第6話

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君が彼氏を振る時は、ほとんどが苦しさでいっぱいになった時だ。君はもちろん余計な心配をかけるのが好きではない。だからきっと、1番身近で心配してくれる人を排除したくなる。これ以上迷惑はかけたくないと思うんだ。まあ、しかし、そんなのは理由のうちの数%に過ぎないのを僕は知っている。



君はもう二度と、金輪際、一生誰にも「君のためだ」「自分を大切にしろ」だなんて怒られ方をしたくないのだ。だから誰かに大切にされればされる程あの恐怖に怯えていく。もう怒鳴られたくはない。君が君自身を誇らしく思うことも、また愛しく思うことも、それを踏まえて心から大嫌いで、憎らしく思うことも僕は知っている。

今までの人生を、いわゆる「ブラック」な場所で過ごした君は努力も忍耐も、頑張りという言葉さえも大嫌いだ。いや、嫌いなんかじゃない。そんなもの信じない、ありえない、存在しないと思っている。その嫌いな三つにこれまで全てをかけて君は生き抜いてきた。何度も信じて挑戦しては裏切られてボロ切れのように無下に捨てられた。こんなにも身を粉にしてさえこの有り様なのに。自分のことを「大切」に、甘く、休ませるなんて、君の築き上げてきた本当に本当の全てがバキバキと音を立てて壊れ落ちていくと容易に想像できる。

いつだって誰よりも早く、また遅くまで練習をしても一回も出られなかったバスケの試合。毎日4時間しか寝ずに他を全て使って挑んだ美大の受験では、予備校の先生に絵を破り捨てられた。朝から晩まで大学でしていた卒業制作の評価は下から2番目だった。



そう、君はもう誰とも競いたくないのだ。

優劣じゃない、勝ち負けじゃない広い広い世界の中で、手足を思いっきり広げて浮かびながら。流れ付きたまに手に掛かる新たなものをウキウキと眺めながら。時折深く潜ると出会う知らぬ相手とたわいもない会話をして。そうして、ヒビの入った誰かに出会えば抱きしめて治るまで側に居てあげて、トゲだらけの体を持つものがいれば柔らかく包み込んでゆっくり溶かしてあげたいのだ。

君は、もう数えきれないくらいの傷や痣を、障害や疾患を内に抱えている。喉は潰れ、声をあげることもできなくなっている。助けてなんて言えるはずもない。それでもなお、まあるく、やさしく、やわらかい、全ての苦しみを持つ者への救いでありたいと願い続けるのだ。君は君なんてどうだっていいに近い。君はこの丸い地球を愛しているんだ。


稚拙な作りで、無機質で可塑性のない僕なんか、君の横に並ぶことなんて何年経っても似合わないけれど。

僕は君が好きで、愛おしくて、君の全てを信じると誓えるんだ。僕だけが、君を全て肯定してあげられるんだ。きっと。きっと。

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