第6話 しんりんちほー

「ん…朝か…」


 窓から差し込む日光の明るさで目を覚ました。昨日ここに戻ってきてすぐに眠ってしまったのか。


 やっと目のピントが合ってきた。


 目の前でタイリクオオカミさんが寝息を立てている。手のほうを見ると繋がれたままだった。


 俺たち手を繋いだまま寝てたのか?そう思うとなんか恥ずかしいな。彼女を見つめていると頬が紅潮してきているような感覚がある。


 早朝だからだろう。外で頭を冷やすとするか。


 みずべちほは朝の風も気持ちいい。こんなところに住んでるフレンズやペパプのみんなはさぞ幸せだろうな。


 みんなが起きてきたらしんりんちほーに向かおう。結構距離があるからなるべく早く出たほうがいいかもしれないな。


 こうしてしばらく風に当たっていたらドアが開く音が耳に入り込んできた。


「おはようグン。」


 タイリクオオカミさんだ。


「おはようタイリクオオカミさん。他のみんなは?」


 今は何とも思わない。やはり早朝だったからか。


「まだ眠っているよ。次の目的地はしんりんちほーなんだろう?アミメキリンだけでも起こして出発するかい?」


 しんりんちほーが遠いということを考慮した提案だろう。ペパプのみんなとマーゲイさんには申し訳ないが出発するとしよう。置手紙くらいしておくか。


「そうしよう。アミメキリンちゃんを起こしてくるよ。」


 そう言って中に戻ってアミメキリンちゃんに近づき、体を揺さぶるとともに声をかける。


「アミメキリンちゃん、起きて。出発するよ。」ユサユサ

「んん…もう出発するの?ペパプのみんなとマーゲイにはあいさつしなくていいの?」

「置手紙をしておくつもりさ。起きれる?」

「大丈夫、ありがとうグン。」


 よし、アミメキリンちゃんも起きたし、置手紙もしたし、出発するか。


「じゃあ行こうタイリクオオカミさん。」


 こうして俺たち3人は朝食のジャパリマンを食べながらみずべちほーを後にした。


_____


 どれくらい歩いただろうか?もう日は真上まで登ってきている。


「なんだこのバリケードは。」


 もう少しってタイミングでバリケードに行く手を阻まれてしまった。右に道があるみたいだから迂回していくか。


 そう思って右方向に足を進めようとするとタイリクオオカミさんに止められた。


「待って、これの横を抜ければその先は図書館だ。」

「こっちの道じゃダメなの?」

「そっちは文字を読めるフレンズかどうか確かめるためだけの道だ。君は文字が読めるんだろう?」


 図書館に住んでるフレンズはそんなことをしているのか。何のためにだよ。


「じゃあ横を通っていこう。」


 バリケードの横を通り抜けて先へ進むとすぐに図書館に着いた。長い道のりだったな。


 とりあえず中に入れてもらおうとフレンズを探すが見当たらない。


「博士~、助手~、いるんだろう?姿を見せておくれよ。」


 タイリクオオカミさんが声をあげて呼ぶと二人のフレンズが音もなく俺たちの背後に降り立った。


「こんなところにお前たちが来るとは珍しいですね。」

「おや?見ない顔がいますね。」


 ずいぶん博識に見える。この二人が図書館に住んでいるのか?


「俺はグンって言います。パークの外から来ました。よろしく二人とも。」


 俺の自己紹介を聞いた2人は目を輝かせているように見える。なんで?


「外から来たということは字が読めるのですか?」

「ま、まあ困らない程度には…。」


 そう答えると2人は顔を見あわせた後に俺に迫ってきた。


「料理をするのです。話はそれからなのです。」


 そう言って料理のレシピブックを見せてきた。文字を読めるフレンズか確かめるというのはこういうことだったのか


 にしてもいきなりだな。


「分かった分かったからとりあえず離れてもらえるかな。」

「失礼、われわれ料理を食べるのは久しぶりなので少々取り乱してしまったのです。」

「調理場はあそこなのです。材料も置いてあるので好きに使うといいのです。」


 とぼとぼと調理場に向かう途中で振り返ってみるとテーブルを囲んで待っているみんなの姿が見えた。


 ちゃっかりタイリクオオカミさんとアミメキリンちゃんまでいるし。


 調理場に着いた俺はミライさんに教えてもらった時の記憶とレシピブックを頼りにカレーを作った。


 うまくできているだろうか。自分好みに味付けしたから彼女らの口には合わないかもしれないがまあいいだろう。何を作れと指定されたわけでもないし。


 完成したカレーを運んでみんなの前に置いた。


 タイリクオオカミさんとアミメキリンちゃんは興味津々だがここに住む2人は違うようだ。


「カレーですか。じゅるり。」

「久しぶりなのです。じゅるり。」


 なんだ食べたことあったのか?だがその時のカレーとは味が違うだろうな。


「「いただきます。」」


 そう言って2人はカレーを食べだした。それを見ていたタイリクオオカミさんとアミメキリンちゃんも「いただきます。」と言ってカレーを口に運び出した。


 さあ、感想を聞かせてもらおうじゃないか。


「「「「辛っ!!!」」」」


 どうやらあまり好評ではないらしい。味見したときはそんなに辛さは感じなかったけどなぁ。


「これは…辛すぎるのです。かばんのカレーはもっと適度な辛さだったのです。」

「これは私にも食べられそうにないのです。」

「グン…ちゃんと味見はしたんだろうね?」

「辛い…名探偵アミメキリンをここまで追い詰めるとはやるわね…。」


 ええ?そこまでひどいの?ちょっと俺も一口食べてみるか。


 少量のカレーとご飯を皿に盛って食べてみる。


 やはりあまり辛さは感じない。俺の感覚がぶっ飛んでるみたいだな。


「しかし、作られたものを残すのは命に対する冒涜なのです。」

「われわれはちゃんと食べきるのです。」


 無理して食わなくていいのに。


 配分ミスって激辛カレーを作ったことのある俺はその行為がどれほどつらいものか分かっていた。


「無理はしないでよ、それ俺好みの味付けだったから口に合わなかったみたいだね。作り直すよ。」

「これがグンの好みの味…」


 タイリクオオカミさんが小さくそういうと少しずつだが食べ始めた。


「先生が食べるなら私も食べます!!!」

「全部食べてくれるのはうれしいけどほんとに無理はしないでよみんな?」


 あとで腹壊しても知らないからな!!!


_____


「「「「ごちそうさまでした。」」」」

「お、お粗末様でした。」


 なんだ?あれほど辛いと言っていた割には普通に食べきるじゃないか。


「このカレー、意外と癖になりますね博士。」

「辛いのもありですね助手。」

「辛みは強かったが食べ進めるうちに慣れていったよ。」

「まだ舌がひりひりするわ…でもおいしかった。」


 そういえば博士さんと助手さんが何のフレンズか聞いていなかったな。


「2人は何のフレンズなの?」


 思い出したかのように2人は自己紹介を始めた。


「アフリカオオコノハズクの博士なのです。」

「ワシミミズクの助手なのです。」

「じゃあコノハ博士とミミちゃん助手でいいかな?」


 長いしこれでいいでしょ。と思って適当につけてみた。


「好きに呼ぶといいのです。」

「特別に中の本を好きなだけ読むのを許可するのです。料理のお礼なのです。」


 そんなことより気になることがあるんだ。さっきカレーを一口食べた時にも言っていた人物の事だ。


「なあコノハ博士、かばんさんってどんな人なんだ?」

「それは今まで回ってきたちほーでも聞いてきているのではないのですか?」

「かばんがどんな人だったかはもう知っているはずなのです。」

「もっと詳しく知りたいんだ。2人はいったい何をしてもらったんだ?」


 そう聞くと2人は他のフレンズより詳しく教えてくれた。かばんさんがどんな人だったのか。


「正確にはかばんは人ではなくヒトのフレンズなのです。」

「ヒトのフレンズ?」

「そう、かばんはミライさんの帽子に残っていた毛髪にサンドスターが当たったことで生まれたヒトのフレンズなのです。」


 ヒトのフレンズか、そんなことがあり得るのか。


 この言葉を聞いた時俺はあることを思い出した。ミライさんが昔言ってたんだ。


 ”最後の人に”と。


 その時はまったくもって意味が分からなかったが俺がフレンズだとしたらミライさんは最後の人ということになる。


 もしそうだとしたらなんで俺は日本にいた?俺がフレンズならジャパリパークにいるはずじゃないのか?


 考えても仕方ないな。俺だけで考えたところで答えが導き出せるわけなんかない。でもミライさんは何か知ってそうな感じがする。帰ったら聞いてみよう。


「教えてくれてありがとう、コノハ博士、ミミちゃん助手。」

「これくらい朝飯前なのです。」

「島の長として当然なのです。もう聞きたいことはないですか?それならゆっくりここの本でも読んでいくといいのです。」

「そうさせてもらうよ。」


 彼女たちがそういうので遠慮なく中に入らせてもらった。


_____


 俺が何か面白そうな本はないかと棚を流れるように見ているともう外は暗くなり始めていた。


 その時俺はコノハ博士とミミちゃん助手としゃべっているときずっと静かだったタイリクオオカミさんがいることに気が付いた。


 そういえばアミメキリンちゃんはどうしたのだろうか。


「あれ?アミメキリンちゃんは?」

「さっきお腹痛いって言って森の中に入っていったよ。」


 あ~あ、言わんこっちゃない。俺はちゃんと止めたからな?後で文句言われたって俺は責任取らないぞ。


 でもアミメキリンちゃんのことだからなぁ、何かと突っかかってきそうだな。その時はその時で適当にあしらうとするか。


 そんなことを考えながら俺は棚に顔を向けて本探しの続きをする。が、隣のタイリクオオカミさんは俺から離れる様子はない。


 俺と同じ棚で本を探しているのかと思って目を向けてみると目が合った。どうやら目的は俺みたいだ。


「どうしたの?さっきからずっと俺の事見てるみたいだけど。」

「私にも呼び名が欲しい…」


 顔を赤らめながらも小声で俺にそう伝えてきた。コノハ博士とミミちゃん助手みたいな呼び名が欲しいのだろうか?


 にしても呼び名か…タイリクオオカミさんの名前は捩れそうにないし。容姿から何か考えるとするか。


 タイリクオオカミさんは藍色の服を纏っている。一番に”アイ”というのが浮かんだがこれはしっくりこない。オッドアイの片方は吸い込まれるような青い色をしているな。


 こうしてみるとタイリクオオカミさんってとっても綺麗な顔をしているな。


「私の顔に何かついてるかい?」


 こういわれて俺はハッとした。いかんいかん、見とれていた。呼び名を考えよう。目は青いんだ、藍色は青に近いし”アオ”とかどうだ?よっしゃこれだな。


「”アオ”なんてどうだ?」


 とりあえず伝えてみる。さすがにシンプル過ぎたな。おそらく不満が返ってくるだろう。別のを考えるか。


 と思っていたが答えは予想外だった。


「嬉しい…ありがとうグン!これからはちゃんとそう呼んでおくれよ。」


 笑っている。


 タイリクオオカミさんの…いや、アオの笑顔を見るのは初めてかもしれない。


 眩しい。直視できないほどに眩しい。だが俺の目はアオの笑顔に釘付けだった。


 自身の顔をガン見されていることに気が付いたのかアオは顔を逸らしてしまった。そのまま振り向くとそのまま歩き出した。


「ちょっと散歩してくるよ。」


 アオがそう言い残すと図書館をでて森の中に入っていった。


 その姿を見送った俺はその場に寝ころび何をするわけでもなくぼーっと天井を眺めていた。


 このときふとアミメキリンちゃんのことが頭に浮かんだ。そういえば1人で森の中に入っていったってことだよな?大丈夫だろうか。


 いや、心配する必要はないか。ここにコノハ博士とミミちゃん助手がいないということは2人とも森にいるのだろう。


 コノハ博士にミミちゃん助手、それにアオだっている。いずれ戻ってくるだろう。戻ってきたらコノハ博士とミミちゃん助手に寝床を提供してもらおう。


 こうしてみんなが返ってくるのを待ちながら天井を眺めていると何時しか眠ってしまっていた。

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