第15話 救い
とはいってもどうやって助ければいいのでしょうか。おそらく重度のサンドスター欠乏症でしょう。
彼はフレンズと言っても特殊ですし、それに体内でサンドスターを生み出すということはフレンズになる際に足りなかったサンドスターをそれで補ったということなのでしょうか?それとも完全にヒトの形になってから補われた?
とにかく彼は完全なフレンズではないことは確かでしょう。一応サンドスター緊急補充装置を持ってきてありますが…彼に使って大丈夫なのでしょうか?
いえ、これは一刻も争う事態です。重度のサンドスター欠乏症は体内のサンドスター循環が行えずフレンズの状態が維持できずに元の動物に戻ってしまいます。彼の場合何に戻るのかはわかりませんがフレンズが何も知らずにいなくなるのは御免です。
とりあえず彼にサンドスターを注入しましょう。
私は彼にサンドスター緊急補充装置を繋いでサンドスターの注入を開始する。
しかしこの装置では体内のサンドスターが循環を再開できる最低限の量しか補充できません…しばらく安静にできる建物のようなものを探さなければいけませんね。
あそこでいいでしょうか…。
そこには入り口だけ残されたシェルターのようなものがあった。中には生活できる最低限の物は揃っている。
外に出て彼のところに戻ると、電子音が響き渡るのが確認できた。この音はサンドスターの注入が正常に終わったことを意味している。
これで彼の体内のサンドスターの循環がまた始まるはず。
私は装置を操作して循環が行われている確認する。彼は異例の性質を持っている。うまく再開されているかどうか…。
良かった。ちゃんと循環が始まっている。
でもまだ安心できません、安静にできるところまで連れて行かないと。
さっきのシェルターまで彼を背負って歩いていく。結構重い。
中に入って奥にあるすこし段になっているところに彼を寝かせる。これでひとまずは良いでしょう。あとは彼自身がサンドスターを増やせるかどうかです。
ジャパリパークなら空気中にサンドスターが含まれているので問題なく治るのですがここではどうなるか分かりません。
でも頻繁に刺激を与えるのもいけないので定期的に様子を見ることにしましょう。
とりあえず一旦ジャパリパークに帰って必要になった物の準備をしなければ。
私は船に向かって歩き出す。その間こんなことを考えていた。
彼が人間を全員殺すのには理由があったはずです。それがもし人間が憎かったからだとしたら彼が起きて初めて会った時に殺されかねない。
顔を隠せる物がいいでしょうか。う~ん、似合わないかもしれませんがジャパリパークに着いた時にフード付きの服を用意するとしましょう。
あとしばらくして彼が「暇だ」と言ってきたとき用に娯楽も用意しなければ、ジグソーパズルでいいかな?
……
あれからしばらく経って彼とも仲良くなってきましたが、そろそろ聞いてきてもおかしくないはずです。
自分の名前や過去について。
このはなしはあそこではなくジャパリパークでしたほうがいいでしょう。こんな事実受け止められるわけがないのでここで話すと自殺してしまうかもしれません。それを止めるためにもジャパリパークに来るためのものを用意しなければ。
ジャパリパスを改造して彼専用の仕様にしましょうかね。それとバスを止めておく建物を探さないと。
とりあえずジャパリパークのほうにバスの改造依頼をしておかなければ、建物探しはそれからです。
「もしもし?こんどは何が必要なの?」
パークセントラルの事務室に電話をかけるとカコさんが出た。
「ここからジャパリパークまで飛んでいけるジャパリバスを作って欲しいんですが…」
「なかなか無茶なお願いしてくれるじゃない。いいわ、手を打ってあげる。そっちは任せっきりにしちゃってるしね。」
意外な答えだ。てっきりカコさんなら断ると思ったのだけれども。
「ありがとうございます!いつそちらに取りに行けばいいですか?」
「1週間後でいいわ。あと他に必要なものはない?」
「特にないです、では切りますね。」
電話を切って前を見る。するとそこにはバスを止めるのにちょうどよさそうな建物があった。電話に集中してて気づかなかった。
ともあれこれで必要な物は揃った。あのレストランのようなところに置いてある食材もこっちに移しておきましょうかね。
さて、今日も彼との食事に行きましょうか。
_____
「というわけなんです。」
嘘だ…俺が全員殺したのか…?
「どうか自分を責めないでください。」
けものプラズムとかいうやつを使えば何でも作れるんだたよな?この銃とナイフもそうだと思うってミライさんが言ってたし。
俺が死ねばこの武器たちも消えるだろうか。じゃあ俺が自殺してもどうやったかは残らないな。
おもむろにナイフを鞘から取り出した。このナイフで自分の首を掻き切ろう。それでも足りないくらい俺は大きな罪を犯しているのだ。
刃を首元に持っていこうとするとミライさんに止められる。
「落ち着いてください!なんのために助けたと思っているんですか!あなたにもフレンズとして、人として純粋に生きて欲しかったからですよ?」
そんなこと言われたって、俺が犯した罪は消えない。俺はたくさんの命を奪ったのだ。許されることではない。死んで償えるものではないが俺に生きる価値は無い。ならいっそ死んだほうがいいだろう。
ガチャ。
俺がこうして怒られていると誰かが部屋に入って来た。
「あ、そうでした。ここは今使ってるんでしたね。」
俺がドアのほうに顔を向けて入ってきた人を確認する。この人は誰だろうか?
「私はかばんです、ってなんて顔してるんですか!?ミライさん、いったい何が?」
赤いシャツにショートパンツを履き、白衣を纏っている。髪はセミロングくらいでウェーブがかかっている。
この人がかばんさんか。死ぬ前に会いたい人に会えてよかったよ。
俺はかばんさんが入ってきたそのドアから出ようとする。が、腕をつかまれて止められる。
「行かせません。私たちの見えないところで自殺するつもりなんでしょう?」
ミライさんには全部お見通しってわけか。俺が分かりやすいだけかもしれないが。
「自殺?自殺なんてしちゃだめです!!詳しいことはよくわかりませんが外であなたを待ってるフレンズさんもいるんですよ!!」
アオとリンのことだろう。もう会えないね、約束守れなくてごめんね。
「私でよければ、お話聞きますよ?」
なんだこの笑顔は、心が洗われていく気がする。話すだけ話してみるか。
俺は自分のことを事細かに説明した。
「そういうことだったんですね。わかりました、じゃあユウヤさんはその力をどうしたいですか?」
え?どうしたいって、こんな力があったから俺は人間をほぼ絶滅させてしまったんだ。無いほうがいいに決まってる。
「自分の存在事消してしまいたい。」
俺は迷いなくそう答える。するとかばんさんは不思議な顔をしてミライさんのほうを向く。
「あれ?ミライさん話してないんですか?」
いったい何ことだ?
俺もミライさんのほうを見る。
「あ、忘れてました。あなたがここに運ばれてきたのはタイリクオオカミさんをセルリアンから助ける時にサンドスターを使いすぎたからなんですよ。」
そうか、俺も忘れていた。俺はこの力を他人のために使ったんだ。人を傷つけるのではなく、守るために使ったんだ。
筋肉痛になったのもそういうことだったのか。
「そのうえでもう一度聞きます。ユウヤさんはその力をどうしたいですか?」
俺がこの力を命を奪うことに後悔しているのならば、
「フレンズを、人を、このパークを守るために使いたい!!」
こんどはこの力で命を救えばいいのだ。俺は今をしっかりと生きる。
かばんさんが俺の発言を聞いてにっこりと笑う。
「それでいいんです。何をしたって過去のことは変えられません、だったらこれから先でそれ以上のことをすればいいんです。過去のことより今日や明日をどう生きるかのほうが大事だと思いますよ。」
それを聞いた俺は、心が救われた気がして
涙を流していた。
この人はすごい。カウンセリングまでできるとは、白衣を着てるってことはここで何かの研究の手伝いでもしてるのだろうか。万能すぎる。
大っぴらなこと言ったけど一つ問題がある。
「でも、この力を素面で使えるのか?」
そう。俺がこの力を発揮したときは意識が無かった。俺が人を殺した時だった記憶もないし。これは解決しないと力を使うどころの話ではない。
「サンドスター関連のお話はカコさんが詳しいのでそちらに聞くといいと思いますよ。」
カコさんが詳しいのか。俺はこの力をコントロールできるようになってみんなを守るんだ。よし、じゃあ早速カコさんのところn
「でも今日はもう遅いですし、うちに来ますか?」
んえ?うちに来るってそれってつまりかばんさんの家に行くってこと?
うーん、でもこの辺のこと何も知らないしあてもないからなぁ。いくならアオとリンも一緒だけど大丈夫なのかな?
「大丈夫ですよ、わたしの家は広いですから。」
かばんさんって心も読めんのか?いや、さすがにそれはないか。ないよな?
「あてもないし、甘えさせてもらおうかな。近いの?」
「近いですよ、じゃあ行きましょうか。ミライさん、そういうことなんでお先に失礼しますね。」
「そうだ、ちょっと待ってください。ユウヤさんに渡したいものがあるんです。」
俺に?いったい何を…。
「これです。」
渡されたのは腕時計のような何か。緑の枠に丸いガラス?が付いている。
「あの、ミライさん。これなんですか?」
こう聞くと答えたのはミライさんではなくこの腕時計だった。
「僕ハ、ラッキービーストダヨ。」
「うわぁ、なんだこれ、しゃべった?」
あれ、なんかすごいデジャヴを感じる。前にこんなことあった気がするぞ。
「僕ハ、君ヲジャパリパークニ運ンダ ラッキービーストダヨ。覚エテルカナ?」
おう、あのときのポンコツラッキーか。あとで時間ができた時にじっくり問いただしてやるかな。
「忘れねえよ。あの時はよくもやってくれたな?まあでも、よろしくな。」
「それだけですので、もう行ってもいいですよ。」
「ありがとうミライさん。」
こうして俺とかばんさんは外に出る。そこにはアオとリンが待っていた。ので事情を説明してかばんさんの家に向かって歩き出す。
パークセントラルはとても栄えているな。いや、「栄えていた。」のほうが正しいのか?周りが建物でいっぱいだ。あとで探索とかもしてみたいな。
そんなことを考えながら笑みを浮かべているとお決まりのセリフが聞こえてきた。
「お、いい顔頂き♪」
それを聞いた俺はまたこのセリフを聞く日々が始まるんだなって思うとなんだか嬉しい気分になった。
「そうかな?」
「私から見ても分かるわ。にやけてるわよ。」
俺ってやっぱり顔に出るんだな。
それにしてもさっきの俺はバカだった。生きる価値がないと自暴自棄になって自殺しようだなんて。そんなの過去から逃げてるだけだ。ちゃんと過去と向き合って、それがどんなにひどいものであっても生きて行けばいいんだ。
過去は変えられない、でも未来なら変えられる。かばんさんはきっとそれを教えてくれたんだ。
ところでさっきから気になっていることがある。普通に人がいるんだが?
さっきは誰もいなかったから何とも思わなかったが歩いていると普通に人がいるのだ。俺が人間を全員殺してしまったんじゃなかったのか?
とにかく全員いなくなったわけじゃないならいいんだ。でもなんでミライさんは最後の人なんて言い方したんだ?明日聞いてみるか。
「着いたよ。」
え?早いな。まだ1分も歩いてな…でっか。
なんだこの大きさは?こんなところに一人で住んでるのか?いや、それはないか。きっとこの大きさなら一緒に旅をしていたサーバルさんもいるんだろう。
俺たちはかばんさんに案内されて中に入る。すると一人のフレンズが出迎えてくれた。
「うみゃあ、おかえりかばんちゃん。」
「ただいま、サーバルちゃん。今日はお客さんを連れてきたよ。」
俺たちがドアの横から顔を出す。
「どうも、しばらくお世話になります。グンです、よろしくサーバルさん。」
「よろしくね!それにタイリクオオカミとアミメキリンもいるの?ひさしぶりだね!なんでこんなところに?」
不思議そうな顔で2人の顔を覗き込んでいる。それもそうだ、キョウシュウエリアにいたフレンズが2人も来ているのだから。
「グンの付き添いだよ。」
「ってことはグンちゃんもキョウシュウから来たの?」
ちゃん?サーバルさんは結構距離が近いタイプなんだな。
「そうですね。いろいろあって。」
「そうなんだ!しばらくここに泊ってくんでしょ?じゃあ上がって上がって。」
とりあえず中に入らせてもらった。中から見てもやっぱり広い。この空間に2人だけとは信じられない。
「この部屋は空いてるから自由に使っていいよ。じゃ、僕は夕飯を作ってくるから待っててね。」
案内された部屋も結構な広さだった。10畳くらいだろうか?これは俺の個人的な価値観でしかないが3人には十分すぎる大きさな気もする。が、空き部屋らしいので遠慮なく使わせてもらおう。
壁際には2段ベッドなんて豪華なものまで置いてある。かばんさんすっげぇ。あ、でも2段ベッド1つじゃ足りないな…今更一緒に寝るなんて恥ずかしいとか言えたことじゃないがちょっと恥ずかしいし何よりここはかばんさんの家だ。人様の家でくっつくわけにはいかない。付き合ってすらないんだから。
あとでかばんさんに布団無いか聞いてみよう。
それにしてもかばんさんの料理か…ちょっと楽しみ。
そんな感じでうきうきしてるとアオに冷たい視線を送られているのに気付く。
「私だって料理くらい…。」
嫉妬か。でもフレンズって火を嫌う子が多いんじゃなかったっけ?アオは大丈夫なのかな。でもアオには何も求めていないのだ。こう言うと興味ないみたいに聞こえてしまうがそうではない。
いまのままで十分なのだ。
「アオは今のままが一番だよ。」
なーんてくさいセリフを言ってみる。するとどうだろうか。アオが珍しく頬を赤くしている。そこで俺はすかさず、
「お、いい顔頂きました♪」
からかう。
「ちょっとやめてよグン。恥ずかしいじゃないか。」
笑顔もそうだったが照れた顔もなかなかかわいいなぁ…。
「取り込み中みたいだからあとでまた来るよ。」
この声はかばんさん?今までのやり取り見られてた?
「待って待って、大丈夫ですから。それでなんでしょうか?」
足早に去ろうとするかばんさんを止める。
「もうすぐ出来上がるので呼びに来たんですよ。」
「すぐ行きます!!」
こうして俺たちはかばんさんについていく。この香りはカレーだろうか?
ミライさんに初めて会った時もカレーだったっけ?懐かしいな。
さっきも見たリビングに入るとすでにサーバルさんがいた。
「もうすぐなので座って待っててください。」
俺たちはサーバルさんと同じように机の横に置いてある椅子に座る。空いている席が3つある。
ん?3つ?1つはかばんさんの席だとして、あと2つはいったい誰が座るんだ?
「今日はあの2人遅いなー。」
空いた2つの席に座る誰かの事だろうか。ちょっと聞いてみるか。
「俺たちの他にも誰か来るの?」
「来るって言うよりかは帰ってくるんだよ!一緒に住んでるんだ!」
ということは4人でこの家に住んでいるのか。それならこの広さにもうなずける。
「ただいまなのだ!」
「ただいまー。」
玄関のほうから声が聞こえてくる。噂をすればってやつか?帰ってきたのはフレンズ2人みたいだ。
「ん?タイリクオオカミとアミメキリンがいるのだ!?元気だったのだ?」
リビングに入ってくるや否や質問が飛んでくる。
「元気だよ。2人は…聞くまでもないか。」
「そこの人は初めましてみたいだねー。」
この2人がアライさんとフェネックさん?対称的な正確に見えるがとても相性がいいように見える。
「俺はグンです。しばらくここにお世話になります。よろしく。」
「アライグマのアライさんなのだ!」
「フェネックだよー。よろしくねー。」
やっぱりか。それにしてもかばんさんは人気者なんだな。彼女らは勝手についていったんだろう?
「できたよー。はい、『かばん特製カレー』!」
ん?どこかで聞いたことあるネーミングセンスだな。まさかかばんさんもそっち系なの?残念美女子なの?
「おぉー!今日はカレーなのだ!」
アライさんとフェネックさんが席に着く。それじゃあいただくとしよう。
全員「いただきます。」
ひと口食べる。かなり甘い、これがかばんさんの好みの味なのだろうか?
「やっぱりかばんさんのカレーはおいしいのだ!」
「このぴりっと辛い感じが癖になるよねー。」
俺がカレー作ったときも思ったけど俺ってやっぱり舌いかれてんのかな?
…もしかしてミライさんのカレーが原因?
「ねえ、みんなミライさんのカレー食べたことある?」
そう聞くとみんな苦笑いをした。
なるほど。その反応はつまりそういうことか。俺の舌がいかれてるのはミライさんのせいなんだな。まあ責めるつもりは無いが…ミライさんのカレーも久しぶりに食べたいな。
「このぴりっと来る感じいいねぇ。」
「このカレーおいしいですね!」
うわぁ、すっげぇ皮肉言われてる気がする。なんだよ!俺のカレーがそんなに不満かよ!
「グンのカレーも好きだよ。」
むくれていたのがみかねてアオがそう言ってくる。
「そりゃどうも。」
早口でカレーを食べ進める。
「ごちそうさま、おいしかったです。」
「お粗末様、ゆっくり休んでね。」
俺は足早に部屋に戻る。あ、布団無いか聞くの忘れてた、うーんどうしよう。
しょうがない、あの2人がどうにかかばんさんに頼むのを期待するしかないな。
今日はいろいろあったからもう眠い。先に休ませてもらおう。2段ベッドの下の段でいっか。
俺は下段のベッドに入ると、疲れからかすぐに眠ってしまった。
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