第5話
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今日は君が「今自由が丘にいるのよね」なんてメッセージをくれたから、普段使わない大井町線に乗って北口のざわめきに向かう。
いつものバーの扉を開け、グラスの用意された君の隣に座る。
ねーぇ、きいてよ。「君を守りたい、一緒にならないか」だなんて。
どうせあんたも、私のどうしようもない性分の、治らない「悪い」ところを叱って怒って、ふふ、叩いて曲げての方がそれっぽいわね。それで、「君のため」なんて言葉で自分のものに仕立て上げたいだけなんでしょ。毎回毎回、いっつもそうなんだから…
君はそう、誰かからの懸命な告白を、ポイと投げるように愚痴りながら誰かからもらったセブンスターを吐き、ふーう、と声に出してため息をついて見せた。
なにか助言したりさえすれば、僕もその一部だと思われそうだなと怖くなり、ああ、馬鹿な奴等だよなあ、と精一杯のうまい相槌をうった。臆病で馬鹿な僕は君のことが好きだけれど、うまく好くことができない。君が気まぐれに寄りかかるのを待つ頼りない木のようなものだ。陽で影が伸び風で葉が揺れるのを待ちながら。そう、僕の力ではなくて。君が偶然にも少し疲れて、偶然にも心地よい瞬間が訪れるところに、偶然居合わせるのをただ待つことしかできぬものなのだ。素敵な君のことが大好きな、くだらない僕なんだ。
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