【完結】はぃ? ヒロインって 意味がわかりません

桜泉

第一章 幼少編

第1話(プロローグ) 覚醒

 長い悪夢を見ていたような、最悪の目覚めだ。

 飽和する熱に覆われた身体も目蓋も、重たくてぴくりとも動けない。

 悪夢が続いているのか、途切れていた意識が戻ろうとしているのか。めまぐるしく飛び去る映像に、頭がクラクラする。


 幼い記憶の底に、歳振りて枯れた記憶がこびり付いていた。

 繕う事も、やり直す事も諦めた、晩年の後悔? 

 いつでも足りない言葉が、誤解されたまま積み重なり、孤独だったような気がした。

 それよりも心を抉り苛むのは、漠然とした己の未熟さと、取り返しのつかない愚かさ。悔やんでも悔やみ切れない感情と、重苦しい諦観だ。


(もう、良いよね。もう、疲れたから… )


 それは、切れ切れに思い出した人生が、ふつりと途切れる寸前の、どうしようもない感覚だった。


*****

「知っているけど、知らない天井だわ」


 足元に向かって斜めに低くなるシミだらけの天井は、煤けて埃っぽい。

 少し張り出した窓に、日焼けして色の分からなくなったカーテンが揺れる。

 暑くて寝苦しい板の上で目覚めたヴィバロッテが、一番初めに目にした風景だ。

 説明されなくても、ここが屋根裏部屋で、自ずと貧しいのだと分かる。

 擦り切れる寸前の薄いカーテンを揺らして、真夏の朝日と茹だる風が入り込む。


「…疲れた」


 木箱にボロ布を重ねた寝台は、横たわっているだけで体力を削る。

 目覚めるたびに、疲れが溜まる気がした。


「ちょっと 待って。 なんか 違う」


 記憶の底の底。

 今生の生で築いた記憶より、もっと深い場所から、違う記憶がせり上がる。

 魂の奥底にわだかまり、人の身で思い出してはいけない、消失した筈の記憶。


「待って…何 これ」


 勢いよく回る独楽が最後の回転を終えて止まるように、混濁した意識が整った。

 眩暈も気持ち悪さも治った眼前には、埃に塗れた床と雨漏りの跡が残る天井が映る。

 身体を起こそうと着いた手が空を掴み、訳も分からず転がり落ちた。


「痛ぁ」


 低い木箱のおかげで大した怪我もないが、出窓で寝ていた鳥が驚いて羽ばたく。


「あ…ごめん、ラピス」

 差し出した指に止まったのは、紺碧の羽に夜空の模様がある小鳥だ。

 数年前。怪我をした小鳥に■■■■をかけたのがきっかけで、友だちになった。 

 ラピスラズリに似た小鳥を、ヴィバロッテはラピスと呼んで可愛がっている。


「あれ? 何をして、ラピスの怪我を治したんだっけ? 」

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