#8 アイルの服を買いに行こう! その2

 伊勢丹についた3人は、レディースファッションのフロアへと向かった。


「まあ、ひとまずはここにしようか。アイル、どういうタイプの服がいい?」

「私は基本的に甲冑かっちゅうか、執務中はフォーマルな服を来ているから、あまりよくわからないな……」

「そうか。じゃあ、私が決める。それでいいか?」

「ああ」


 ランは店に入ると、ほとんど迷いなく、ミニスカート3着と、セーター2着、ブラウス2着を手に取った。

「じゃあ、アイル、これを試着しよう。シュウはそこで待っていてくれ」

「……わかりましたよ」


 そして、ランとアイルは試着室へと向かった。


「アイル、まずはミニスカートの試着だな。アイルのスタイルならおそらく真ん中のサイズでいいと思うが、念の為にあと2つ持ってきた」

「ありがとう。えっと、こういうのは着たことがないから、よくわからないのだが……」

「問題ない。今から着せ方を教える」

「あ、ありがとう……」


 ランは、アイルに仮で着せておいたジーンズを脱がすと、手際よくスカートを着せた。


「触ってみた感じだと問題なさそうだが、アイルはキツくないか?」

「大丈夫だと思う」

「よし。それじゃあ、セーターのサイズを確認しようか。おそらくこのサイズで問題ないだろう」


 そういうと、ランはアイルに着せていたTシャツを脱がせた。

「……やっぱり……スタイルいいよな、アイルは……」

「ん? 何か言ったか?」

「あ、いや、なんでもない。これの着方はわかるか?」

「さっきのTシャツと同じか? であれば問題ない」


 アイルはそういうと、少し慣れない手付きでセーターを着た。


「どうだ? キツくないか?」

「ああ、ちょうどいい」

「よし、サイズは大体わかったというところかな。じゃあ、いったん鏡を見てみようか」


 アイルは試着室の鏡を見て、少し驚いた。


「えっ……かわいい……」

「おっ、かわいいとかそういう感覚は異世界から来たアイルでも変わらないのか。今日は長くなりそうだ」

「ラン、ありがとう」

「いや、問題ない。じゃあ、次はこのブラウスかな。こっちは私が着せてあげよう」


 そういうと、次にランはブラウスを着せ始めた。

 ブラウスのサイズも問題ないようだった。


 そして、試着室から出てきた2人は、シュウを呼んだ。


「さて、『客観的な観察』といこうか。シュウ、アイルのこの服、どう思う?」

「おっ、結構似合ってるんじゃないですか?」

「そうか。それなら、ひとまずこの方向性で揃えるか。本当はアイルにも、もっとファッションを楽しんでほしいのだけど、まあそれは余裕があるときにしよう」


 ランとアイルはそのまま夢中で服を選んでいた。


 シュウには、いつも研究に没頭しているランが、ずっと笑顔のまま、夢中で服を選んでいるのは意外だった。

 アイルもいつも甲冑かっちゅう姿で、しかも大統領という立場なのに、今日だけはそれを忘れた少女であるようにみえた。


「ま、こんなところかな。思ったより多くなったけど、このぐらい私が払っておくから心配するな」

「すまない。恩に着る」


 ランは会計を済ませると、両手いっぱいの手提げ袋を引っさげて、店から出てきた。


「さすがにちょっと重いな……アイル、この手提げ袋を研究室まで転送してもらえるか?」

「わかった」


 ひと目のつかない場所に移動して、アイルは手提げ袋をランの研究室に転送した。


「ふう、いったんの買い物は終わりかな。じゃあ、次の店に行こう。あ、シュウはもう帰っていいぞ」


「え、もういいんですか?」


「ああ。ただ、アイルは残っていてくれ」


「私が? ああ、わかった」



 シュウを見送ったランとアイルは、伊勢丹の1階に向かった。


「ま、この店でいいか」


 そこは、ある有名なアクセサリーショップだった。


「アイル、アルテミアって、その……指輪とか、そういう文化ってあるのか?」

「指輪? ああ、あるぞ。人によっては魔力を増幅するのに使ったりしているな。もっとも、私の魔法は触媒がいらないから、使ったことはないが」

「そうか。それならよかった。この世界だと『ファッション』として、指輪を付けたりするんだ。だから、まあ、その……さっきの服を選んだのと似たようなものだ」

「そうなのか」

「ああ、少し見てみようか」


 そんな雑談をしながら、2人はアクセサリーショップに飾られている指輪を見て回った。


「おっ、これとかいいんじゃないか? アイル、どう?」

「まあ、悪くはなさそうだ」

「そうか。じゃあ、これで試着してみるか」


 ランは店員の女性を呼んだ。


「お客様、ご試着をご希望ですか?」

「ああ、私じゃなくて、この友達の指輪だな」

「かしこまりました。指は、どちらになさいますか?」

「あっ、えっと……ちょっと考えるから、『全部の指』を測ってもらえるか……?」


 店員は少しだけ笑みを浮かべて答えた。


「かしこまりました」


 アイルは、ランの様子が少しおかしいな、と感じたが、おそらくさっきの服の買い物で疲れているのだろうと思っていた。


 そして、測定が終わった。


「お客様ですと、親指が14号、人差し指が10号、中指が11号、薬指が9号、小指が7号でございます」

「なるほど……ありがとう、アイル、どの指にするか考えるから少し待っていてくれ」

「わかった」


 そういうと、ランはスマホに何やらメモを始めた。


「……よし、決めた。左手の中指にしよう。アイル、問題ないか?」

「ああ」

「では、さっきの指輪を試してもらっても構わないか?」

「かしこまりました」


 店員が11号の指輪のサンプルを持ってくると、アイルの左手の中指にはめた。


「付け心地はいかがでしょうか?」

「問題なさそうだ」

「お気に召されましたでしょうか?」

「私はちょっとそういうのに疎いのだが……ラン、どう思う?」

「えっ! ああ、似合っていると思うぞ……」


 ランはそのとき、アイルの左手をじっと見ていて、急に自分が呼ばれたことに少し驚いた様子だった。


「ランが言うなら、大丈夫そうだな。じゃあ、これにしよう」

「ありがとうございます。お会計は、どちらが……?」

「ああ、私が出す」

「かしこまりました。ただいま準備いたしますので、少々お待ちくださいませ」


 店員が準備を始めると、ランはアイルにこう伝えた。


「ちょっと長くなりそうだし、適当なカフェで待っていてもらえるか?」

「ああ、わかった。近くのスタバで待っている」


 そういって、アイルは伊勢丹を出た。


 ほどなくして、会計の準備を済ませた店員がやってきた。


「お待たせいたしました。お会計は95,000円になります」

「ああ、カードで」

「かしこまりました」


 会計が終わって指輪を受け取った。


 そして伊勢丹の入り口まで見送られる間、ふと、店員の女性が口にした。


「失礼なことをお伺いしてしまうのですが……お客様、あの方とは、いつから『お付き合いなさっている』んですか?」

「えっ、あっ、お付き合いとか、そういうのじゃ……」

「ふふっ、そうなんですね。またのお越しを、お待ちしております」



「まあ、『あの日』までには、『あの指輪』を渡そう、かな……」


 そんなことを考えつつ、ランはアイルの待つスタバに向かったのだった。

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魔法国家の破壊実験 >>> if AI.isMagic(): # 科学との境界において 奇崎有理 @kisakiyuri

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