな噂になっているなんて、思ってもいないだろうな。
そんなことを考えながら、二人のそばを
「お前の好きな子知ってるか聞かれたんだけど、三組の
たまたま聞こえてきたその言葉に、私の足が止まる。二人は
ここで聞いていたら、朝霧君の好きな相手が誰かわかるかもしれない。ふと、そんな考えが 頭をよぎる。
もし何かわかったら教えてほしい。そう
いけない。朝霧君が何か言いだす前に、早く離れないと。そう思ってこの場を立ち去ろうとしたけれど、幸か不幸か、その前に話の続きが聞こえてきた。
「ああ」
小さく
「でもお前、好きなやつって――」
相良君がためらいがちに何かを言いかけると、朝霧君もそれを察したのだろう。最後まで言い終わる前に、答えが返ってくる。
「いない。断るために、好きな子がいるって言った」
「……やっぱりか」
答えを聞いて、相良君が小さく声を上げる。一方、それを告げた朝霧君は、
「断ることができれば、理由はなんでもよかったんだ」
これ、聞いちゃまずいやつだった。盗み聞きしておいて今さらだけど、改めてそう思う。
他に好きな人がいるなんて、告白を断るための決まり
これ以上聞くわけにはいかない。そう思い今度こそ立ち去ろうとするけど、急に動いたのがまずかった。動いた
二人が同時に振り返り、私の姿をその目にとらえる。
「――お前、
見つかってしまった。盗み聞きをしていたという事実と、聞いてしまった内容、その両方に気まずさを感じる。
「ご、ごめん!」
そうして廊下を
「ちょっと待ってくれ!」
見ると、外から相良君が息を切らして駆け
「今の、他のやつには言わないでくれるか」
ああ、やっぱりそれを心配するよね。告白を断るかどうかなんて
そう思っていると、相良君はさらに言葉を続けた。
「あの断り方教えたの、
「……どういうこと?」
私だって気まずいんだし、できることならさっさと
「前にあいつに、告白ってどうやって断ればいいんだろうって相談されたんだ。その時は、あいつが本当に告白されたなんて知らなかったんだけどよ……」
「知らなかったって。そんな相談された時点でだいたいわかるでしょ」
「もちろん、俺だってそうは思ったよ。けど、
「他に好きな人がいるって嘘を言えって?」
「まあ、そうなるな。本当はそんなやついなかったとしても、どうせ振ることに変わりはないんだから、そう
今さらながら、嘘をつくのを勧 すす めたことに
「
そう答えると、相良君は安心したようにホッと息をつく。
私だって盗み聞きしてしまった後ろめたさはあるし、
「悪い。本当に助かった」
申し訳なさそうに礼を言う
「で、肝心の
追いかけてきたのは相良君だけで、朝霧君の姿はどこにもない。そこに不満があるわけじゃないけど、
「それがあいつ、嘘をついて告白を断ったのは自分なんだし、それで
「まあ、別にいいけど」
相良君が心配する気持ちもわかる。むしろ、これで仕方ないってアッサリ言える朝霧君の方が、
下手にしゃべられ話に尾ひれでもついたら、必要以上に責められかねない。私だったら、そ んなの
そうは思っても、本人がいない以上、それを聞くこともできない。とりあえず、改めて相良君の言葉に
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