嫌う空があるなんて思いもしなかった。

空を嫌う人たち。

なんてタイトルだろう。私は最初このタイトルを見たとき、宇宙が関連する話か、はたまた大雨かなにかにさらされる人々の話なんだろうか、など色々と妄想を働かせたものだ。――そもそも、空を嫌う人たちとはどういう人々なんだろうか。

惹きつけられるタイトルに誘われてページをひらくと、びっくりした。

砂色の世界が、広がっていたからだ。
遠い未来の荒廃した地球が舞台である。私が最初に感じたのは(あくまで私が最初に感じた印象でしかないが)、砂色でありながら散りばめられた砂金のように仄かに輝く世界の色であった。その世界に迷い込んだ私は、気づくとあっという間に虜になっていた。

地上を支配するのは、数メートルを超える巨大な翼を持った現人類。かつて、地上の主だった旧人類、つまり私たち人間は宇宙へと逃れ、空神様と呼ばれる皮肉のような存在として扱われている。その設定がまず面白い。

主人公は、現人類のアコウギという男で、彼は挫折を味わった末に、深く落ち込み空を嫌うようになってしまっていた。交通整理員の仕事をしながら暮らしている彼の人生は、ある日空神様の少女レーグルと出会いをきっかけに、大きく変わることとなる。この世界の大いなる秘密に迫りながら――。

どのように彼の人生が変わり、世界の秘密がどういうものなのかは、ぜひ読みながら確かめて欲しい。私程度の読解力と説明力では、この作品の面白さと展開についての解説はこの程度でしか踏み込めない。それが悔しい。

また、この作品の面白さは作者様の教養がなせる独特の設定そのものにある。言語、文学、芸術、哲学、天文学、科学……あらゆる既知の概念が独自に解釈し直されている。この思考実験が、ほんとうに見事に作り上げられていて楽しいのだ。樽の中に数十年詰められたウィスキーの芳醇な変化を見ているような気分になる。なじみの芸術家や哲学者、天文学者たちの名前が出てくるたびに、不思議と懐かしささえ感じられるから不思議だ。

そして、ラストに近づくと怒涛の展開が待っている。鮮やかすぎる伏線回収も行われるから、ここまで読み進めた人は絶対に驚くことになるだろう。

久しぶりのレビューで、いい紹介ができているかは正直なところ自信がない。ただ、この作品の面白さは絶対である。語り、ネタバレしたい気持ちを抑えながら、私はここで筆をおくことにする。

ぜひ、読んで確かめて欲しい。



空を嫌うとは、どういうことなのか。



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