第8話 こはん

 目が覚めた。ここは…城か。


 誰が連れてきてくれたのかはわからないがあとでお礼をしておこう。


 寝たまま外に目を向けると障子越しだが日が昇ってきているのが見える。アオとアミメキリンちゃんはまだ寝てるみたいだ。


 外に出るために体を起こそうとする。しかしできなかった。


「痛ッ!」


 そう、筋肉痛である。俺は昨日全身を使って慣れない戦闘していたんだ。戦闘と言ってもこちらは防戦一方だったが。


 あと背中も痛い。壁に叩きつけられた時のものだろう。


 あの人は強すぎる。さすが森の王といったところだ。


 しかしこの体ではまともに動けそうにない。どこか痛まないところは無いかと全身をゆっくり動かしてみるが動かしたところすべてが痛む。


 体を動かさなければ筋肉が動くこともないのでじっとしていればいいのだがそれでは次の目的地に行くことができない。どうしたものか…。


 とりあえずこのままでは俺は何もできないので2人のどちらかが起きるのを待つことにしよう。


 しかし昨日ヘラジカさんと手合わせしたとき何故俺の体はあんなに動いたんだ?まるで体がそのやり方を知っているみたいに勝手に動いていたんだ。


 いったいなぜだ?


 あーまた考えてしまう。今は観光を楽しむべきじゃないか。帰ってからミライさんに聞けばいいだろう。ミライさんが言ってた最後の人ってのも気になるし。考え出したらきりがない。


 自分について考えるのはこれきりにしよう。今は観光を楽しむのだ。


 そう心に決めた時、アオが目を覚ました。


「おはようアオ。」

「ん?起きてたのかいグン。まあ、ずいぶん早くに寝ついたから無理もないだろう。ところで起きているのになんで横になってるんだい?」

「筋肉痛…」


 俺がそう答えるとすべてを察したのかどこか呆れたような顔をしながら俺に肩を貸してくれた。


「ありがとうアオ…助かるよ。」

「どうってことないさ、昨日はかなり激しい運動をしていたからね。」

「ん~、あら?先生はどうしてグンに肩を貸してるんですか?」


 アミメキリンちゃんが起きたみたいだ。起こしてしまったのかな?


「筋肉痛で動けないんだって。まったく、グンも無茶するんじゃないよ?」

「気を付けます…ところで昨日俺をここに運んできてくれたのは誰なんだ?」

「私だよ。」


_____


 ドンッ


 グンが壁に叩きつけられる。それからしばらく静寂が続くが…


「ヘラジカ様の勝ち!ですぅ。」


 アフリカタテガミヤマアラシがそういうとともに私はグンのもとに走っていった。


 物みたいになっているグンの顔を覗き込むと同時に手首に触れ、脈があるかを調べた。


 彼はヒトだ。これが何を意味しているかは分かるだろう。


 脈はあるみたいだ。てことは気絶しているだけ?


 良かった…。


 ヘラジカに目を向けるとライオンと言い合っているのが目に入ってきた。


「ヘラジカ、いくら何でもやりすぎなんじゃないのか?」

「すまない、あんまり綺麗に受け流されるからつい力が入っていたんだ。」

「タイリクオオカミ、グンは大丈夫なのか?」

「気絶してるだけみたいだよ。」


 ヘラジカは安心した表情をした。自分がしたことに罪悪感を抱いていたのだろう。


「グンは私が城で預かろう。彼はヒトだ、室内のほうが何かといいだろう。」


 私たちはライオンの提案通り城で一夜明かすことにした。


「グンは私が担いでいこう。」


 ライオンが名乗り出たが、私はそれを遮った。


「いや、私が担いでいくよ。ミライさんから護衛を任されているのも確かだからね。」


 そういうとライオンは担ごうとしていたグンの体を離した。


 こうして私はグンを担いで城に歩き出す。担ぐといってもおんぶのような状態だ。


 あと半分くらいで城だろうか?


 彼のぬくもりを感じる。この感じはなんだか落ち着ける気がするんだ。何故だか知らないけどずっと一緒にいたくなるぬくもるりだ。


 前はすぐ降ろしたからあまり意識することは無かったが彼の股にあるが背中に当たっているのを感じる。


 彼は嘘をついていたのではなく本当に男なんだと確認することができたと同時に何か…。


 いや、いけない。


 しっかりせねば、と頭を振ると城がもう目の前にあることに気が付いた。


 ライオンが一部屋開けてくれたのでそこにグンを降ろす。アミメキリンはすぐに眠ってしまった。


 寝ている彼を見ているとなんだかドキドキする。きっとさっきまで背負っていたせいだ。


 寝よう。


「おやすみグン。」


_____


「2度もレディに運ばれるなんて恥ずかしくないのかい?今だって私がいないと動けないじゃないか。」

「申し訳ない…」

「とりあえず城から出ようか」


 こうして城から出るとライオン組とヘラジカ組が集まって何か話をしていた。おそらく俺の事だろう。


「おはようみんな。」

「グン!昨日はすまなかった。つい力がこもってしまって…。」

「いいよいいよヘラジカさん。死んだわけじゃないんだし。」

「でも…とても動ける体には見えないが?」


 そうか、今の俺は傍から見たら満身創痍なのか。確かにみんな心配の目を向けてくれている。大けがをしたと思っているんだろう。


 言いにくい、ただの筋肉痛だなんて。まあ言うんだけども。


「大丈夫だよ、ただの筋肉痛さ。」

「本当か?」

「本当さ、ライオンさん泊めてくれてありがとう。」

「いいってことよ、また遊びに来てよね。噂の真実も知れたことだし。」


 次はさばくちほーだ。みずべちほーからの距離くらい遠いし早めに出よう。


「また手合わせたのむよヘラジカさん。」

「私でいいならいつでも相手するぞ!!また来な!!」


 こうしてみんなに手を振られながらへいげんちほーを後にする。


 俺も手振りたかった…。


_____


「大丈夫アオ?ずっと俺に肩貸してるけど疲れないの?」


 フレンズとはいえアオだって女の子なんだ。ずっと男に肩を預けるのもきついだろう。


「私は大丈夫だよ、でも背負ったほうが楽かもしれないね。」


 背負うって…え?要するにおんぶってこと?すでに二回されてるのかもしれないけどその時意識なかったからなぁ。


 どうしよう、頼んでいいのかな?ええいままよ!甘えてしまえ!


「そうなの?じゃあお願いしてもいいかな。」


 そう答えると肩にかけていいた俺の手を離すとおもむろにしゃがみこんだ。


「はい、どうぞ。」


 おいマジかよほんとにしてくれるのか、なんかうれしいような恥ずかしいような…。


 俺は痛む体を動かしてアオの背中に乗る。


「じゃあ行こうか、と思ったけどもう日が昇っちゃってるね。この辺りにビーバーとプレーリードッグの家があるはずだ。そこでみんなでお昼にしないかい?」

「え、あの2人ですか?ビーバーは良いとしてプレーリードッグが…」


 なに?なんの話なの?気になっちゃうじゃん。


「それは私が何とかするよ。」


 こうして背負われたまましばらく進んでいくと湖の隣に高床の家があるのが見えた。


「あれがそうなの?」

「そうだよ、あれがビーバーとプレーリードッグの家だ。」

「先生…ほんとに行くんですか?」


 アミメキリンちゃんはさっきから何を心配してるんだ?


「大丈夫だよ、私がちゃんと止めるって。」


 なんか怖いんだけど、生け埋めにされたりしないよね?


 そんなあらぬ方向への心配を抱きつつもビーバーとプレーリードッグの家に着いた。


 湖に浮かぶ小島に高床の家が建っていて地面に続くドアがこちら側の陸にある。ノックをしようとドアの前に立つ。


「こんにちはであります!!」

「こんにち…あれ?」


 勢いよくドアが開かれて挨拶されたので返そうと思ったらドアが閉められた?どうして?


 アオとアミメキリンちゃんも何食わぬ顔してるし、これが普通なの?


 呆然としているとドアはまた開かれた。


「またこんにちはであります!!!」

「うわっ!」


 アオに背負われたまま後ろに逃げようとしてしまった。すなわちアオはバランスを崩すことになる。


 あと反射とはいえ痛かった…もう体動かしたくない…。


「ちょっとグン!」

「ごめんアオ!!」

「先生!!」


 1秒後にはもう地面に倒れてしまうだろう。それまでにできるだけ痛くないような姿勢をとらなければ。


 が、現実とは非情。筋肉痛の体はそうやすやすと動くわけがない。いや、動くけど痛いから動かせない。


 せめてアオだけでも痛くないように…あれ?


「グン!先生に攻撃するなんて私が許さないわよ!」


 アミメキリンちゃんが抑えてくれていた。


「ありがとうアミメキリンちゃん。」

「まったく、先生も大丈夫ですか?」

「あぁ、私も大丈夫だ。」


 そんなやり取りをしていると謝罪の声が耳に入ってきた。


「も、申し訳ないであります…」


 まあそうなるだろう。自分の行動で相手が転びかけていたら俺も謝るさ。でもこの子には悪気なんてなかっただろうしむしろ俺たちを楽しませようとしただけなのかもしれない。


 アオとアミメキリンちゃんはそれがどんなものか知っていたから驚くことは無かったけど俺は知らなかったから驚いた。それだけのことだ。この子は悪くない。


「大丈夫だよ、俺たちを楽しませようとしてやったんでしょ?」

「そうではありますが…これじゃあ傷つけようとしたも同然であります…」

「そこまで気にしなくて大丈夫だよ。」

「でも何かお詫びをさせてほしいであります!」


 ほう、じゃあ元々の目的であるここに泊めてもらうってのを提案しとこうかな。


「それじゃあ一日ここに泊めてもらえないかな?」

「そんなのでいいでありますか?」

「そもそもそれを頼みたくてここまで来たからね。」

「じゃあタイリクオオカミどのに背負われた方!!初めて会うみたいなので挨拶したいであります!」


 え?挨拶ならさっきしたじゃないか?この子流の挨拶があるってことかな?


 考える間もなく彼女は俺に近づいてきた。俺は何が起こるか分からなかったので何も抵抗はしなかった。


 でもアオがそれを防いだ。


「彼はわけありなんだ、だから挨拶は次会った時でもいいかな?」

「そうでありますか!なんだかよくわからないけど了解であります!!」


 まるで分らん。なんで頑なにこの子流の挨拶を拒むのか。


「とりあえず中に案内するであります!ついてきてほしいであります!!」


 言われた通りについていく。ドアに入ると外から見た通り地下に続いているがそんなに深くはないようだ。


 少し進むと小さな空間に梯子がある場所に着いた。


「ここを上ったところが自分らの家であります!」

「そっか、ありがとう。アオ、登れそう?」


 人を背負って梯子なんて相当きついはず、大丈夫だろうか?無理そうならここで休むのも俺は構わないが。


 ここで昇って上で休むということは治らなかった場合に降りる時も


「大丈夫だよ。それともここで休むかい?」


 いや、やっぱりここで休むことにしよう。いくら体が動かないとはいえここまで頼ってばっかりでは面目が立たない。


「そうするよ、さすがに頼ってばっかりじゃ悪いよ。」


 そう答えるとアオはきょとんとした顔でこっちを見ていた。想定外の返答なのだろう。アオはそれが何を意味するかは理解してくれたのだろう。


 俺をゆっくり降ろすと無言で梯子を登っていく。上にいるフレンズたちにこのことを伝えに行くのだろう。


 俺はここでゆっくり休むことにしようかな。


 あぁ、この薄暗くて広くも狭くもないこの感じ…懐かしいなぁ。


 そんな思い出に触れていると3人のフレンズが降りてきた。


「おれっちはアメリカビーバー、ビーバーでいいっす。グンさんよろしくっす。」


 あ、そういえば自己紹介がまだだったな。


 ん?なんで俺の名前を知って…アオが話してくれたのかな。


「私はプレーリードッグであります!!」


 そしてもう1人は…アオか。にしても何しに降りてきたんだ?


「3人ともどうしたの?」

「われわれがグンどののためにベッドを作るであります!」

「資材的に台しか作れないっすけど、地面よりはマシかなって。」


 アオが頼んだのか?と思いアオのほうを見てみるとウィンクしてきた。綺麗な瞳…じゃなくて感謝を述べねば。2人の作業が終わってからでいいか。


「こんなかんじでどうっすか?アオさん。」

「とってもいい感じだよ。悪いね、私たちのために。」


 私”たち”?俺のみのためじゃないのかな?まさか…いやさすがにそれはないだろう。


「これでどうでありますか?」

「ありがとう!名コンビと言われるのも納得だな。君たちは仕事がとても早いね。助かるよ。」


 え?は?経ったこの数分で完成させたっていうのか?シングルベッドとはいえ普通は2,3時間かかるもんじゃないの?


 痛みをこらえて首を回してみるとそこにはダブルベッドと言っても差し支えない大きさのベッドができていた?


 ダブルベッドってのもわからないしこの短時間でこれを完成させるすべもまったくわからない。フレンズってやっぱすごいな。


「では、何かあったら呼んでください。おれっちたちがなんでも作るっす!」


 そう言い残してプレーリードッグさんとビーバーさんは梯子を登っていった。


 そしてこの場に残ったアオが俺を持ち上げてベッドに寝かせてくれた。


「ありがとうアオ。わざわざ頼んでくれたんだろう?アオは優しいなぁ。」


 すこし頬を赤らめながらもアオは答えた。


「グンのためさ。」


 なんだ、照れるじゃないかそんなこと言われたら。


 お腹すいたな…もう外は暗いんじゃないか?ジャパリマンを食べよう。だが自分で取りに行くことはできない。こればっかりはアオに頼ろう。


「アオ、そろそろ夕飯にしないかい?と言っても俺がお腹すいちゃっただけなんだけど。ジャパリマン持ってきてもらえないかな?」


 そう聞くとアオは梯子を登っていってすぐに戻ってきた。


「はい、お目当てのジャパリマンだよ。」


 筋肉痛の痛みに耐えながらも差し出されたジャパリマンを手に取ろうとすると引っ込められた。


「えぇなんでぇ?」

「困ったら遠慮なく頼るって約束してくれるんならあげるよ。」


 なんだ?いったい何が目的なのだろうか?それとも深い意味はない?ともかく約束しないとジャパリマンはもらえそうにないから約束しよう。


「分かった、約束するよ。」


 答えを聞いたアオは笑っているように見えた。何しろここは薄暗くてはっきりと見えないからな。アオは見えてるんだろうけど。


「フフ、はいジャパリマン。」

「ありがとう。」


 さっきと同じような手つきで受け取ろうとするとまた引っ込められてしまい俺の手に収まることは無かった。


「えぇ今度は何?」

「本当に1人で食べられるのかい?昼にジャパリマンを食べている様子を見ていたがかなりペースが遅かった。腕、痛いんじゃないのかい?」


 これはなんだ?要するに困っているから私が食べさせてあげようってやつなのか?だがこの程度の痛みなら我慢できる。長時間はきついから休み休みで食べて行けば食べられる。


「痛くないって言うと嘘になるけどこのくらいの痛みなら耐えられるよ。」

「ふ~ん、久しぶりに怖い話でもしようかな?」

「分かった分かった、望み通りにしてくれていいから怖い話だけは勘弁してくれ。」


 いい顔頂き♪とか思われてるんだろうなぁ。おそらく今俺はかなりおびえた顔をしているだろう。


「そういうと思ったよ。じゃあお言葉に甘えて好きにさせてもらうよ。はい、あーん。」


 おい嘘だろ…女の子にあーんされる日が来るなんて。いやそんなことを考えている暇はない。受け入れるかどうか考えないと。でも受け入れる以外俺に道はないよな…望み通りにしてくれていいって言っちゃったからな。


「食べないのかい?食べないなら私が食べてしまうよ?」

「あー食べます食べます!」


 こうして口を開けると的確に俺の口に程よいサイズにされたジャパリマンが運ばれる。非常に食べやすい。それと同時に非常に恥ずかしい。


 さっきまで梯子の穴から入ってくる光で多少見ることができたけど今は完全に暗闇だ。

 

 相手の顔が見えないから余計に恥ずかしい。あぁ、ぜったい今の俺の顔赤いよ…。


「今ので最後だよ。」

「あれ?そうなの?ごちそうさま。」


 口のなかのジャパリマンを飲み込んだら口を開き、運ばれてくるジャパリマンをまた食べるというのを繰り返していくうちにあっという間にジャパリマンを1個食べきってしまったらしい。


「あしたはさばくちほーに向かうんだろう?体、治るといいね。」

「治ってほしいけど多分治らないさ。その時はお願いするよ。」


 ほのかに眠気を感じてきた。食べ終わってから間もないが眠気にはあらがえないのでこのまま寝てしまおう。


「眠くなってきた、俺はこのまま寝るよ。ありがとうアオ、今日はもう大丈夫だよ。」


 こう言い残して眠りに着こうと目を閉じるとおそらくアオが隣に横たわってきた。


 痛みを堪えてスペースを作ってあげてから目を開けてアオに聞く。


「上で寝ないの?」

「私がいると邪魔かい?」


 いや、断じて邪魔ではない。邪魔ではないのだが恥ずかしいものはある。でも俺に拒否権は無いのだ。さっきの発言があるからである。


「いや邪魔ではないんだけど…」

「じゃあいいじゃないか、一緒に寝させておくれよ。」


 まあどうせ見えないしいてもいなくてもそう変わりはないかと思った時だた。俺の胸のあたりに腕が乗る。


 暖かくて柔らかい。心地よいと同時にやはり恥ずかしい。心臓の鼓動が早くなるのが絶対伝わってるよもう。


「ちょ…アオ?」

「私がどうしたって自由だろう?さっきの発言を忘れたとは言わせないよ。」


 くぅ~わかっててやってるだろ!俺が恥ずかしがるのを見て楽しんでるな?


 こうなったら何をされても動じないように早く寝よう!!


 それからアオに何かされることは無く、そのまま隣にいるアオの息をかんじつつ俺は眠りに落ちた。

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