第2章 魔法国家日本

#1 東京の復興

 ランは、あのあと、自分の運命を受け入れることができた。

 いや、本当はあのとき——原子炉事故を泣きながら「なかったこと」にしたとき——最初から受け入れていたのかもしれない。

 シュウが、第一休憩室を覗いた時、アイルの腕に包まれて座っていたランの目は、光を取り戻していた。そんなふうに見えた。


 アイルは、アルテミアを守らねばならないが、ただ——。

 もう少し、もう少しだけランを優しく包んでいてあげたいと、そう思っていた。


 そして、シュウは川野に連絡をしていた。

 迷ったのだが、彼女たちをもう少し休ませるためには、そうするほうがいいと思ったのだ。



——それから2週間後。


 東京は驚くべき速さで復興した。瓦礫がれきとか、動かない車とか、そういった類の障害物はアイルの転送魔法で処分場に送られた。

 切断されたが通常だと直しようのないケーブルとか、どうしても直さないといけない通信機器とかサーバは、ランの魔法でそれが「壊れたという事実をなかったこと」にした。

 自衛隊経由でヘルプの連絡がきたときに、アイルの転送魔法で、ランをそういったところに送っていた。

 ランはアイルの人使いの粗さがちょっとだけ不満だったが、「まあ、あのアイルがそうしたいのだったら、そうしよう」という気持ちは変わらなかった。


 そして、シュウは、あれから——川野防衛大臣の事務所に通っていた。



「いやー、さすがにあのときは驚いたよ」

「まあ、そうですよね……」

「一瞬で原子炉が直ったと聞いて、耳を疑ったよ。でも、そう考えるよりほかにないよね。あのときアイルさんと君が事務所まで飛んできて、私を原子炉の前まで飛ばされたら、そりゃあね。結構強引だよね、あの子」

「まあ、そうかもしれませんね」


「で、東京の復興だが——とくに大事なところは、このまま、百合ヶ丘先生とアイルさんに任せちゃっていいのかい?」

「二人なら、そうすると思います」

「そうか、それは助かる。報酬を弾まないとな」


 川野は少しニコッとしたあと、続けてこういった。

「では、魔力源の探索は、それからでいいかな?」

「はい、問題ないです」



 ——そして、東京の機能は復活した。

 大学や研究機関も、必要な機能は再開した。


 ランとアイルの復興作業も一段落した。


「さーて、そろそろ魔力の解明といくか。アイル、しばらく触媒を借りてもいいかい?」

「ああ」

「助かる、基本的な魔法は覚えたからね。まずは魔力の測定器を作らないとな」


 ランは魔力の研究に着手していた。

 


 そして、どうやら、原発の1機を魔力増幅装置にしたいようだった。


 復興がある程度終わって3人が川野のところへ挨拶にいったとき、「あれだけ私が『東京を直した』のだから、1機くらい魔力増幅装置として使ってもいいだろう。最悪『なかったこと』にするから」と言って、川野を説得していた。

 結局、政府で議論して、秘密裏に許可がおりたようだった。



「そして、魔力源の探索。こちらはアイルに任せてもいいかな?」

「ああ」

「もし何かあったら、転送魔法で呼んでくれ。いつでも行けるようにしておく」

「わかった」

「ありがとう、ではシュウは……」

 シュウはどちらの作業をするのか分からなかった。


 2人はニヤッとして言った。

「両方だな」


 アイルは、人間をひとり送る転送魔法程度なら、頻繁ひんぱんに使えるようだった。

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