第9話
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今日はなんだかのんびりとした一日であった。仕事もそう無く、順調に進んでいた。
帰り道、そうだ、家の洗濯バサミがいくつか壊れていたなと思って、100円ショップに立ち寄った。
僕は「こんなの欲しかった」「痒いところに手の届く」といった売り文句に弱く、結局数十分店内をうろついてしまった。
まあいい、特に買うきものは洗濯バサミだけだ、とレジへ向かう途中に駄菓子コーナーを見つけた。
小さいカップヌードル、味が持たない板ガム、スナック菓子……4つか、2つで100円か。僕は少し小さい頃のように胸を弾ませて、お菓子を選んだ。
その中の一つ、音の出るラムネを見つけた。
子どもの頃なんて、それを合図のように鳴らしあっては探検ごっこをして住宅街を走り回ったもんだ。懐かしく思い手にとる。
あ。そうだ、君もこのラムネをよくもらっていたな。まだ知り合ってまもない頃だろうか、顔馴染みのバーのマスターがオマケのおもちゃを集めていて、ラムネだけ僕らによくくれていた。僕らはそれを食べつつも良く呑みよく笑い合った。
そう、このラムネは、そんなケラケラとよく笑う君の意外な一面を見せてくれた。
君は笛のように鳴らせるラムネをポイと口に入れては無表情ですぐに噛み砕くような、ひとさじの残酷さがあった。ラムネを手に取る時には、マスターに、またコレ?なんて言って笑いかけるのだが。鳴らして笑ったりでもしそうなものだが。しかし、そう、興味をそそらないものなど、君には存在しないも同然なのだ。ゴリゴリと音を立ててラムネは食われていった。君は、あの笛の音に毛ほども興味はない。
あの当時から、僕は君の、その少しの冷酷さに、苦しいくらい魅了されていた。
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