第20話 記憶

 妙な感触から目が覚める、体が動かない。まさかセルリウムが…。


 と、思ったがどうやらそうではないらしい。特に体調も悪くなければ体に異常もない。


 唯一現在起きている異常と言えばリンに抱き枕にされていることだろう。


 正直恥ずかしいからやめてほしいが相手はまだ寝ている。下手に動いて起こしてしまってはかわいそうだ。


 それに悪い気はしない。このまましばらく抱き枕にされていようか。


 しかしこの状況でリンが起きてきたらどうする?非常に気まずい感じになりそうな予感がする。


 抱き枕にされ続けるのに追加で寝たふりのお仕事だ。まあ悪くはない、向かい合っていなかったことを幸運に思おう。


 しかしなんだ。わかってはいるが意識してしまう。胸が俺の背中に押し付けられている。そんなの気にしないわけないよ、男の子だもん。


 こんな状況で寝たふりなど出来ようものか。いや、やるしかない。なんだこの嬉しいような辛いような状況は。いろいろ湧き出てくるものがあるんだが。


 そのときリンが俺に巻き付けている腕の力が強くなった。


「だめ…行かないで…」


 何かと思ったら寝言か、いったいどんな夢を見てるって言うんだ。勘弁してほしいよ…。


 腕が動かないからラッキーに話しかけることもできない。あと何時間耐えろって言うんだ…。


……


 そんなに時間は経ってないだろう。だが一つだけ言いたい。


 腹が減った、それに尽きる。他はもう何も感じない、慣れとは恐ろしいものである。腹の減り具合が大きいだけかもしれないが。


 そういえば俺は昨日夕飯を食べずに寝ている。どうりでお腹が空くわけだ。


「ん…あれ、なんで私グンに抱き着いて…」


 小さな声でそうつぶやいた彼女は声にならない声をあげ、そーっと俺の体に巻き付けていた腕をほどいていった。


 起きないようにする配慮かもしれないが時すでに遅しである。


 そしてそのままベッドから出ていった。


 これで落ち着いて寝られる、と言ってももう朝は近い。でもこの空腹に耐えられる気もしないし寝るしかないだろう。


 態勢はそのままで瞼を閉じ、眠りにつく。


 と、思ったが寝れるはずもない。それもそうだ、俺は昨日夕飯よりも前の時間から寝ている。


 眠気などもう残っていないしむしろ覚めすぎてるくらいだ。もうどうしようもないしまだ早いが朝ご飯を食べるとしよう。


 同じくベッドから出てリビングに足を運ぶ。そこにはついさっき起きたリンがいた。


「おはようグン!今日は早いわね。」


 どこかぎこちないような挨拶をしてくるリン。当たり前である、さっきの事があるのだ。


「おはようリン、ちょっとお腹すいちゃってね。俺昨日夕飯食べずに寝ちゃったから。」


 キッチンに歩みながらそんなことを話す。


「今からトースト作るけどリンも食べる?」

「食べる。」


 そうひと言だけ答えるとリンは椅子に座って何も言わず気まずそうに待ちだした。


 正直俺もちょっと気まずい、気付いてないふりをしているつもりだが俺はよく顔に出る。隠せていないかもしれない。


 パンにバターと蜂蜜を塗り、トースターに入れる。これを作るのも慣れたもんだ。


 3分のタイマーをかけると同時にリンがこんなことを聞いてくる。


「朝の事…気付いてた?」


 そりゃもちろん。と答えたいところだが気まずくなって話しづらくなるのは少々困る。今日から3人でセントラルの探索に出かけるのだから。


「何のこと?」


 白を切ってそう答える。


「そう…そっか!なんでもない!」


 リンもそうなることは望まないのだろう。そうなりたくないならお互いに無かったことにしてしまえばいい。


 だがそうやすやすと忘れられない。あの時の背中の感触が忘れられないからである。


 もちろん忘れたほうがこの先のためにもなるだろうが一度覚えたものを忘れるなんてそうそうできやしない。悪い気はしなかったものだし。


 まあ忘れる努力はしようじゃないか。


 そんなことを考えている間にトースターのタイマーが鳴る。開けるといつものいい匂いが鼻まで届く。


 中からパンを取り出し、皿に乗せてリンのところまで行く。


「はい、出来たよ。」

「ありがとう。」


 リンの横に座る、まだ外は薄暗い。明るい星ならぎりぎり見えるくらいだろうか。


「「いただきます。」」


 そういえばアオっていつもどのくらいの時間に起きているのだろうか。俺が起きた時にはもう目を覚ましていた。


 俺がアオより早く起きたのってPPPのみんなと寝たあの時くらいだろう。今日から3人で街の探索がしたいとは思ったがアオがいないんじゃ始まらない。


 というかそもそもリンが乗ってくれるかすら分からないじゃないか。今真横にいることだし聞いてみよう。


 口の中に入ったパンを飲み込み、リンのほうを向いて話す。


「ねえリン、今日からアオと3人で街の探索しようと思うんだけど一緒にどう?」

「良いわね、じゃあ先生が帰って来たら出発ね!」


 帰って来たら?アオはどこかに出かけているというのだろうか。


「うん、そうしよう。」


 とりあえず返事だけしておく。


 考えてみればそもそもアオって夜行性じゃないか。今まで俺たちに合わせてくれていたんだ。それが最近は一緒にいることも減ったからアオの生活リズムが戻ったのだろう。


 でも夜寝る時はいつも一緒だ。じゃあいったいいつ寝てるんだ?


 そう思ったが答えは大体予想がつく。俺が研究所で特訓している間に寝ているのだろう。


 まあ、とりあえずアオが帰ってくるまでここで待っているとしますか。


 最後の一口を食べ終え、リンが食べ終わるの確認して皿をキッチンに持っていく。そのまま洗剤に漬けておいてく。こうしておけば大体かばんさんがどうにかしてくれる。


 テーブルの椅子に戻って腰を掛けるとリンがこんなことを聞いてくる。それはこれまでで生まれないはずはない疑問だった。


「グンっていつもどんな特訓してるの?」


 銃を扱う練習だよ、なんて声を大にして言えたことではないが大体察しがついているのではないか?


 最近はこの銃を常に携帯しているからだ。一応見えないように隠してはいたし聞かれてもそれとなく説明していたが特訓の内容を聞かれちゃ詳しく説明するしかない。


 だがこんなところでこれを取り出すわけにもいかないしな。


 うーん、どうしようか。実際に見てもらったほうが早いのは確実なんだけどな。


 考えあぐねていると見かねて聞いてくる。


「考え込んでどうしたの?」


 心配したような顔でこちらを覗いてくる。


「どうやって説明しようかなと思って、見てもらえれば早いんだけど。」


 そう答えるとリンは少し考えてこう答えた。


「じゃあ研究所まで行ってグンがどんなことしてるのか見せてよ!」


 そうか、その発想は無かった。いつも推理で後れを取ることは無かったんだがな。

俺も馬鹿になったもんだ。


 いや、推理力と発想力は別物か?まあいいや、とにかく出た意見は俺的にはとてもいいと思うしそれでいこう。


「分かった、じゃあ今日は3人で研究所にお邪魔しようか。」 


 ちょうど椅子に腰を掛けた時だった。玄関のほうからドアが開く音がした。そして足音がひとつ、こちらに近づいてくる。


「ただいま。おや、今日はグンも起きてたんだね。」


 いつもと変わらない表情だけどどこかいつもと違う調子でそう言ってくる。


「おかえり、たまにはみんなでお出かけなんてどうかなと思って。そうだ。」


 アオがちょうど椅子に座った時ふと思った。


「朝ごはん食べた?」

「まだ食べてないよ。いつもはこうして帰ってきてから食べるんだ。それがどうかした?」


 こっちに目を合わせて作ってくれるのか?と言わんばかりに食いついてくる。


「そっかじゃあもう一枚トースト作ろうか。」

「ありがとう。」


 待ってましたと言わんばかりの返事。確かにいつもはかばんさんが作ってたのを食べてたみたいだしな。たまには俺が焼いたのも食べてみたいのだろうか。


 さっきと同じようにしてトースターにパンを入れる。


「ねえグン、出かけるのは良いけど特訓はいいの?」


 出てもおかしくはない疑問だろう、これまでずっと特訓漬けだった俺が急にそんなことを言い出したのだから。


「俺思ったんだよ。ここにきてしばらく経ったけどこの辺の事何も知らないなって。」


 適当に作ったいいわけではない、まぎれもない本心である。


「そっか、でもどこに行くんだい?当てがないなら私がおすすめのところを教えてあげるよ。」


 正直このために朝に外に出ていたんじゃないかってレベルで目が輝いている。そんなに心待ちにしていたのか。


 だが今日は研究所にお邪魔することと決まっているのだ。ごめんな、アオ。


「今日は研究所に行こうと思ってる。リンがどんな特訓してるか知りたいって言うからね。」


 ちょっとふてくされたよな表情が見えたがすぐにそれを直し笑顔で承諾してくれた。


 そんな間にトースターがタイマーの音が鳴る、さっきと同じように皿に乗せてアオのところまで持っていく。


 この何気ない日常が終わることを告げられてどこか吹っ切れているような気がする。閉鎖的になるよりはだいぶましであろう。


「ありがとう、いただきます。」


 そう言ってアオは俺が焼いたトーストを食べ始める。


「おいしいよ、かばんさんのよりずっとね。」

「そうか、ありがとうな。」


 それ以上の会話はなくそのままアオが食べる様子を眺めるだけ。


 目が合い恥ずかしそうにそっぽを向く姿はこんな状況でなければ忘れないほどかわいいと思えたことだろう。


 しばらくしてアオがトーストを食べ終わった。


「ごちそうさま。」


 笑顔でそう言うアオ、図書館に行った時と変わらないはずなのに、何かが足りない。ここに来てからずっとこの感情が何なのか分からない。


 あの時のような単純な感情ではない。どう頑張ってもこの感情がなんなのかという答えが出せない。


 それはセルリウムのせいなのかもしれないし、俺がそこまで至っていないだけかもしれない。


 まあラッキーが反応しない当たり悪い感情ではないのだろう、それだけは喜んでおこう。


 何も残っていない皿をキッチンにおいてそのまま2人の元まで戻ると早く行こうよと言わんばかりに俺を見てきた。


「それじゃあ行こうか。」

「うん!」


 3人でそのまま外に出る、気付けば日が昇り始めてるじゃないか。まあ、あそこはいつ行ったって問題ないだろう。俺がいれば入れる。


 いつぶりだろうか、3人そろって外に出るのは。


……


「ここが研究所?」

「そうだよ、いつもここで特訓してる。」


 立ち止まって研究所を見る2人。


「あ。」

「どうしたのグン。」


 俺は入ることが許されてるけど普通のフレンズって入ってもいい場所なんだろうか。研究なんてことをしているくらいだ、関係者以外立ち入り禁止になっていてもおかしくない。


 このカードが無いと入れないのがそれを物語っている。どうしたものか。


「ここまで来たのは良いけど2人がここに入っていいか分からない。カコさんに聞いてみてもいい?」

「いいよ、入れないなら別のところに行けばいいだけだしね。今日と言う時間はまだまだたくさんあるよ?」


 アオが言うとおりだ、2人が入れないなら別のところに行けばいいさ。特訓内容を実際に見せれないのは申し訳ないがしょうがない。


「ラッキー、カコさんに繋げる?」

「マカセテ。」


 しばらくしてカコさんに繋がったのかラッキーからカコさんの声がしてきた。


「まったくこんな早朝にどうしたの。もしかして何か体調に変化でもあった?」


 真剣な声でそう聞いてくる。昨日の今日だからまあ気持ちは分からなくもない。


「いえ、おかげさまで特には何も。」

「それを聞いて安心したわ。でも何かあったらすぐに言うのよ。で、要件は?」


 ほっと溜息をつく、安心したという雰囲気が声だけで伝わってくる。


「聞きたいことがあって繋げさせてもらいました。」

「そう、何でも聞いて頂戴。教えられることなら教えるわよ。」


 そうか、それなら遠慮なく聞かせてもらおう。


「研究所にフレンズって入れますか?」


 そう質問するとカコさんはしばらく黙り込んでから答えた。


「付き添いであなたの部屋に入れることは許しましょう。ただし、フレンズにとって危険なものも多いから用のない部屋には勝手に入らないこと、いい?」

「分かりました。ありがとうございます。」


 俺の部屋に入れれるなら十分だ。カコさんに感謝だな。


「用はそれだけ?」

「はい、それだけです。では失礼します。」


 そう言って通信を切る、アオとリンも全部聞いてたみたいだし説明は不要だろう。


「じゃあ入ろうか。」


 自動で開くドアをくぐり中に入る。そのままいつも俺が使っている場所に繋がる部屋に向かう。


 いつも通りハッチの鍵を開ける。そのままハッチの中に飛び降りる。


「梯子あるからそれで降りてきて。」


 中から呼びかけておく、真似して怪我されるのは嫌なのでね。


 いつも通り扉の横のスイッチを入れ、ドアを開く。


「ここが俺がいつも特訓に使ってる部屋さ。」


 2人が入ったのを確認してドアを閉める。


「ハッチは閉めてくれた?」


 前に数日前に閉めるのを忘れて怒られたばっかりだから一応確認しておかねば。


「閉めたわよ。」

「そっか、ありがとう。さてと―」


 いつも通り銃をホルダーから取り出し、ポーチからはマガジンも取り出して弾を込め、装填する。


「それはそうやって使うものなんだね。」


 アオが興味津々に様子を見てきている。そういえば前にどう使うのか聞いてきたことがあったな。


 あの時は使えなくて見せられなかったけど今なら見せられる。


 スライドを引き、的に向かって銃口を向ける。


 そしてそのままトリガーを引く。弾は的に当たりその体を揺らしながらサンドスターを吸収していく。


「え?それいったいどういう仕組みなの?教えてグン!」


 リンの食いつきがすごい、まあそれもそうか。こんなものを見るのは初めてだろうからな。


「これは銃って言って小さな弾をものすごい速さで飛ばす武器なんだ。」


 マガジンを取り出し、一発だけ弾を出して2人に見せる。


「狙いさえ定まっていればほぼ確実に当たるのが特徴かな。」

「速いってどのくらい?」


 言われてみればどのくらいのスピードなのか知らないな。資料に載ってたりするかな。


「分からない、この本に色々書いてあると思うから一緒に見てみよう。」


 本を開こうとした時、急にめまいがした。


「あれ…?」


 ぐらつく視界、俺はそのまま意識を失った。


_____


 どこだここは?


 目を覚ますとそこは暗闇、何も見えない。


 それになんだ?柱か何かに結び付けられているのだろうか、動くことができない。


「目が覚めたか?」


 声と同時に部屋が明るくなる。どうやら俺は真っ白の部屋の真ん中にいるらしい。


 この声はレストランに行ったときにも聞いた声だ。なんなんだ、どこにいやがる。


「誰だッ!俺をここから出せ!」

「まあまあ落ち着けよ、俺はお前にちょっと用があるだけだ。すぐに開放してやるさ。」


 後ろで機械音が聞こえる。それと同時に足音が一つ部屋の中に入ってきた。


「よう、久しぶりだな。」


 俺の正面に立ってそう言ってくる、誰だこいつ。見たことない、知らないぞ。


「誰だ、俺はお前となんか会ったことも話したことも無いぞ。」


 鋭い眼光を向け吐き捨てるようにそう口にする。


「はっはっは、そりゃそうだろうな。俺はお前を知ってるが、お前は俺を知らない。」


 いったい何なんだこいつは。どこで俺を知った、なんの目的でこんなことをする。


「誰だか知らないがこんなことをして許されると思ってるのか、これでも一応俺はフレンズなんだぞ。」

「知ってるさ。だからこそ君にある施しをしようと思ってね。」


 なんのことだ?


 その時男が何やら注射器のようなものを取り出し始めた。


「……グ………グン……」


 アオ…?


「グン!!!」


 呼び声で目が覚める。


「はっ、ごめんごめん。」


 なんだったんだ今のは、まるで過去の記憶でも見ているような…。まだ続きがあったみたいだな。


 にしてもなんで今更こんなものが見えるんだ。


「ぼーっとしてたけど大丈夫?」

「ご、ごめんごめん。心配かけたね、大丈夫。」

「今日早起きしたし疲れてるんじゃない?無理しないほうがいいわよ?」


 リンにも心配されるとは…こんなんでいいのだろうか。


「本当に大丈夫、体調も特に悪くないよ。それに多分何かあればラッキーが教えてくれるはずだから。」

「そう…それならとりあえず安心しておくよ。」


 とりあえず何事もなくてよかった。いや何事も無かったわけではないがラッキーは何も言っていないし大丈夫なんだろう。


 そうして目的だった本を開く。


「ふむ、いろいろ載ってるね。」


 実はこの本、開くのが今回が初めてだったりする。これはすごいな、いろんな銃のことが事細かに記されている。


「驚いた、こんなに詳しく書いてあるとは。」


 この銃のことが気になる、載っているだろうか。


 ページをめくっていくうちにこの銃についてのことが書いてあった。と同時に拳銃タイプの銃は威力が他と比べてかなり低いことも分かった。


 近くの物を狙う分には十分だろうが遠いものを狙う時には心細いかもしれない。


 なんか作りやすくて使いやすそうなものを探そう。


 さっきと同様にページをパラパラとめくっていく。そのうちに気になる銃を見つけた。


 長物、所謂スナイパーライフルってやつだ。M40A5ってやつ、シンプルなわりにはかなりかっこいいデザインになっている。


「よし、これ作るか。」


 そう宣言して目を閉じ、集中し始める。


「これを?本当に作れるの?」

「今は完璧に作れなくてもいつか作れるまで俺は試し続ける。」


 なーんて、どうせもうすぐ死ぬんだけどね。でもやりたいことくらい全部やってからがいいよな。


 だから2人とお出かけしてるくらいだしな。


 ってこんなことを考えちゃだめだ。集中だ集中…。


 そうしてイメージしたものを手元に作り出す。


「おお、意外とできるもんだな。」


 完成したものは思っていたよりも形が整っていて使えそうな雰囲気がした。が、


「まあ、使えるわけがないか。」


 形だけである。構造なんて何一つ考えずに作ったのでトリガーも動かなければマガジンも取り出せない。


 ただの模型を作り出したことになる。まあ、飾っておく分には見た目はいいし飾っておこう。


「へぇ、いろいろあるんだね。興味深いよ。」

「まあ俺はまだこれしか使えないけどね。ここはこんなもんかな。」


 見せたいものも見せたしそろそろ別のところに行ってもいいか。


「ねえグン、それ私も使ってみたいわ。」


 そう来るとは思っていなかった。考えが回らなかった。見せれば満足してくれるだろうとなどと甘い考えは通用しなかったようだ。


 非常に危ない代物ではあるが注意する点さえ守ってもらえれば別にいいだろうか。


「いいけど今からいうことは絶対に守ってね。」

「もちろん、ちゃんと守るわよ!」


 息を吸って真剣な顔でしゃべり始める。


「絶対に人に向けないこと。セーフティがかかっていても暴発する可能性だって十分にあるからこれだけは守って。万が一誰かに発射された弾が当たっては取り返しのつかない傷になりかねないからね。」

「分かったわ。」


 返事が聞こえたので腰から銃を取り出しマガジンを指して手渡す。


「重っ!グンはいつもこんなもの腰に下げてるの?」


 重い…?いままでそんなこと感じた事なかったがそんなに重いのだろうか。


 じゃあもしかしてさっき作ったやつも?


「リン、これ持てる?」

「重すぎるぅ、なんでおんな重いものそんな軽々と持てるの?」


 俺は片手でひょいっと持ち上げるものがどうやらリンには持てないらしい。


 アオも持てなかったりするのだろうか。


「じゃあアオは持てる?」


 そういってアオに拳銃渡してみる。


「確かにこれは重いね、私には持てたものじゃないよ。」


 この本によってもこの銃は軽量と書いてあるんだがな、まさか。


「これならどう?」


 マガジンを取り出して渡してみる。


「軽いこれなら持てるけど、使うにはそれを挿し込む必要があるんだろう?」


 やっぱり俺のサンドスターが悪戯をしているらしい。これじゃあ俺専用になるってことか。誰かが勝手に使って事故が起きることがないのは非常にありがたいがな。


「そうだね、これじゃあ試させたくても無理だな。ごめんリン。」

「いいのいいの、それよりお腹空いちゃった。」


 たしかに朝食を取ってからしばらく経った。まだ昼食には早いが何か食べに行ってもいいかもしれない。


「じゃあ何か食べに行く?」


 そう言って立ちあがる。さて、どこに行こうか。

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