第16話 制御

 !?


 俺の目の前にはリンがいた。かばんさんに頼まなかったのか?でもなんでリンが?こういう時って大体アオがいたんだ。


 うーん、でもこうしてみてみるとリンもかわいいなぁ。ロングにキリンの模様が付いてるって。この角みたいなのどうなってるんだろう。


 こうして俺は何を思ったかまたあの時のようにリンを撫でだす。


 おぉ、髪はとてもサラサラしている。いつ手入れとかしてるんだろうか、これもサンドスターの力ということだろうか。


「何してるのグン?」


 俺は学んでいなかったのだ。あの時と同じようにリンが頬を赤らめて俺を見ている。それに気づいた俺はあの時と同じように即座に手を離す


「ごめんリン、起こしちゃった?」


 前と同じ発言をする。だが返事はあの時と違う。相手がリンだからだ。


「まだ撫でたければ撫でててもいいわよ?」


 でもその返事は予想外すぎたな。まさかそんな返事が来るとはな。


 これは遠慮すべきだろう。彼女自身は良いと言っているがこれで続けてしまうと俺のメンツが立たない。


「いや、遠慮しとくよ。もう起きようか。」


 俺が体を起こす。ベッドの外に出ようと思ったがそれはリンをまたぐことになってしまうのでリンが先に出るのを待つ。が、リンが動く様子はない。心なしかそわそわしているようにも見える。


「リン?まだ寝るの?」

「えっ?じゃあそうするわ。一旦出るからちょっとまってね。」


 リンがベッドから出てくれたのでそれに続いて俺も外に出る。リンは宣言通りまたベッドに戻っていった。


 俺がリビングに入るとそこにはすでに起きていたアオとかばんさんが何やら話をしていた。昔話だろうか。


「おはようアオ、かばんさん。」

「おはようグン。」

「おはようございますユウ…グンさん、早起きですね。」


 なんで言い直したんだろうか。「ユウヤ」って聞いて俺だと思うフレンズは今のところ誰もいないだろうし分かるように呼び方を変えてくれたのか。


 俺も「ユウヤ」って呼ばれるより「グン」って呼ばれるほうがしっくりくる。慣れってやつだろう。


「今朝ご飯作りますね。」


 かばんさんがエプロンをつけながらそう言う。


「ありがとうございます。」


 俺は昨日と同じように椅子に座って待つ、アオも同じようにして隣にいる。窓から入ってくる日光が眩しい。


 しばらくしてかばんさんがトーストを作って持ってきてくれた。


「はい、どうぞ。」

「「いただきます。」」


 おいしい、朝にはちょうどいい軽さだ。焼き目の香りとバターの味がおいしさを引き立てている。


 これほんとにいいな。バターを塗っただけかと思ったがどうやらそうではないらしい。何かバターとは違う甘さを感じる。帰ってきたら作り方教えてもらおう。


「ごちそうさま。おいしかったです。」

「お粗末さまです、カコさんのところに行くんですよね?」


 かばんさんが質問を飛ばしてくる。カコさんのところに行くつもりではあるが何かあるのだろうか。道は覚えているし、朝早いとまだ開いてないとか?


「そうですけど、何か問題があるんでしょうか?」

「道、分かるんですか?」


 病院に行けばいいんじゃないか?もしかして別の建物だったりするのだろうか?そうだったらお手上げだな。


「カコさんはもう病院にはいませんよ。」

「そうなんですか…」


 予想は的中。そうなってしまっては俺にはどうすることもできない。


「カコさんとミライさんは普段研究所にいるので研究所に行かないと会えませんよ。僕もみんなが起きた後に研究所に行くのでそれまで待っていてください。」

「分かりました。」


 そう言われて俺は借りている部屋に戻る。が、落ち着かない。


 暇で仕方ないのだ。リンはまだ寝ているみたいだしこの辺の事分からないから一人で外に出るわけにもいかない。


 さっきのトーストの作り方教えてもらうか。


 俺はリビングに戻る。


「かばんさん、さっきのトーストの作り方教えてくれませんか?」

「いいですよ、と言っても簡単ですけどね。サーバルちゃんとアライさんたちが起きてきたら一緒に作りましょうか。」


 部屋に通ずるドアがガバッと開く。


「うみゃ!おはおうかばんちゃん!」

「おはようサーバルちゃん。」


 後ろにはアライさんとフェネックさんのコンビもいた。


「まだ眠たいのだ…」

「おはようかばんさーん。」

「おはよう2人とも、今朝ご飯作るね。」


 そしてかばんさんが俺を手招きするので彼女のところに行く。


「教えてくれるんですね?」

「はい、まずは切った食パンにバターを塗ります。」


 慣れた手つきでバターを塗り進めていく。結構たくさん作ってきたのだろうか。


「次に蜂蜜を軽めに塗っていきます。」


 格子状に薄く蜂蜜がかけられていく。あの甘さは蜂蜜だったのか。


「これをトースターで3分、余熱3分で焼いたら完成です!」


 なるほど、結構簡単に作れるんだな。


「これからカコさんのところに通う時は自分で勝手に作ってもいいですか?」

「いいですよ。完成したらみんなのところに持っていきましょうか。」


 パンが焼き上がるのを待つ。さっき俺が座っていたところにはアライさんが座っている。日が昇っているからだろう。日光は当たっていない。


 そんなことを考えていたらパンが焼き上がった。俺とかばんさんでそれを運ぶ。


「できたよ、どうぞ。」


 3人の前にトーストを置く。


「「「いただきます。」」」


 3人がトーストを食べ始める。


「やっぱり朝はこれが無いと始まらないのだ。」

「そーだねー、いつもありがとうねーかばんさーん。」

「かばんちゃんのトーストは飽きないね!」


 そんな中かばんさんは外に出る準備をしている。


「ありがとうみんな、それじゃあ行ってくるね。グンさんもね。」

「はい、行ってきます。」

「行ってらっしゃいなのだ。」

「行ってらっしゃい!」


 みんなに見送られて俺たちは家から出る。


 暖かい日の光と優しく吹く風が心地よい。


_____


 研究所に着いた。ここもなかなかに大きい。俺はかばんさんに続いて中に入る。


「カコさんの部屋はここの階段を一番上まで登ったその先です。」

「分かりました、ありがとうございます。」


 俺は言われた通りに研究所の中を進む。


 カコさんの部屋の前に着いた。俺はそのドアをノックする。


「どうぞ。」


 そう返事があったので俺は中に入る。


「どうもカコさん。先日はどうもありがとうございました。」

「丁寧にどうも。それで、なんの用?」


 俺はここに来た目的を述べる。


「この力をコントロールできるようになりたいんです。カコさんなら分かると聞いてきたんですが…」


 こう言うとカコさんが呆れたように返事をする。


「一体誰よそんなこと吹き込んだのよ…。まあいいわ、教えてあげる。そもそもあなたは特殊な体質だってことはミライから聞いてるわよね?」

「はい、詳しくは聞かされていませんが。」

「理由は知らないけどあなたは感情からサンドスターを生み出しているのよ。」


 感情から?いったいどうやって…ってそれはさすがにカコさんにも分からないか。


「早朝に感情が大きく動いたっていう経験ないかしら?」


 言われて見れば確かにそうだ。起きたばっかりの時は感情に左右されがちだった。


「フレンズは寝ている間にセルリアンに襲われないように体内のサンドスター量を少なくするのよ。普通のフレンズは起きた時に空気中から補充できるからいいのだけれども、あなたは空気中からではなく感情から補充しているのよ。」


 ほう、それがこの力と何か関係あるのだろうか?


「ここまで言って分からないのね…つまりあなたのその力は感情によって制御されるってことよ。」


 なるほど。つまりどういうことだ?さっぱり分からないんだが。


「もうなんで分からないのよ。その力は一般的に”野生解放”と呼ばれるものよ。野生解放は大量のサンドスターを消費するの。感情を強めればその力が出てくるし、弱めればその力は消える、といったところよ。」


 感情を強く…か。いまいちイメージが湧かないな。


「その拳銃はけものプラズムで構成されているの。けものプラズムって言うのはイメージしたものが作り出せるのよ。その拳銃に弾を込めるくらいなら野生解放しなくてもできると思うわ。そして、このけものプラズムにもサンドスターを消費する。」


 けものプラズムか。ということはサンドスターさえあれば俺はこれを使い放題ということか。


「あなたの力ならうまく使えるようになれば四神くらいには強くなれるはずよ。」


 四神?が一体何かは分からないみんなを守れるならそれでいい。


「でも怒りにだけは注意しなさいよ。あなたがサンドスター欠乏症に陥ったのも怒りによってサンドスターを使いすぎたからよ。」


 そういうことか。確かに俺は怒りを覚えた直後に意識が途切れている。


「私から教えられることはいまのところこれだけよ。せいぜい感情の扱いには気を付けることね。」


 感情の扱いに気を付けるとか言うワードはなかなか威力があると思ったがまあその通りなので俺は何も言わない。


「ありがとうございます。でも感情を制御か…」

「自分の感情のままに生きてみたらいいんじゃないかしら。サンドスターが湧き出てくる感覚が分かるはずよ。」


 感情のままに…か。


「あ、でもデータとか進捗は気になるから毎日ここに通ってね。」


 でも実際に制御出来て使えるようになったとしてもどこで試せばいいんだ?


「この研究所にも地下室があるからそこを使いなさい。それに弾だって残ってるでしょう?試し撃ちでもしてきたら?」


 そんな俺の疑問をくみ取るようにカコさんが答える。いったい何者なんだ?


 そして俺の前まで歩いてきて俺にあるものを渡す。


「はいこれ、地下室の鍵。しばらく使う予定もないし、あなたが持っていてくれていいわ。無くさないでよ。」

「ありがとうございます。」


 俺はカコさんの部屋を出る。が、肝心なことを忘れていることに気が付く。


「地下室の場所聞いてねぇや…」


 まあミライさんかかばんさんが知っているだろう。が、ミライさんやかばんさんがどこで研究をしているか分からない。


 手あたり次第部屋をめぐっていけばそのうち見つかるだろう。


 まずはここだ、俺はドアをノックする。


「はーい、入ってもいいですよ。」


 ビンゴ、運がいいな、この感じは多分かばんさんだろう。


 俺は中に入って目的を伝える。


「失礼します、地下室がどこにあるのか分かりますか?」


 するとかばんさんは不思議そうな顔をして答えた。


「地下室?ここに地下室があるなんて初めて聞きました。なのでちょっと分からないです、すみません。」

「そうですか、忙しいのにすみません。研究頑張ってください。」


 そして俺は部屋を出る。次はミライさんを探そう。


……


 ここで最後か…。全部の部屋を回ってきたが残っているのはここだけである。と言っても6部屋ほどだけだが。


 例の通りドアをノックする。


「はい、空いてますよ。」

「失礼します、地下室がどこにあるか知ってますか?」


 するとミライさんは知っているようで教えてくれた。


「地下室ですか?ちょうどこの部屋から入れますよ。こちらにどうぞ。」


 ミライさんに手招きされたので俺はそちらに行く。そこには地下室に通じているであろうハッチがあった。


 俺はカコさんに渡されていた鍵を鍵穴であろう場所に刺して回す。


 ガチャ、という音がしたので扉を持ち上げる。そこには予想通り地下室に続く梯子があった。


「しばらく使っていなかったのでかなり汚れているかもしれませんが許してください。」

「大丈夫です。ありがとうございます。」


 そして俺は梯子を下りていくと同時にハッチを閉める。閉めると同時に俺は暗闇に包まれる。


 まあそりゃそうだろう、ここは地下室。光なんて入ってくるわけないのだ。


 俺は何時しかにも使った懐中電灯を取り出して口にくわえる。梯子は思ったよりも長くはない。


 一番下まで着いた俺は部屋のドアに手をかけるが、隣にあるものが付いていることに気が付いた。


 何かのスイッチに見える。この中の電気でも付けられるのだろうか。一応をオンにしておこう。


 そして中に入る。やっぱりスイッチだったのだろうか、中は明るい。


 試し撃ちでもしてみたらどうだとは言われたものの的が無い。うーん、イメージすれば作れるんだろう?何か四角いものでも作ってみるか?


 俺は立方体を形成するように念じる。


 すると目の前に四角いものがふわりと現れた。だいたいこんな感覚か。結構疲れるな…慣れるまではつらいかもしれない。


 とりあえず拳銃に弾が入っていることを確認するか。


 俺はマガジンを抜いて弾が入っていること確かめる。どうやら3発ほどまだ入っているみたいだ。


 相変わらず赤黒い。これが怒りで生み出されたサンドスターなのだろうか?


 何はともあれ撃ってみるか。


 作り出した立方体を地面に置き、拳銃のセーフティを外してトリガーに指をかける。


 シュン…。


 思ったよりも音も反動も小さい。でも銃ってもっと大きな音がするんじゃないのか?この先端についている棒が音を抑制しているのだろうか。


 お?ねじると取れるな。一回外して撃ってみるか。


 パァン!!


 うっ、これは結構耳に来るな…。これはこの棒を付けたまま使ったほうがいいな。


 最後にもう一発撃ってから出るか。


 シュン…。


 やっぱりこっちのほうがいいな。スライドが後ろに下がったままだがこれはどうしたらいいのだろうか?


 とりあえずマガジンを抜くか。


 よく見るとスライドに引っかかっている部分があった。これを下に下げればスライドが前に出るのか?


 カチャ。


 その音と共にスライドが前に出る、そしてトリガーを引く。この状態にしておけばいいだろう。


 それにしてもけものプラズムで作った物ってどうすれば消せるんだ?


 マガジンは残しておくとしてこの立方体はどうすればいいのだろうか。


 俺は穴が開いた立方体を手に取り消えるように念じる。すると出てきた時の動きを逆再生するかのようにふわりと消えて行った。


 どうやら形成に使ったサンドスターは帰ってこないみたいだ。その代わり作り出す時よりは疲れない。


 さて、弾も撃ち切ったし帰るか。でも何となくもう少しここにいたお気がする。


 鍵まで俺が預かっているということはここは実質俺の部屋なのでは?少しくらいならここで休んでもいいよな。


 俺は部屋の真ん中で横になる。


 そうだ、一応いつでも使えるように弾を込めておくか。ん?この拳銃よく見たら刻印があるぞ。FN 5-7?この拳銃の名前だろうか。それにこの5.7x28mm弾ってのは使用する弾薬のことか?


 丁寧なもんだ、わかりやすくて助かる。俺は意識を集中して30発ほど弾を作った。かなりしんどい。サンドスターを使いすぎたか?


 とりあえずマガジンに弾を込め…。


……


 あれ?寝てたか?


 俺はマガジンと弾を握ったまま眠っていた。寝ている間はサンドスターが減る。今回はその逆でサンドスターが減ったから寝てしまったのか。


 とりあえず込められるだけ込めておこう。


 20発がマックスかな?結構たくさん入るんだな。残った弾は…ポーチにそのまま入れとくか?いや、何か箱を用意したほうがいいか。


 中身が空洞の箱くらいなら作れるだろうか?


 いや、今は寝起きだ。サンドスターを消費するのはやめておこう。このままだと倒れかねない。


 うーん、弾はここに置いておいてもいいか。どうせ俺しか入らないし。


 とりあえずもう出るか。どのくらい寝てしまったのだろうか?


 梯子を登って内鍵を開け、地下室を出る。


 ミライさんがいなかった。ふと部屋の外を見る、空は暗くなっていた。


「ラッキー、今何時?」

「今ハ 7時丁度ダヨ。」


 なんだって?俺寝すぎでしょ。急いで帰らないと。


 地下室の鍵を閉め、俺は急いで外に出てかばんさんの家に走る。


「はぁ…はぁ…」


 俺は家のドアを開け、かばんさんの家に入り、リビングのドアを開ける。


「おかえりなさいグンさん。」

「おかえりグン、ずいぶん遅かったじゃないか。心配したんだよ?」


 まあそうだろう、だって7時なんだから。


 心配されてちょっと嬉しくなった。何となくだがサンドスターが増えた気がした。不思議な感覚だ。


「ありがとう。かばんさん、今から何か作れますか?無理なら自分で作ります。」

「ちゃんとグンさんの分も用意してありますよ。こちらにどうぞ。」


 かばんさんが料理を出してくれた。俺はその席に座って食べ始める。


「私はちょっと用事があるので、片付けはお願いします。」

「分かりました。ありがとうございます。」


 俺は出された料理を食べ進める。食べ進めるのだが…。


「どうしたのアオ?なんか俺の顔についてる?」


 アオにめちゃくちゃ見つめられる。結構恥ずかしいからやめてほしいんだけど…。


「いいや、いい顔欲しいなと思って。」

「もう、からかってるの?やめてよ、まったくもう。」

「ふふっ、ごめんごめん。でも、いい顔頂いたよ♪」


 やっぱりからかってるんだな?


「私は先に部屋に戻っているよ。ゆっくり食べてきなよ。」


 そう言い残してアオは部屋があるほうに歩いていく。それを見送った俺は止めていた手を動かす。


 食べやすくはなった、でも寂しい。早いところ食べて俺も部屋に戻ろう。


 俺は急ぎでご飯を食べきり、皿を洗って部屋に歩き出す。外には星が広がっている。さっきまで外で見ていた景色だ。


 そんな窓の外を横目に俺は部屋に入る。そこにはアオしかいなかった。


「あれ?リンは?」

「リンはサーバルたちと寝るんだってさ。」


 そうか、彼女も旧友と話すくらいしたいのだろう。それならアオも行けばよかったのに。


「アオは行かなくていいの?」

「話ならいつでもできるからね。ところで…」


 アオが俺のほうに寄ってくる。オッドアイの綺麗な瞳が俺を見つめる。


 見つめられてると今まで感じなかった感情が湧いてくる…この感情はいったいなんだ?


 胸がドキドキして締め付けられるような…でも恥ずかしさとは何か違う…。


 それと同時にサンドスターが湧いてくる感覚もある。この感情は特に多く感じられる。


「約束、今じゃダメかい?」


 そう言われてはっとする。


「ダ、ダメだよ。」

「どうしてなんだい?」


 やばい、今回は引いてくれそうにないな。何か話をそらさないと。


「えっと…そうだ、絵を教えてよ。」

「絵かい?別にいいけど…急にどうしたんだい?」


 よし、なんかうまくいった!


「なんとなく絵が描けるようになりたいって思ったんだ。」

「分かったよ、でも絵は一筋縄じゃいかないよ?」


 そう言ってアオはスケッチブックとペンを2つずつどこからか取り出した。けものプラズムだろう。


「はい、とりあえずこっちに座って何か描いてみて。」


 2人で椅子に座って机に向かう。そして俺は言われた通り絵を描く。


 まあ初めからうまく描けるわけなんてない。俺が描いた絵はバランスがぐちゃぐちゃだった、


「絵を描く時はね、こうやっておおまかに形を描くんだよ。」


 そう言ってアオがすらすらと絵を描いていく。


「そうすればバランスがとりやすいんだ。ほら、こんな感じ。」


 そう言ってアオが完成させたのは拳銃を構えた俺の絵だった。


「すごい…」

「練習すれば描けるようになるよ。」


 よし、とりあえず言われた方法で1枚描いてみるか。


 俺はペンを動かす。しばらくして1枚描き終える、アオを描いた…つもりだ。多少良くはなったけどまだバランスは良くない。


「うん、さっきよりもずいぶん良くなってるよ。これならすぐに私を超えられるかもね。」

「さすがに超えられはしないよ、俺よりもたくさん描いてるんだから。」


 アオは少し笑ってこう答える。


「それ、私だろう?1年後が楽しみだよ。それじゃあそろそろ寝ようか。」


 もうそんな時間なのか?


「ラッキー、今何時?」

「今ハ 11時34分ダヨ。」


 そんなに時間経ってたのか!?夢中になりすぎたな…。


 アオはすでにベッドの上の段にいた。


「ごめんアオ、こんな時間まで付き合わせて。」


 俺は昨日と同じように下の段に入る。


「いいんだ、グンのためなら何でもするよ。」

「そんな、何でもなんて簡単にいうもんじゃないよ。俺が変なお願いをしたらどうするの?」


 アオは少し間をおいてから答えた。


「グンが望むことならするよ。それじゃあ、おやすみ。」


 またからかってるのだろうか?なんだかもやもやするけど俺ももう寝るかな。


「おやすみアオ。」


 俺は仰向けになって目を閉じる。しばらくして俺は眠りについた。

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