第4話

9/12



今日は君が副業でしてる居酒屋で一杯だけ呑むことにした。

君は空いたグラス、皿、その他紙屑をせかせかと下げては、新人バイトだろうか、変わらないくらいの年の子のフォローに入ったりしていた。新人がミスをすれば君も怒られるし、お客を待たせれば怒りは君にぶつかる。金曜の夜なんてそういう時間帯だ。

だが僕は、顔はそこそこにしか笑っていないが、心の中で悦んでいるのを知っている。

君は昔から理不尽な環境に生かされすぎていた。苦しくても良いのだ。いっぱいっぱいで、ギリギリで、表面張力で保てる限界の心と身体でありたいと思っているのだ。君は苦痛中毒。忙殺願望。楽に働きたいからといって始めた受付のバイトなんて、2日でバックれて。何もすべきことの、できることのない、多くの人間にとっての豊かなゆとりが君にとっては今隣の机に転がる箸袋のゴミと変わらぬのだ。笑ってしまうが、僕以外の全ての生き物は、そんな君を怒ったり心配したり矯正してあげようとしたりするんだろう。彼女が幸せだって信じられる脳を持ってないんだ、馬鹿が。


僕は苦しさを渇望する君を絶対に否定しない。その息切れた喉に美味しい美味しい水を注いであげることもできないが、飢えにのたうちまわる君をただ目を細めて眺めて、ゆっくりと横に座って見ていることが僕にはできるんだ。苦しい?もっと、欲しい?そうなのか。君は素敵だよ。大丈夫、何も変えようとしなくていい。君はそのままでいいんだ。僕が、僕だけがいいっていうんだから、本当にそれでいいんだ。安心してこのままの君でいてね。



時間もなく2、3品しか頼まずにお店を出てしまった。君に話しかけることも、目を合わすことすらしないしできなかったが、君が渇いた喉を潤しているところが見られてよかった。

今日はもう帰ったら、君の写真なんか眺めずに、すぐに電気を消して寝てしまおう。

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