第12話

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君から急に、これ、私に似合うと思う?といったメッセージと共になんだか不思議な形のワンピース(と、書かれている)の写真が送られてきた。服なのに、丸に近い形をしている。人間がこれを被ったところを想像するのは難しい。首元は、畳の端のような刺繍の入った太いテープのようなもので彩られているのでなんとなく分かったが、肩とか、腕がどう出てくるのかだとか、どういった垂れ下がり方をするのか、などは僕には全くわからなかった。

そして、服の写真だけではどうにも判断しかねる。僕は君の笑い方や泣き方は覚えていても、君の体つきや特徴を頭に描けない。君のほんの少し跳ねるような歩き方も仕事中のかしこまったお辞儀も、愚痴を言う時の悩ましい肩の揺らぎも思い出せるのに。

しかし、残念な僕には君の体の写真をもらうことなんてできなかったので、頭を全力で回してまっすぐな君の姿を思い出した。



君の働く居酒屋は制服があるから、きみは通勤に数パターンの私服しか使わない。


たしか、ああ、曖昧にしか表せないことがひどく悔しく感じられるが、君は肘から下、膝から下、そして首がとても細い。それに対して肩や腰回りはそれなりの骨幅を感じる。胸や尻だって体に対しては豊かな方だと思う。ラフランスに近いかな。これは、僕なりには褒め言葉なのだが、口にするのは憚られる気がする。

いつだったかスリーサイズを測ったという日に、こんな大きな尻の女は同じ身長のAV女優じゃそういなかったわ、どういうことよ!と少し怒り気味で、ハイボール片手に、また悪戯っぽく笑っていたような。それを気にしてか、よくウエストを細く絞るような服を着たがっていたような気がする。そうだ、だからベルト選びにこだわっていたんだったか。男物の方がゴツゴツしていて面白いけれど、長さが余りすぎちゃうの、と君は二周してしまうのではないかというくらい長いベルトを触りながら言ったんだ。

また、君はここ最近の色々な不調によって、より華奢と言われる部類に近づいてしまったなあと感じる。しかし、そう言ったって肩幅や骨盤は変わらないのか。ううん。ああ、もうメッセージを読んでから10分以上経ってしまった。何着ても似合うよ、なんて思っていても、君はこんな言葉すぐ丸めて放り投げてしまうだろう。根拠が不十分すぎる。僕にとってはとても難しい。

そうして、あれこれ考えた後、これはシンプルにまとめるが吉だろうと思って、


着た時に君が気にするのは、ウエストのあたりなんじゃないかな。そこが納得いけば、君にはきっと似合うと思うよ。色が綺麗だし。


と手短にまとまっているんだかいないんだか分からない文章を送った。

色が似合うかどうかは実際目にするまでわからないけれど、綺麗じゃない色なんてきっと無いからいいんだ。君も一瞬たりとも綺麗じゃなかったことなんて無い。だからきっと似合うんだろう。しかしこの質問の答えに好意は微塵もいらないのだ。そんなもん添えようものなら、すべて台無しになってしまうから。


たしかに!

と君からメッセージが1つ届くや否や、じゃあきっと着こなせないなあ、風船みたいになっちゃう、と連続したメッセージが届いた。

君はこのワンピースを買わないようだ。

ありがと!と手短に終わってしまったやりとりを見つめながら、なんだか良いことを、いや、正しいことを、君に対する正解に近づけたことを僕は少しだけ誇らしく思った。

同時に、この誇らしさに所有という概念が纏わりついて来ないことを願った。虻を振り払うようにシッシッ、とそれを遠ざけて、ただ正解への喜びに浸ることにした。いつしかその所有という概念が、ヘドロのように欲に変わり、最後には固まった焦げ付きのようにこそげ落とさなくてはならないのだろうか。僕は僕が勘違いを、面倒な掃除をすることのないよう管理してやらないといけないのだ。

面倒なことだ。しかし君のことを好くには、これくらいの労力は必要なのだ。愛は消費カロリーが大きいぜってだれかが歌っていた。

あの時はくだらないと思ったけれど、今はそうしてあの言葉を無下にはできないな、なんて遠く遠く思った。

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