#2 魔力源の探索問題

 東京に眠る魔力源はどうやら複数あるようだった。

 なぜそのことがわかったかというと、アイルとシュウが各地点に飛び回って魔力を感じ取ったとき、魔力が強くなるところはひとつではなかったからだ。


「これは、困ったな」

「闇雲に探すのも大変そうですね」

「少し時間がかかりそうだな……シュウ、何かアイデアはあるか?」

「ああ、それなら、ひとつありますよ」


 その日の夜、徹夜して、シュウはとあるアプリを開発した。

 東京の各地点で測定した、だいたいの魔力の大きさを入力していくと、「探索アルゴリズム」が次に東京のどのあたりへ飛べば魔力源が強いところに行けるか、アタリをつけてくれるようなものだった。


 スマートフォンの操作に慣れないアイルのために、シュウは簡単に使い方の説明をした。

「まずアプリを開いて……アイルさん、この辺の魔力はどのくらいですか?」

「そうだな、『普通』だ」

「ああ、『普通』だと、ちょっと入力できないので……いったんこの地点の魔力を100として、それと比べて入力していきましょう」

「わかった」

「では、このあたりまで飛びましょう。なるべく目立たないところにお願いします」

 シュウはそう言って、アプリのマップ上の池袋駅のあたりを指差した。

「承知した」


 そういうと、2人は朝の超満員の駅のホームに飛ばされたワープした


「うおっ、まあたしかに、目立たないといえば、目立たないですが……」

「何か問題があったか?」

「いえ、大丈夫です……」


 会話するには都合が悪いので、いったん改札の手前まで向かっていった。


「このあたりなら、大丈夫ですかね。このあたりの魔力は、さっきを100とするとどのくらいですか?」

「そうだな、120くらいだな」

「ありがとうございます。こうやって、大体の値をひとつずつ入力していくと、最終的にどのあたりに魔力源がありそうか、わかるんですよ」


「なるほど、確かに便利そうだ。こういうのが、科学というものなのか」

「そうですね。まあこれは、どちらかといえばシンプルなものですよ」

「そうなのか。ふふっ、ある意味、魔法よりも便利かもしれないな」


 アイルの顔がほころんでいた。


「ありがとうございます。では、続けましょうか」


 そのままいくつかの地点にワープしながら、魔力源を絞り込んでいった。

 そして、ほどなくして、1つ目の魔力源の「アタリ」を見つけた。



「ここか」


 そこは、六本木のとあるオフィスビルだった。


「意外なところにありましたね」

「そうだな。しかし、この建物は少し広すぎるな」

「そうですね……オフィスエリアの階には許可がないと入れなさそうですし。どうしようかな」

「許可がなくても、見つからないようにワープすれば大丈夫だろう」

「……まあ、そうしますか」


 2人は結局、ワープしながら、1フロアずつ探索していった。

 そして、とあるフロアに大きな魔力があった。


「このフロアはよく調べてみるか」

「そうですね、しかしこの階、なんだか暗いですね」

「ああ、もしかすると、罠かもしれない。少し、『読んでみて』くれるか?」

「わかりました。『真実に立ち向かう扉ドア・トゥー・ザ・トゥルース』!」


 真実に立ち向かう扉ドア・トゥー・ザ・トゥルースを身にまといながら、そのフロアを探索していった。


 周辺にバラバラと文字が浮かんでいる。

 しかし、それらしい会話の痕跡はない。


「どうやら、この階には何もなかったようだな。上の階に行こうか」


 アイルが次のフロアにワープする準備をしていた、そのときだった。


「いえ、アイルさん……あそこ……『何もない』んです」


 シュウの指差した先には、真実に立ち向かう扉ドア・トゥー・ザ・トゥルースの文字が、1つもなかった。


「そして、少し、僕、いま……ダメージを受けています……」


 シュウの右腕と右足から血が流れ出ている。


「シュウ、大丈夫か!」

「このくらいなら、なんとか……ただ、あそこはかなり危険な気がします」

「そうだな……ひとまず、真実に立ち向かう扉ドア・トゥー・ザ・トゥルースを使うのはやめるんだ」

「はい……」


 シュウは、そういって、真実に立ち向かう扉ドア・トゥー・ザ・トゥルースを解除した。


「あまり痛むなら少し座っていてもいい……しかしあれは、そこに魔力が触れると、術者がダメージを受ける、そういう『罠』のようだな」

「そうみたいですね……」

「私の転送魔法も、おそらく使えないだろう……さて、どうしたものか」

「ひとまず、百合ヶ丘先生に連絡しましょうか」

「ああ。怪我は大丈夫か?私が電話をかけようか?」

「あ、いえ、直接話すので、大丈夫です……」


 シュウはそういうと、ランに電話をかけた。


「ああ、シュウか。どうした?」

「実は……」

 シュウは状況をランに説明した。


「なるほど、それは難しい問題だ」

「ですよね、何かいい方法はありませんか?」

「『アレ』を持っていく。呼んでくれ」

「はい。アイルさん、お願いします」

「わかった」


 アイルは消えると、すぐにランを連れてきた転送した

 ランは、大きめのアタッシュケースを持っていた。


 何か、道具をいれているのだろうか。


「アイル、ありがとう。シュウ、結局のところ、あのあたりに『直接』魔法で触れなければいいのだろう?」

「おそらく、そうですね。でも、先生の魔法は……」

「いや、問題ない。私が行く」

「えっ、百合ヶ丘先せ……」


 そういうと、ランは姿を消した。

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