第4話 ゆきやまちほー
ん?ここはどこだ?
その時俺の視界で信じられないことが起こっていた。
俺の目の前でタイリクオオカミさんが何かに襲われている?
ダメだ、助けたいのに体が一つも動かない。どうして動いてくれないんだよ!
「私は君と出会えて良かったよ。」
タイリクオオカミさん?何やってるんだよ!
だが声を発することもできない。
そのままじゃセルリアンに…なんでだよ!!クソッ動けよ俺の体!!!
「うわあああああああっ。」
目が覚めて一気に体を起こすとそこにはいつも通りのロッジの部屋だった。
「なんだ…夢か…」
夢はこの島に来てから初めて見たがここに来る前と比べてはっきりと夢が見えたな。
俺は体を起こしてみんながいつも集まっているところに向かうと。みんながいつも通り雑談していた。
安心だ。
俺がこのロッジ近くに落とされてから1週間くらいたった。今ではもうみんなと打ち解けている。
「あ、グンさんおはようございます~。だいぶうなされてたみたいですけど大丈夫でしたか?」
「おはようアリツさん、みんなもおはよう。ちょっと嫌な夢を見ただけさ。気にすることは無いよ。」
「それならいいんですが無理はしないでくださいね?」
「グン!今日も推理勝負よ!」
「まあまあ落ち着きなよアミメキリン、とりあえず朝ご飯を食べよう。君もお腹がすいているだろう?」
グン———アリツさんが付けてくれた仮の名前だ。と言っても理由は単純明快だが。
_____
ここにきて二日目の朝。
「う、まだ背中が痛むな。」
「あ、おはようございます!もう起きられてたんですね。」
そう言ってアリツカゲラさんが俺に朝食のジャパリマンを渡してくれた。
「丁度起きたところでした。ありがとうアリツカゲラさん。」
ふとアリツカゲラさんの顔を見ると考え事をしているみたいだった。
「何か考え事ですか?」
「いや~助けたのは良いんですけどなんてお呼びしたらいいのかなと。」
そうか、そういえば俺には名乗れる名前がないな。
「あ、俺名前ないな…」
「じゃあ軍服を着てるから『グン』とかどうですか?」
「それいいですね。じゃあこれからはそれで呼んでください。」
_____
とまあこんな感じである。
俺もこの名前は特に嫌なわけでもなかったし名前が無いと何かと困りそうだったから極端にひどくなければどんな名前でも受け入れるつもりだった。
「そうだね、まずは朝ご飯を食べないと。腹が減っては戦はできぬって言うしね。」
「ぐぬぬ…早く朝ご飯食べるわよ!!今日こそ勝つんだから!」
ここにきて俺の怪我が治ってからずっとこの調子である。タイリクオオカミさんが書いてる漫画の予想とか話すんじゃなかった…
にしても痛みが2日で消えたのはどうゆうことなんだ?日本跡地でこのくらいの怪我をしたときは1か月ほど痛みは消えなかったのに。今回のは浅かっただけかな?
こんな調子でいつも通り過ごして部屋に戻って休んでいた時のことだ。俺目当ての来客が来たらしい。
「グンさんいますか?」
「あぁいるよ。どうしたんだアリツさん。」
「ミライさんが来てるんです。私もびっくりですよ。」
ミライさんが来ている?なんでこんなところに?
そうか、ここしばらくごたごたがあったせいで忘れてたが本来なら俺はミライさんのところにいるはずなのか。
「すぐ行く。」
急ぎで向かうとみんなが集まって人だかりならぬフレンズだかりができていた。
「ミライさん人気者だね。」
「あ!やっと会えましたよ~1年も待たせた挙句に迎えに来させるとはどういうことですか?」
一年待たせたのは…まあ…申し訳ない。
「長らくお待たせしちゃって申し訳ないです。でもどうやって俺がここにいると分かったんです?」
「あなたを乗せているはずのジャパリバスが何も乗せずに私のところまで来たんですよ。それでジャパリバスのラッキーに聞いてみたところロッジで降ろしたと聞いたので来たんですよ。」
降ろした?HAHAHA 降ろされたんじゃない、落とされたんだ。が、今は黙っておこう。
「あのラッキー許さん。」
「何か言いました?」
「いえ、何も言ってないですよ(焦)。」
「そ、そうですか。とりあえずパークセントラルに向かいましょう。話はそれからです。」
え?もう行くの?まだここの探索すらしてないのに。
パークセントラルに行ったらしばらく戻ってこれない気がしたんだ。
「今すぐじゃなきゃダメですか?」
「今すぐじゃないとダメってわけではないですけど…」
「じゃあこの島を観光したいんですけど。」
観光とは言ったが純粋にいろんなフレンズに会って話がしたいだけだ。
「私もついていこうかな、道だってわからないだろう?それに漫画のネタになりそうだし。何よりいい顔が見れそう♪」
「先生が行くなら私も行くわ!!」
「う~んそこまで言うなら許可しましょう。2週間以内に戻ってきてくださいね?私はここで待ってますから。」
タイリクオオカミさんは俺の表情にしか興味ないのか?なんかちょっと不服だな。なんでだろ?
「じゃあ行ってくるよミライさん。あとアリツさんもありがとう。」
「いえいえ、また泊りに来てくださいね~。」
「いってらっしゃい。楽しんできてね!」
こうして見送ってくれているところを見ているとミライさんはここの職員なんだなって感じがするな。
「じゃあまずはゆきやまちほーに行こうか。あそこにはキタキツネがいるんだ。」
「おぉ!あそこの温泉は最高ですよね!さすが先生ですね!」
「温泉なんてあるんですね。楽しみです。」
温泉か…ん?待てよ、フレンズってみんな女の子なんだよな?ってことは風呂って分けられてないんじゃないのか?え、俺男なんだけど。みんな知らないとはいえさすがに見せるわけにもいかないし見るわけにもいかない。
どうしよう…ついてから考えるか。
こうして三人組はゆきやまちほーに足を進めるのだった。
_____
さすが雪山。
「寒い…」
軍服ではとても耐えがたい。
「先生…やっぱり寒いですねゆきやまちほーは…」
「そうかい?私は平気だな。」
それもそうだろう、そもそもタイリクオオカミは寒い地域に生息していたんだから。にしてもすごいな、平然と歩みを進めていくじゃないか。
「まだ着かないのか?思っていたより遠いんだな…」
「もうすぐ着くから頑張って、グン。」
湯気が見える。もうすぐ着くというのは嘘ではないようだ。
「ふぅ、やっと着いた~。」
外は寒いので中に入るとフレンズが出迎えてくれた。
「いらっしゃい、あら?そっちの子は初めてね?私はギンギツネ、よろしくね。」
「初めまして、俺はグンって言います。」
「そんなことは良いわ!早く温泉に入らせて!!」
「んもうそんなに焦らなくたって温泉は逃げないわよ。ゆっくりしていってね。」
それを聞いたアミメキリンは小刻みに震えながら温泉のほうに向かっていった。だがタイリクオオカミさんはまだここにいる。
「タイリクオオカミさんも行ってきなよ。俺はここでみんなが戻ってくるのを待ってから入るよ。」
「どうしてみんなで入らないんだい?」
そう聞かれて俺は答えるべきかどうか悩んだ挙句にタイリクオオカミさんだけにしか聞こえないようにこう伝えた。
「俺男なんです。」
「ほう?いい漫画のネタになりそうだ。詳しく教えてくれないか?」
どうしてそうやって目を輝かせるんだ…そして俺に顔を近づけるんじゃない照れるだろう。
「あの…とりあえず先に入ってきてくださいよ。俺はそのあとに入りますから。」
俺がこういうと残念そうな顔をして温泉に向かっていった。なんでそんな残念そうなの?
そんなことを考えていたら電子音が耳に入ってきた。音のほうに行ってみるとなにやらゲーム機で遊んでいる子がいる。
楽しそう…。
そんな風に眺めているとこっちに気付いたみたいだ。
「どうしたの?そうだ、ボクとげぇむで対戦してよ。三回勝負ね。」
えぇ…かなりの無茶ぶりだなぁ。勝てるわけないじゃないか。
「んあああ負けた…勝てるわけないよ…」
結果は負け越し。あたりまえだ。このゲームほ長くやっている人間に今日初めてやった俺が勝てるわけない。
「じゃあ罰ゲームね。」
「えぇっ!?聞いてないよぉ。」
どんな罰ゲームが飛んでくるんだ?もうこうなたらどんなのでもやってやる。やけくそだ。
「ギンギツネのしっぽに抱き着いてきて。」
「分かったよ…。とりあえずギンギツネさん探すか。」
居た。入口のカウンターに立ってうとうとしている。夜行性なのか?
とりあえず気づかれないように近づこう。近くにあの子の視線も感じる…名前聞き忘れたな。
しっぽの目の前まで来た。おぉ、結構モフモフしてて触り心地よさそう。触ってみたい…
そして俺は気づいたらギンギツネさんのしっぽに抱き着いていた。
「ひゃうっ//」
「モフモフしてて気持ちい~。」
モフモフするのに夢中になりすぎたのだろう。強烈な後ろ蹴りをくらってしまった。
「いてて…夢中になりすぎちゃった。ごめんなさ…い?」
居ない。さっきまで目の前にいたギンギツネさんがいなくなっている。
周囲を見渡すとどこにいるのかはすぐに分かった。どうやらあの子の仕業というのに気付いたようだ。
「ちょっとキタキツネ!あなたが罰ゲームとかって言ってやらせたんじゃないの?」
「ボクなんのことか分からない。」
「グンさん?そうなんですよね?」
やっば、こっちに話が来てしまった。正直に答えるべきかな?
うおぉ…すごい懇願の目を向けられているな…キタキツネっていうのか。とりあえずこの場はごまかしてみるか。
「いや、俺がやりたくてやったよ(棒)」
「やっぱりあなたが言ったんじゃない!」
隠せなかった…ごめんなキタキツネちゃん。
「うぅ…ごめんなさい。でもギンギツネの反応可愛かったよ。」
「ちょっとやめてよ、グンもいるんだから。」
こんなやり取りをしていたらタイリクオオカミさんとアミメキリンちゃんが温泉から戻ってきた。
「温泉空いたぞ~。グンも入ってきたらどうだい?いい湯だったよ。」
「ありがとうタイリクオオカミさん。入らせていただくよ。一応言っとくけど覗きとかしないでよ?」
「しないよ。安心して入ってきなよ。」
少し不安を感じながらも俺は足を温泉に向けた。
服を脱いで中に入る。軽く体を流してから湯につかった。
「おぉ~これは良いなぁ。」
俺は記憶のある中で一番だらしない顔をしているだろう。鏡が無くてもわかる。それくらいここの温泉は素晴らしい。
こうして表情をほころばせたまま湯につかっていた。隣にいるフレンズに気付くこともなく。
「やっぱりいい湯だねねね…」
「そうですねぇ、とってもいい湯…!?」
俺の真横で同じようにお湯につかっているフレンズがいる。いつからここにいたんだ?
いくら湯が気持ちよかったとはいえ油断しすぎた。真横にフレンズが来ているのに気づかないなんて。もちろん彼女は何も着ていない。
どうしよう。これはまずいことになったな。どうやってこの状況で見ないようにしつつ見せずにここから出るか。だがまだ体を洗っていない…どうしたものか。
この子が出てきたタイミングでまた入って体だけ洗うとするか。
そう思い立ち上がろうとするとあろうことか呼び止められてしまった。
「もっとゆっくりしていきなよよよ…」
「え、えぇ!?えーと俺はグンって言います。あなたは?」
なんでこのタイミングで自己紹介しようと思ったの?馬鹿なの?死ぬの?
「カピバラだよよよ…」
「じ、じゃあ俺はこれで。」
「まだ体を洗ってないよよよ…」
なんでえええええええええええ?????
もうしょうがないこうなったら体洗い終わった瞬間ここを出よう。そうして俺はタイリクオオカミさんとアミメキリンちゃんといつもみたいに話すんだ。
「そ、そうだね。じゃあ体を洗ってから出ようかな。」
「背中を流してあげるよよよ…」
どうしてそうなるの?伝統文化なの?ただ幸いにも背中の流しあいなら見てしまうこともないし見られることもない。
これさえ乗り切れば俺は解放されるんだ。
_____
「疲れた…」
タイリクオオカミさんがカピバラさんと共に出てくる俺を見て何かを察したのかまっすぐ部屋に案内してくれた。
「大変だったろう?あの子は神出鬼没なんだ。許してあげてくれ。」
「まあ見ることも見られることもなかったからいいんだけど…理性を保つのがつらかった…」
「先生!なんの話をしていたんですか?」
さっき温泉を出たときにギンギツネたちと話していたアミメキリンちゃんが返ってきた。
「またコワイ話をしていたんだよ。アミメキリンも聞くかい?」
「ヒェッ…コワイ話はもうこりごりです先生…」
「フフッ、いい顔頂いたよ♪」
そんなやり取りを終えてもう寝ようとしたとき、タイリクオオカミさんが真っ暗な部屋で俺に語りかけてきた。
「ねえグン。君ってホントにオスなのかい?」
「そうだよ、こんな嘘ついてどうするのさ?」
「いつか見せておくれよ。その時は私のも見せてあげるさ。」
どうゆうことだ?からかっているのか?
「からかってるの?タイリクオオカミさん?」
反応がない…たぬき寝入りしてるのか?これ以上問い詰めても答えてくれそうにないから俺も寝るとするか。
ギンギツネさんから地図も貰ったし、明日はみずべちほーに向かおう。
「おやすみタイリクオオカミさん。」
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