第13話 真実
「ユルサナイゾオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
叫び声で跳ね起きる。とりあえず周りを見渡す、先生とグンがいない。いったいどうして?
その理由はすぐに分かった。セルリアンがいる。しかも大きい。そしてその周りを飛び回る赤黒い影も見えた。
私はそこに走って近づいている。そこには先生を飲み込んだセルリアンと、
そのセルリアンに猛攻を行うグンがいた。
「ユルサナイ!!!アオヲカエセエエエエエエエエエ!!!!」
あの叫び声はグンの物だったの?それにグンの身のこなし、まるで鳥のフレンズだ。
しかも見たことないもので攻撃を行っている。距離が離れれば左手に握られた不思議な形をしたものから弾のようなものを発射して距離を一気に詰めた時はナイフのようなものでセルリアンに攻撃を加えている。
その姿は完全にヒトではない。動きは鳥のフレンズ並みに速いし攻撃もかなり強いのだろう。
グンの攻撃が当たるたびにセルリアンからサンドスターが飛び散っている。
何よりグンが身に纏って攻撃にも使っているあの赤黒いオーラのようなものはなんなんだ?
何がどうなっているのか分からないがこれは完全にグンの独壇場ということだけは分かった。
下手に私が入れば私まで刻まれかねない。
「クタバレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!」
おそらく今のが最高出力の攻撃だろう。刃物の形を模したサンドスターがセルリアンを切り裂く。あの小さなナイフから出てるとはは思えないほどの大きさだ。
セルリアンの体は真っ二つに割れ、ちょうどそこに石があった…いや、石を狙ったんだろう。
そして傷一つない先生を抱えてグンは私のほうに歩いてきた。
私はグンのその目を見て驚く。白目は真っ黒に染まり、瞳は真っ赤に輝いていた。
私の目の前で立ち止まるとグンは無言で先生を私に預けてきた。私が先生を抱える。
そして私に背を向けて数歩進んだ先で立ち止まると全身の力がぬけたようにその場に倒れた。
私にはどうすることもできない。ただ茫然と立ちすくめることしかできなかった。
「無事ですか!??」
その声が耳に入ってきて私はようやく意識を持ち直した。ミライさんがジャパリバスとは違う乗り物から降りてこっちに駆け寄ってきていた。
「私は大丈夫ですけど…先生とグンが…」
ミライさんが2人の容態をすばやく確認すると焦った声で言い放つ。
「とりあえず2人を乗せて港に向かいます、手伝っていただけますか?」
私は…私にできることはそれしかない。二つ返事でそれを了承した。
「彼は助手席に、タイリクオオカミさんは後部座席に乗せてください。」
私は先生を後部座席にゆっくり座らせるとグンのほうに向かう。そしてグンの体を持ち上げる。本当に人形みたいだ。グンの体からはまるで力が感じられない。
そしてそのまま助手席に乗せる。
「ありがとうございます、アミメキリンさんは一応タイリクオオカミさんの横に座っていてもらえますか?」
あたりまえだ。私にできることは何でもやる。
「はい。」
そして私は言われた通り先生の横に座る。そうするとミライさんがすぐにこの乗り物を発進させた。
「ミライさん…2人は大丈夫なんですか?」
私は2人とも失いたくない。もう大事な人を失うのは嫌なんだ。だからこの質問をした。
「おそらく2人ともサンドスター欠乏症です。タイリクオオカミさんは軽度ですが彼はかなり重度なのでまずいかもしれません。」
そんな…嘘だ、もう誰も失いたくないのに…。
「助けてください!お願いです!!」
「落ち着いて、船まで着いたら応急処置はします。そうすればまず死ぬことは無いので安心してください。」
良かった、助かるならいいんだ。
「…あれ?ここは?」
先生が目を覚ました。
「先生!!私の事覚えてますか?」
「あぁ、ちゃんと覚えているよ。でも私はセルリアンに食べられたはずじゃ…ハンターの到着が間に合ったのかい?」
これは嘘をつくべきだろうか。でも私は嘘が下手だし何より前の席で動かなくなっているグンの説明がつかない。
「グンが助けました。」
「そうか…グンは無事なのかい?」
私はこの質問に対して答えることができなかった。こんなこと気安く言えない。
「その反応…まさか!」
「落ち着いてタイリクオオカミさん、彼は助けます。」
「本当に助かるんだね?」
焦り気味で先生がミライさんに迫る。だがミライさんはその真剣な顔つきを変えることなく答えた。
「大丈夫です。絶対に間に合います。間に合わせます!」
車に揺られながら無言の時間が広がる。緊迫した空気が流れているのが分かる。
そして私たちは船に着いた。
「私は応急処置装置を持ってきます、2人は彼をよろしくお願いしますね。」
そう言ってミライさんは船の中に入っていく。
「グン…私のためにこんなになって…」
衣服はまったくもって汚れていないが完全に動かなくなっているグンを見て先生がつぶやく。
それからすぐミライさんが何やら機械のようなものとカプセルを持ってきた。
カプセルをその機械に挿して機械から出ている線をグンにつなげるとミライさんは何やらスイッチを押している。
何をしているのかは分からないけどこれで助かるならなんだっていい。
「これでしばらくは大丈夫です。」
「「良かった…」」
2人で安堵すると次の質問が飛んでくる。
「私と彼はこのままセントラルまで行きますが2人はどうしますか?」
答えは決まっている。
「「ついていきます。」」
「分かりました。では船に乗ってください。」
私たちが船に乗るとミライさんが何かに指示を出し始めた。
「ラッキー、セントラルまでお願い。」
「分カッタヨ 任セテ。」
ミライさんがそう言うと船は動き出した。
「みなさんは彼がいる部屋で休んでいてください。ちょっと狭いかもしれませんが3人なら入れるはずなので。」
「ありがとうミライさん、恩に着るよ。」
こうして私たちはグンがいる部屋に入り、そこでセントラルへの到着を待つ。
_____
なんだここは。真っ白の部屋に片方は窓、もう片方はドアが付いている。俺が寝ているベッドほかにベッドは無い。というか何もない。
俺はキョウシュウエリアをすべて見て回ったんだ。こんなところキョウシュウには無かった。ということは別のエリアだろう。
しかし俺はいったい…アオがセルリアンに食べられたところまでは覚えているんだが…。そうだ!アオは無事か!?
俺はとっさに体を起こす。するとどこかから声が聞こえてきた。
「寝てなさい。あなたはまだ安静にしてないといけないの。」
ちょうどカーテンと被っておれの死角にいたみたいだ。この人は誰だ?どうやら俺の看病をしてくれているみたいだが。
「そのあからさまな”あなた誰?”って顔やめてくれるかしら。わたしはカコよ。今あなたの治療をしてるから、何かあったら言ってね?」
治療って言うほど俺の体って今やばいの?しかし今は俺のことなんてどうでもいいんだ。
「アオは…タイリクオオカミさんは無事なんですか?」
俺が目を覚まして1番最初に思ったことを率直に聞いた。あの時のあの状況じゃおそらく助かってい無いだろう。でも生きてるかもしれないという希望を俺は捨て切れなかった。
「無事もなにも、あなたが助けたのよ?」
は?俺が助けた?そんなわけ…いや待て。俺はあの時からたった今まで気を失っている。それに治療されているということは俺が気を失っている間に何かがあったいう事になる。
じゃあ俺が気を失っている間に助けたっていうのか?そんなことがあり得るのか?あり得たとしてもどうやって?
「もしかして、覚えていないの?」
黙って考え込む様子を見て不思議に思ったのかそう尋ねてきた。
「はい…全く覚えてないです。」
「じゃあそのポーチの中の拳銃を見てみなさい。自分が助けた事が分かるはずよ。」
なんで知ってるかなんて疑問に思わなかった。こんなところに連れてこられているということは持ち物を調べられていても不思議ではないと思ったからだ。
俺はポーチから拳銃を取り出す。俺はそれを見て驚く。
「そういうことよ。」
どこから?どうやって?どうして?俺の頭にはそんな単純な疑問ばかり浮かんでいた。なぜなら
目の前の拳銃にはマガジンが挿さっていたから。
俺のポーチから出てきたということは俺の物ということになる。というかジャパリパークにこれ以外こんなものがあるはずない。多分。
本当に俺が助けたというのか?
「もしもしミライ?グンが目を覚ましたわ。ええ、お願いね。」
カコさんがなにやら耳に板を当てて話しているが俺はそんなこと気にも留めずに拳銃を調べる。
マガジンを引き抜くと弾まで入っている。が、この弾はなんだ?明らかに赤黒い。
俺はマガジンから弾を取り出して目元まで持ってこようとする。が、手に取った弾は俺の指に吸い込まれてなくなってしまった。
もう意味が分からない。ここに来てからの疑問が多すぎる。出てきた疑問を何も解決できない自分にすこしイライラする。
でも俺は今治療を受けているらしいし考えるのはやめてじっとしておこう。
そうしてまた俺は横になった。
「カコさん、この治療ってどのくらい続くんですか?」
「今日で終わるわよ。その点滴が終われば治療完了だから、それまでは安静にしてなさい。」
点滴?言われて気づいたが俺に腕に針が刺さっている。針から出るチューブの先には中の色が見えないようになっているのか真っ黒な袋が付いていた。
「カコさんは俺に何があったか知ってるんですか?」
「その辺はミライに聞いて頂戴、私はほとんど知らないわ。」
しってそうな雰囲気はするけどわざわざ知らないふりをするってことは何か理由があるのだろう。
ところでさっき「目を覚ましたわ」って報告してたけど俺どれくらい寝てたんだ?
「俺ってどのくらいここで寝てたんですか?」
「大体3日くらいね。それがどうかしたの?」
「いえ…気になっただけです。」
はぁ?そんなに寝てたの?俺の体にいったい何があったんだ…なにはともあれ明日には治療も終わるんだ。話はそれからでもいいだろう。
こうして俺は天井を眺める。
はあ…アオとリンに会いたい。そういえば俺の旅はまだ終わっていない。彼女らはもう終わっているかもしれないがな。
でも終わってるか終わっていないかは関係ない。約束したからだ、必ず帰ると。
旅の時間は短かった。それでも仲良くなるには十分すぎる時間だったんだ。それに俺が男だって言う特例もある。
「あ、言ってなかったけどここはパークセントラル内の病院よ。」
キョウシュウではないのは分かっていたがまさかここが目的地だったパークセントラルの施設だとは。
「それと、明日は地獄みたいな日になるかもしれないから覚悟しておいてね。」
カコさんが笑顔でこちらにそう言ってくる。顔はつられて笑ってしまうくらい輝いていたが発言の内容がえぐすぎてその輝きをすべて覆っている。
地獄みたいな日ってなんだよ…いったい俺に何が待ち受けているっていうんだ?
そんなこと言われると寝たくなくなるじゃないか。何もできない時間は退屈でしかないから寝て時間を進めてしまおうと思ったのに。
でもいっか、どうせすぐに明日は来るんだ。もう寝よう。
こうして俺は天井を見つめている目を閉じ、眠りにつく。
_____
「朝よ、起きて頂戴。」
「ん…。」
そう言われて俺が目を覚ます。と同時に俺の体にあるものが走った。
「痛ッ!!!!!!」
そう、痛みである。これは多分筋肉痛だ。治るとはいったいなんだったのか。
「つらいでしょうけど起きて、その痛みは治ってる証拠。外でミライも待ってるんだから早くして頂戴。」
はあ?こんな激痛の中どうやって起きろって言うんだよ。そうか、そういうことか。地獄みたいな日っていう理由が分かったぞ。
もうどうにでもなれ、持ってくれよ俺の体と精神。
俺は痛みを耐え体を起こす。もちろん激痛が走る。何かの精神修行かこれは。
俺は何とかベッドから降りてドアの前までまで歩く。
ドアに手をかけるだけの動作なのにやりたくない。もう力を使いたくない。
「ちょっと、止まらないでよ。」
この人鬼かなにかか?ヒトかどうか知らないけど。
俺は頑張ってドアを開けるとそこにはミライさんと…アオ?それにリンまで。
どうして?とか考える間もなくアオが俺に飛びついてきた。
まあそんなの俺の今の体じゃ受け止められるわけないので後ろに倒れる。さっき頑張ってからだ起こしたばっかりなのに!
俺の体にアオが覆いかぶさるような状態になっている。
「良かった。無事だったんだね…」
こう言ってアオが俺に抱き着いてくる。髪のいい匂いが…って駄目だ。今はそんなこと考えてはいけない。彼女はこんなにも純粋な心配を向けてきているんだ。俺はそれに純粋に答えなければいけない。
「無事だけど無事じゃない。」
アオが俺から体を少し話して不安そうな顔をする。その目には涙が浮かんでいる。
「あー、筋肉痛ってこと。」
またアオが抱き着いてきた。抱き返してあげたいけど今の俺はもうそんな力使える気力がなくなってしまったよ。
「私のためにこんなになって…心配させないでおくれよ。」
「ごめんねアオ、心配かけて。ところでミライさん?俺に用事があったんだよね?」
助けてと言わんばかりにミライさんに話しかける。
「そうですけど、なにやら感動の再会の最中みたいですし、まだいいですよ?」
この人も悪魔だったわ。
「私のことも忘れないで欲しいわ!」
声のほうを見ると泣いているリンがいた。なんか大事にされてたんだなって思うと俺も泣けてきた。
俺は痛みに耐え、アオを抱き返す。
しばらく経ってアオが俺から手を離して、俺の手を取って起きるのを手伝ってくれた。
「待たせてすまないねミライさん。」
「いえいえ、2人きりで話したいことがあるのですがよろしいですか?」
2人きりで?んな女の人と2人きりだなんて…。
何考えてんだ俺は。ミライさんに限ってそんなことは無いだろうが。この人動物大好きなんだから。
「はい、わかりました。」
「じゃあ部屋を開けてあるので案内しますね。タイリクオオカミさんとアミメキリンさんは外で待っていてください。」
「分かったよ。」
「分かったわ。」
そう返事をすると2人は階段を下りて行った。
「じゃあ、行きましょうか。こっちです。」
俺は言われた通りミライさんについていく。入った部屋の内装はさっきと変わらないがここは資料がたくさん入った棚と机が3つしかない。
そのうち2つは向かい合うように置いてあるがもう一つは端っこに置いてある。わざわざこのために配置しなおしたのだろうか。
俺より先に入ったミライさんが飲み物を入れてくれた。
「コーヒーです。どうぞ?」
「ありがとうございます。」
懐かしいな。ミライさんとこうして面と向かって何かを体に入れるのは。
俺はそんなことを考えながらコーヒーに口をつける。
「ところで話って何ですか?」
こう聞くとミライさんは目を一泊置いてから顔つきを変えて俺にこたえる。いつになく真剣な顔だ。
「あなたは自分の過去について知りたいですか?」
それは俺がここに来た本来の目的であって俺自身一番知りたかったものだ。
「もちろんです。」
「分かりました。ではまず初めに言っておきます。」
俺はミライさんが次に放った言葉に耳を疑う。
「あなたはヒトではなく、ヒトのフレンズなんです。」
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