第7話 へいげんちほー

「あれ?」


 目を覚ますと俺はベッドの中にいた。しかも俺の隣には1人は入れそうなスペースがある。まだぬくもりが残ってるな。


 昨日寝る前何してたっけ?


 一番目に浮かんだのはアオの笑顔だった。あの顔が脳に焼き付けられて離れない。そしてそんな顔に見とれていたらアオが森に散歩しに行ったんだ。そうして俺はみんなが帰るのを待っているうちに眠ってしまったのか。


 でもおかしい。俺は昨日固い床の上で眠りについたはず。なんで俺はベッドの中になんているんだ?


 辺りを見渡した感じアオの姿が見えないから先に起きて活動をしているのだろう。


 ここは図書館の階段を上った2階のような場所だった。


 あくびしながら階段を下りていくとアオがいたのであの後どうしたのか聞いてみることにしよう。


「おはようアオ。」

「おはようグン、よく眠れたかい?」

「そのことなんだけど散歩に行った後どうなったのか教えてほしいな。」

「アミメキリンのことかい?いいよ、話してあげる。」


_____


 勢いで飛び出してきてしまった。彼が私の顔をあんなに見つめるのが悪いんだ。あんなの照れるに決まってる。


 散歩してくるとは言ったもののさっきアミメキリンが森に入っていってからもどってくる気配がない。頭を冷やすのも兼ねて探しに行こう。


 しばらく歩いているとアミメキリンの姿があった。


「探したよアミメキリン、お腹の調子はどうだい?」

「あ、先生。お腹の調子は良くなったんですけど来た時よりも暗くなってて周りが見えずに困ってたところなんです。」


 まったく、夜目も利かないのに森は行ったりするからじゃないか。


「じゃあ2人で図書館に戻ろうか。」

「はい!先生!」


 2人で森の中を歩み進める。ふと空を見上げると星がたくさん輝いていた。


「綺麗だな。」


 無意識に声に出して感想を言ったのは初めてかもしれない。


「星ですか?確かにとっても綺麗ですよね。これも漫画の参考になりますかね?先生。」

「そうだね、この景色は記憶に残しておきたいな。スケッチしておこう。」


 スケッチしながら森を歩き、書き終えたぐらいに図書館に戻ってこれた。


 と同時に博士と助手のコンビもちょうど帰ってきたところみたいだった。


 4人で図書館に入るや否や視界に飛び込んできたのは倒れている人がいたことだ。私にはすぐ誰か分かった。


「グンじゃないか、こんなところで寝ていては風を引いてしまうぞ?」


 反応がない。それもそうだろう。彼は眠っているのだから。


 私は博士と助手に眠れるところは無いか聞いてみたところ、昔使われていたベッドがあるそうなのでグンをそこに運ぶことにした。


 ベッドの上に寝かせて布団をかぶせようと思った時ふと思った。


「私も入れそう。」


 そう、ベッドは結構大きかった。2人くらいなら入れそうだったのだ。


 1つのベッドで2人で寝る。必然的に距離は近くなる。


 彼のぬくもりを感じる。やさしくて、どこか頼れそうなぬくもりだ。


 そんなぬくもりを感じていると眠気が襲ってきたので私はそのまま眠った。


 朝起きると彼はまだ眠ったままだったので起こさないようにベッドを出た。このことは言わないでおこう。


_____


「そっか、アオが俺をベッドに運んでくれたんだね。ありがとう、よく眠れたよ。」


 さて、お話はこれくらいにしておいてへいげんちほーを目指す準備をしよう。


 準備が終わったころにアミメキリンちゃんも起きてきたのでコノハ博士とミミちゃん助手に軽く挨拶して早いところへいげんちほーを目指すとしよう。


 コノハ博士とミミちゃん助手がいたので軽く挨拶をして出ようと思ったがそうはさせたくないらしい。


「朝ご飯を作ってから行くのです!!」

「われわれははらぺこなのですよ。」

「えぇ…」


 めんどくせぇ…。


 なんかアオとアミメキリンちゃんがキラキラした目で見てくるし。しょうがない、作るか。


 厨房に着いたが俺カレー以外の作り方覚えてないぞ?どうしよう…困ったな。


 そういや昨日料理したときコノハ博士とミミちゃん助手が俺に渡してきたレシピブックがあったな。まだここに置いてあるはず。これ見て何とかするか。


 こうしてさっと料理を済ませた俺は4人のほうに足を進める。


「はいどうぞ。」


 とりあえずナポリタンとかいうやつをレシピ通りに作ってみた。


「なんですかこの細長いのは?」

「しかも柔らかいのです。」

「なかなか興味深い見た目をしているね。」

「これ食べても大丈夫なの…?」


 御託はいいからとっととお食べなさいよ。と思ったが言わない。


「「「「いただきます。」」」」


 ようやく食べだしたか…何分経ったと思ってるんだよ。ま、感想を聞かせてもらおうか。


「おぉ、この細いのに味が良く絡んでいておいしいのです。」

「トマトの風味がしておいしいですね。」

「こんなものを作ることができたのか、グンはすごいなぁ。」

「辛くない!これなら食べられるわ!!」


 アミメキリンちゃんは俺が作るもの全部辛いものだとでも思っているのかい??


 次料理するときはアミメキリンちゃんのだけ辛くしてやる。いい反応が見れそうだな。


 と、こんなことを考えているうちにもみんなは食べ進めていった。


「「「「ごちそうさまでした。」」」」

「お粗末様でした。これでもう出発しても問題ないよね?」

「われわれは満足なのです。」

「見送ってやるですよ。」


 よし、コノハ博士とミミちゃん助手もこう言ってることだし出発しよう。


 俺たちは振り返って手を振りながら図書館から出てしんりんちほーを後にした。


_____


 思ったより時間がかかってしまった。山こそなかったが距離はみずべちほーからしんりんちほーくらいの距離がある。すっかり日は昇ってしまってる。


「思ったより遠かったな…」

「この辺でお昼にしないかい?」

「いいですね!そうしましょう先生!」


 と、こうしてジャパリマンを食べていた時のことである。


「お前!どっから来たんだ!!」

「ん?俺?」

「そうだ!西、東、どっちから来たんだ?」

「パークの外からですが?」


 そういうと彼女らは分かりやすく困惑しだした。


「パークの外?パークの外ってジャパリパークの外ってこと?」

「それっていったいどっちにあるんだ?」

「とりあえず大将のところに連れて行こう。」


 え、そんな急に言われても…アオとアミメキリンちゃんは?


 おいなんでそんな満面の笑みでこちらを見てるんだ。まるでこうなるのがわかってたみたいな表情しやがって。しかも楽しんでないか?「いい顔頂き♪」と言わんばかりの表情だな。


 こうして俺は城のようなところに連れてこられた。そしてある一室の前に止まる。


「怪しい奴を連れてきました。」


 怪しくねえよ…パークの外から来たって…いや、十分怪しいな。


「入れ。」


 そう部屋の中から聞こえてくるや否やふすまが開けられた。


 すっげー怖そうなフレンズが奥で目を光らせていらっしゃるんだが。


「ほら入れ。」


 そう急かされたのでとりあえず中に入る。


「座れ。」


 なんだよ…怖いじゃないか。


「見たことない顔の者がいたので連れてきました。」

「どこから来た?」


 うへえ…このフレンズめっちゃ怖いんだけど。なんで教えてくれなかったんだよあの2人ィ。


「しんりんちほーから来ました。」

「なにしにへいげんへ?」

「えっとぉ…」


 ただの観光とか言えたもんじゃないよなこれ。どうしようなんて答えよう。


「やっぱり怪しいぞこいつ!!」

「まあ待て。お前、生まれは?」

「気付いたらパークの外にいた。生まれは分からない。」

「ふむ、私が処分しよう。下がれ。」

「「はっ!」」


 そういうと彼女は立ち上がった。


「ヒッ…」


 へ?処分って何?俺食われるの?こんなところで死にたくないよぉ。


 血の気が引いていくのが分かる。


「こ…殺すなら苦しくないようにしてくれ…」


 どうせ殺すんだったら楽に殺してくれ…。あぁ…もっといろんなところ旅したかったな…。


「ふぁあああああああ疲れた疲れたぁ。」

「へ?」


 ほんとに同一人物ですか?ってくらいの豹変ぶりなんだけど。


「いや~めんごめんご、最近妙な噂があったからみんな気が立ってるんだよ。楽にしなよ。」

「噂?」


 いったいどんな噂だ?気になるじゃないか。


「そう、私たちの似た姿をしたが空から襲ってくるらしい。なにしろ目撃されたのは一回だけだからその後の行方は分からないけど最近になっていろんなところを転々としだしたらしい。」


 あれ?それ俺のことか?だとしたら話にずいぶん尾びれが付いてるな。俺は死を覚悟して空から落ちてきたんだ。誰かを襲いたかったわけじゃない。


 と、そんなことを考えているとふすまがガバッと空いた。


「話は聞かせてもらったわ!その噂の真実はこの名探偵アミメキリンが明かして見せるわ!!」


 えぇどう考えても俺のことじゃん。やっぱり迷探偵じゃねえかよ。


 アミメキリンちゃんの後ろに目を向けるとアオが「ごめんね」って感じで手を合わせている。


 てかついてきてたんなら助けろよ!!!!


「アミメキリンちゃん落ち着いて、その噂は多分俺の事…あ。」


 背後にやばい気配を感じる。逃げたい、逃げ出したい。あの噂しか聞いていないなら彼女は俺がフレンズを襲ったと思っているはずだ。今度こそ俺をどうにかするつもりなんだろう。


「落ち着いてライオン、グンは悪い人じゃないよ。」

「タイリクオオカミがそういうなら一旦話を聞こうじゃないか。」


 アオ…ありがとう助かったよ。マジで食われるかと思った。


 こうしてアオがすべて説明してくれたことにより俺は誤解を解くことができた。


「いやーそういうことだったのか、グンさんごめんなさい。」

「呼び捨てでいいさ、改めてよろしく、ライオンさん。しかしそんな噂があったとは、いったい誰から聞いたんだ?」

「ヘラジカがこの城にきて注意喚起してきたんだよ。噂のやつがもうすぐうちに来るかもしれないってね。」


 ほほ~う?そのヘラジカのフレンズがそんなでっかい尾びれを付けた話をしたわけか。一度会ってみたいもんだねぇ。


「ヘラジカさんはどこに?」

「この城から反対側にまっすぐ行ったところさ。どうせ会いに行くんだろう?私も行こう。ヘラジカは何をしだすか分からんからな。」


 そんなこんなで4人でヘラジカさんが拠点としているところに来たが…。


「グン!私と手合わせしろ!」


 なんでこうなったんや。


_____


 拠点に着くや否やあからさまに強そうなオーラを発していたフレンズがいた。おそらく彼女がヘラジカさんだろう。


 気配に気がついたのかこっちを向いて警戒態勢に入っている。


 それもそうだろう。気配は4人なのに角度的に姿は俺しか見えないからだ。


「お前は誰だ。」


 俺が答えようとした時だった。


「彼は私の友達だ。傷つけるような真似は許さんぞ?」


 俺の横に立ち、低く、威厳のある声で言い放たれた言葉はヘラジカさんの警戒心を解くのに最適なものだった。彼女はその角に見立てた槍を下ろし、俺たちを快く受け入れてくれた。


「こんなところに来るなんてどうしたんだ?確かライオンの友達とか言ったな?名前は何だ?」

「グンです。パークの外から来ました。よろしくヘラジカさん。」

「あぁ、よろしく。タイリクオオカミもアミメキリンも久しぶりだな?かばんお別れパーティー以来だな。」


 ここにもかばんさんが来ていたのか?ここではいったいどんなことをしていったんだ?


「かばんさんってここでは何をしていったんだ?」

「かばんは私たちがまだ合戦をしてた時にあぶなくない遊びを考えて行ったんだよ。」

「合戦?」


 そんな危なっかしいことをしていたのか?


「かつて私たちはあの城をめぐって争っていたのさ。最終的には引き分けで終わったけどね~。」

「懐かしいなあ、あの時のライオンはとても強かった!」

「そっちだってなかなかの身のこなしだったよ。」

「それからはかばんさんが考えた遊びが主流になっていったよね。」


 かばんさんが考えた遊び?いったいなんだそれは?


「それってどんな遊びなんだ?」

「ボールを蹴って相手のゴールに入れたら勝ちという遊びだ!ところで私からも質問をしていいか?」


 俺に質問?まあたくさんあるだろう。そもそもパークの外から来てるんだ、そのことに違いない。


「なんでしょう?」

「君はパークの外から来たと言っていたな、いったいどうやって来たんだ?」


 このタイミングでそれ聞いてくるってことはすなわち俺が死ぬってことだな。どうやって答えればいいんですか?助けてアオ…。


 アオのほうを見るとヘラジカ組のフレンズと楽しくお話していた。俺が生死をさまよっている中気楽なもんだぜ!!


 もう隠すのもめんどくさい。さっきライオンさんが傷つけるのは許さないとか言ってたしどうにかなるやろ。


「俺は空から降ってきました。」

「ほう?」


 この時点で何かを悟ったのかもしれない、表情が一変したがライオンさんが友達と言っていたこともあって聞くことを続けてくれた。


「そして俺はアリツカゲラさんに助けてもらった。」

「そうなのか、噂のやつかと思ったが違うんだな?」


 まあ普通はそうなるだろう。そもそも噂がねじ曲がったことだと気付いてほしいもんだ。


「いや、その噂のやつは多分俺のことだ。ここ最近で空から降ってきたのは俺ぐらいしかいないだろう。」

「じゃあお前が噂のやつなのか?私が成敗してやる!!!」


 どうしてそうなるんだよ。俺は助けられた身なんだ、誰も襲ってはいない。


「さっきも言ったが俺は助けられた身なんだ!誰も襲ってなんかいない!」

「ふむ、そうか。」


 名得してくれたみたいでよかっt


「だがそんな噂が流れるということはお前は強いということなんだな?私と手合わせしろ!!」


_____


 というわけだ。


 ライオンさんもなんか言ってくれよ、と視線を送ると。戦えと言わんばかりの視線を返してきた。


 はあ?昔ライオンさんと互角だったヘラジカさんと俺が戦ったって勝てるわけないじゃないか。さっきの威圧感がまさにライオンさんが強いということを物語っていたではないか。


 しかしライオンさんもこうなっては手が付けられんって顔でこっち見てくるし。あーもう戦えばいいんだろ!


「分かったよ…手合わせお願いします…。」


 こうして2人でステージに上ると尻尾のような細長い針が付いたフレンズが始めの掛け声をかけてくれた。


 日は傾きかけているがまだ空は青かった。


「始め!!ですぅ。」


 その掛け声とともにヘラジカさんが突っ込んできた。


 俺はこの時ヘラジカさんを見くびっていた。フレンズとはいえどやはり女の子、手加減はしないといけないと思っていた。おそらくライオンさんは相手でも俺はそう考えただろう。


 だがそれは大きな間違いだった。


 突っ込んできて俺の前で止まるとその槍を振り下ろしてきた。


 その攻撃を受けた瞬間分かった。ヘラジカさんは強い、と。


「はぁ?強すぎ…」


 俺は受けとめきることができないと判断し、その攻撃を受け流せるよう瞬時に態勢を変えた。するとすぐに2撃目が来た。休ませてはくれないらしい。


 躱す、また躱す。周りから賞賛の声が上がっているような気がするが今の状態じゃ俺の耳に届くことは無い。


 俺は攻撃を受け流すのに精いっぱいだった。どれだけの間このやり取りを続けていたかはわからないがヘラジカさんが疲れる様子は一切見えない。それなのに俺の限界はもうすぐそこまで来ていた。


「でいやああああああああああ!!!!」


 一瞬の出来事だった、疲れから俺は隙を作ってしまった。ここぞといわんばかりの突き攻撃をくらってしまった。


「ぐはっ」


 俺の体が宙に浮く。後ろに吹き飛んでいく感覚が分かる。


 俺は人だ。フレンズより弱いのだ。この時俺はその事実を確認すると同時に壁に叩きつけられ、そのままへたり込むと、空が日によって赤くなっているのが見えた。


 その時同時に思った。初めての戦闘のはずなのにあそこまで体が動いたのはなぜか。そんなことを考える暇もなく俺は闇へと引きずり込まれる。


 疲れと攻撃を真に受けたからだろう。俺の視界は少しずつ暗くなっていった。そして俺はそのまま気を失ってしまった。

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