第5話 みずべちほー
一番最初に目を覚ましたのはタイリクオオカミさんだった。俺が起きた時にはここを出る準備がすでにしてあった。
「ん…おはようタイリクオオカミさん。早起きなんだね。」
「私は夜行性だからね。」
昨日寝る前にタイリクオオカミさんとした会話を思い出してしまった。あれはいったい何だったんだ?何が目的なんだ?漫画のためか?それとも別の…いや、考えても仕方ない。
そう思いつつ朝ご飯のジャパリマンを取り出して食べようとしたところで何かを忘れていることに気が付いた。何を忘れてしまっているんだ?
答えは直に目を覚ました。
「おはようアミメキリン。よく眠れた?」
「おはようございます先生。おかげでぐっすりですよ。」
そうだ、アミメキリンちゃんが居たんだ。タイリクオオカミさんのことで脳みそがいっぱいになっていたな。俺って失敬なやつだな。
「みんな起きたし朝ご飯を食べよう。」
「じゃあギンギツネとキタキツネのところに行こうか。」
3人で歩いていくとギンギツネさんとキタキツネさんが居た…がどうやらお説教中のようだ。昨日の俺のことかな?
「話しかけにくいな…」
「いい漫画のネタになりそう。」
「この名探偵アミメキリンが原因を突き止めて見せるわ!」
目的は違えどやることは一緒みたいだ。見つからないように見守ろう。
こうして陰から見ていたがこちらに気が付いたのかギンギツネさんがこっちに近づいてきた。
「盗み聞きなんてらしくないわね?」
「あはは、ごめんなさい。」
「まったくもう…おはよう。3人とももう出るの?」
「いや、2人と朝ご飯を食べてから出ようかと。」
そう言うと2人は顔を見合わせてからこっちに向きなおった。
「そうね、大人数のほうがおいしく食べられると思うし。部屋までいって一緒に食べましょ?」
部屋に戻った俺たちは雑談しながらジャパリマンを食べた。大人数だといつもよりおいしく感じるな。鯛もひとりはうまからずとはこうゆうことか。
こんなことをしみじみと考えてながら朝食を終え、出発する時間になった。
「みんないつでも来るのよ?」
「またげぇむしようね。」
ゲームはいいが罰ゲームはこりごりだ。
「またね、ギンギツネさんキタキツネちゃん」
こうしてゆきやまちほーの面々との別れを済ませた俺たちは一刻も早くこの寒い雪山を抜け出すために少し早歩きでこの場を後にした。
_____
ここがみずべちほーかぁ。めちゃくちゃ綺麗だな。それになんだ?あのよくわからないステージのようなものは。
「このちほーはライブを見るために前に来たがこの景色はやはり綺麗だな。うん、今日はこの眺めをスケッチしていこう。」
「さすが先生!この景色すごくいいですね!!」
ライブ?あのステージみたいなところでライブが行われるのか?いったい誰が?
見てみたいな…。
「そのライブとやらって次はいつ開催されるの?」
「今日だよ。」
「へ?」
「だから今日だよ。それと、いい顔頂きました♪」
俺がその言葉を信じられずにぽかんとしているとまた頂かれてしまった。
今日開催されるってどんな偶然だよ…まさか知ってたのか?知っててついてきたのか?だとしたらタイリクオオカミさんに感謝だな。
「見に行きたいから道を教えてくれない?」
「そうだね。もうちょっとで始まるだろうし行こうか。」
「ペパプのライブなんて久しぶりですね先生!かばんさんが旅立った時以来ですかね?」
アミメキリンちゃん前にもかばんさんの話してたけど旅ってどこに行ったんだ?俺と同じヒトらしいから会ってみたいんだが…。そんなこと今考えても仕方ないか。とりあえず今日はライブとやらを楽しもう。
道中で昼食のジャパリマンを食べながら進んでいるとやがて目的地にたどり着いた。
「着いたよ。ここがさっき見えてたところだね。じゃあ席に座って待ってようか。」
こうして俺たち三人は席に座って待つことにした。
「それにしてもライブっていったい何が行われる催しなんだ?」
「ここでは
歌って踊る?そんなことできるのか、アイドルってすごいな。
「お待たせしました!ペパプの登場です!」
そうナレーションが入ったので顔を前に向けると音楽と共にペンギンのフレンズが5人そろって登場してきた。
「みんな!今日は私たちのために集まってくれてありがとう!ロイヤルペンギンの”プリンセス”!」
「イワトビペンギンの”イワビー”だ!」
「ジェンツーペンギンの”ジェーン”です!」
「”フルル~”、フンボルトペンギン!」
「コウテイペンギン、”コウテイ”だ!」
どの子もとても個性的に見えるがそれでこそ成り立つグループなのだろう。
「5人揃って!」
「「「「「ペパプ!!!」」」」」
「それじゃあ早速一曲目行くわよ!『大空ドリーマー』!」
その掛け声の直後に音楽が流れ始めてペパプのみんなが歌いだした。聞いていて楽しい。これは人気にならないほうがおかしいな。
こうして楽しんでいると横から「いい顔頂き♪」と聞こえた気がしたがまあいつものことだしスルーしておこう。
一曲目を歌い終わるとペパプのみんなが雑談を始めた。MCというらしい。
「今じゃ恒例となったライブだけどこれもあの子のおかげよね。」
「そうだな、かばんさんの手助けがあったからこそ今の私たちがあるようなものだしな。」
「プリンセスはかばんがいなかったらあのまま帰ってこなかったんじゃないのか?」
「あのときはほんとに心配しましたよ。」
「たしかにかばんさんの手助けがあったからこそだけど、あそこでナレーターをやってくれてるマーゲイだっていつも色々してくれてるじゃない。あなたが私の声で喋りだした時はびっくりしたんだから。たまにはこっちまで来てお話していきなさい?」
プリンセスがそういうとステージの横から薄い金色の髪が特徴のメガネをした子が歩いてきた。
「いやああの時はとんでもないことをしてしまったという感情に飲み込まれそうでしたよ、でもそのおかげでこうしてマネージャーをしていられるのもかばんさんのおかげですよ。」
かばんさんってホントにどんな人なんだ?めちゃくちゃすごいじゃないか。
こうして思い出話が語られている中に気の抜けた声が割り込んできた。
「お腹すいた~」
「さっき食べたばっかじゃねぇか。お前の腹はブラックホールか何かなのか?」
場に笑いが起きる。なんだこれは、これがライブなのか。めっちゃ楽しいじゃないか!
「さ、お話もほどほどにして次の曲行くわよ!『ようこそジャパリパークへ』!」
_____
こうしてライブが終わるころにはもう日が傾いていた。今からしんりんちほーの図書館に向かうとなると着く頃はもう真っ暗だな…そんな真夜中に尋ねられてはそこを住まいとするフレンズに迷惑だろう。どうしようか…。
悩み耽ているとそれに気づいたロイヤルペンギンのプリンセスさんがこっちに来て俺に話しかけてきた。
「あなた見ない顔ね、最近生まれたフレンズ?ライブ見てたならわかると思うけど私はロイヤルペンギンのプリンセスよ。よろしくね。」
「俺はグンって言います。ジャパリパークの外から来ました。よろしくプリンセスさん。」
「プリンセスでいいわ、外から来たってことはあなたヒト?」
「そうなりますね。」
「ところで何やら考えてたみたいだけどどうかしたの?」
俺ってそんなに顔に出てるの?タイリクオオカミさんに俺の表情が好かれるのはそういうことだったのか?
「ジャパリパークを回っている途中なんですけど今日の宿をどうするか考えてて…」
「1人で回っているの?」
「あそこで話してるタイリクオオカミさんとアミメキリンちゃんの3人です。」
「ふーん、だったら今日はうちに泊まっていったら?」
え?アイドルともあろう方がそんなことをしてもいいのか?いや、アイドルの前にフレンズとして俺たちを泊めてくれるのだろう。感謝しなければ。
「ありがとうプリンセス。あの二人を呼んでくるよ。」
2人に今日はここに泊めてもらうという話をしてプリンセスのところに戻ると俺たちを案内してくれるようだ。
「うわぁまさかペパプと同じ部屋で寝られるなんて、今日はいい日ですね先生!」
「そうだね、ありがとうプリンセスさん。」
「プリンセスでいいわ。ところであなたたちは何のフレンズ?」
2人はそれを言われて気づいた。自己紹介をしていなかったことに。
「私は作家のタイリクオオカミ、よろしくね。」
「私は名探偵アミメキリンよ!」
2人の自己紹介が済んだタイミングでペパプとマーゲイさんがいる建物に着いた。
ドアを少し開けて3人で中をのぞくとプリンセスの他の4人とマーゲイさんがいた。中は結構広い。ペパプのみんなとマーゲイさんはここで生活しているのだろうか。
プリンセスに中に入るよう言われたのでとりあえず中に入る。とりあえず自己紹介をしておこう。
「初めまして、俺はグンって言います。」
「私は作家のタイリクオオカミ。よろしくね。」
「わわわ私は名探偵アミメキリンよ!!」
緊張してるのか?アミメキリンちゃんらしくないな。
みんな困惑してるそりゃそうだろう。急に3人で押しかけているのだから。
プリンセスが事情を話してくれた。どうやらみんな納得してくれたみたいだ。
「三人ともよろしく。そんなに緊張しなくてもいいよ。」
「お前が言えたことか?それ。よく緊張で固まってるくせに。」
「まあまあ、せっかく泊りに来てくれたんですから、おもてなししましょう?」
「フルル夜ご飯たべた~い。」
ま、そうだな。ちょっと早いが食べる時間としてはいいころだろう。
「みなさん!ジャパリマン持ってきましたよ!」
マーゲイさんがジャパリマンを抱えてドアから入ってきた。いつの間に外に出たんだ?
「ありがとうマーゲイさん。じゃあみんなで食べようか。」
ジャパリマンを一口食べる。いままで食べてきたジャパリマンと味が違うな。色ごとに味が違うのだろうか?まあおいしいことに変わりないからあまり気にせず食べるか。
「ライブ見させてもらったけど、毎度のごとくいいパフォーマンスだったよ。漫画のネタになりそうだ。」
「だろ~?やっぱりアイドルはロックじゃないとな!」
こんな感じで話している中俺は気になっていることがあった。
MCの時に話していた”かばんさん”についてだ。
「あの、かばんさんってどんな人だったんですか?」
「かばんさんはとってもすごい人だったわ。私が緊張でステージから逃げ出してしまったときに励ましてくれたのよ。」
「かばんさんは何のためにこの島を出たんだ?」
島を出て行ったのは知っていたが何のためだったのかは聞いていなかったから問いかけてみる。
「かばんさんはヒトを探してこの島を出て行ったんだ。アライグマ、フェネック、サーバルを連れてね。」
タイリクオオカミさんが教えてくれた。
「正確にはかばんさんの旅に勝手についていったのよね。」
「私たちペパプもジャパリマンをたくさん集めて渡しましたよね。」
「あんときのボスは怖かったぜ~」
「そうなのか、教えてくれてありがとう。」
こうしてご飯俺たちはご飯を食べ終わり、ペパプがダンスの練習をするらしいので外を散歩することにしよう。アミメキリンちゃんは残って見学するらしいが。
俺がステージの反対側の木の橋の先端に座って星を眺めていたらとなりにタイリクオオカミさんが座ってきた。夜目が利くのだろう、迷いなく俺の横に来たように見える。
「こんなところで何をしているんだい?」
「いや、星が綺麗だと思って眺めていたんだ。俺が元居たところじゃ星なんてちっとも見えなかったよ。」
「星も綺麗だが、君の姿も素敵だよ。」
「またそうやって俺の表情を頂いていくんだね?その手には乗らないぞ。」
何かおかしいことを言っただろうか?暗くて表情はあまり見えないがしょんぼりしているのが伝わってくる。どうして?
「うーん、ま、そういうことにしておくよ。そろそろ戻らないかい?ペパプのみんなも寝る準備をしていたよ。」
「そっか、じゃあ戻るよ。」
とは言ったものの…何も見えん。そりゃそうだ。明かりなんてないの中の夜だからな。
壁にぶつかってしまった。言わんこっちゃない。
「グン、大丈夫かい?見えないなら私が手を引いてあげるよ。」
差し伸べられた手に触れる。男性が女性にエスコートされるなんて情けないな。
「ありがとうタイリクオオカミさん。」
握られた手はとても暖かい。人と触れ合うってこんなにも安心できるものなのか。彼女はフレンズだけど。
手を引かれるがままにペパプとマーゲイさんが使っている部屋に着いた。中は暗い。みんなもう寝たのだろうか?
俺たちはゆっくりとドアを開けて皆を起こさないように中に入り横たわると、そのまま2人は眠ってしまった。握られた手は離れることのないまま。
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