二章 オオカミ少年と誠の侍 その5
「遠足だり〜。」
次に日の昼時、バルナバは草原の上で空を仰いでいた。バルナバの学校は隣町の近くまで遠足へ行っていた。バルナバはちゃっちゃっと自分で作った弁当を食い終わると先生の目を盗み他の子どもたちから離れていた。そこに二つの影が近寄る。
「いたいた〜。おいバルナバ! 俺ら置いて暇つぶしとはええ度胸やないの。キレそう。」
「まあまあ、クロス氏ー〜。君年中キレそうじゃん。」
ステパノがサイモンをなだめると、寝転がっているバルナバと目を合わせた。
「先生心配してたぞ?」
(出たなお邪魔虫二人。こっちは謎の戦士対策を考えるのに忙しいってのに…。)
バルナバはそう思いながら体を二人に背を向ける形で横にしてから、ニヤけながら返事をする。
「心配なまま、心拍数上げて心臓発作になれば面白そうだな。」
「恩師になるであろう方になんてこと言うんだ! もうキレそう。無理矢理連れ戻そうぜステパノ。お前上半身持て。俺脚持つ。」
サイモンはそうステパノに指示すると、ステパノは嫌そうな顔をした。
「君脚の方が軽いじゃん。なんでクロっちゃん楽したがるん?」
「うるせー! 俺は頭脳派なんだ。頭が切れるとは俺のことよ。」
「「そして年中、怒りでキレそう。」」
「二人して、俺をコケにするな!」
寝転がっているバルナバと立っているステパノ二人に対してサイモンは言うと、ステパノに再び指示した。
「いいからこのワイルドな王子様持てよ、ステパノ。」
「はいよ〜。」
「おい、あんたら離せよ。集団行動嫌なんじゃー。」
三人がこうして騒いでいると、たくましい声が入ってきた。
「童同士の美しき友情よ。誠に尊きか。」
この声の方向に思わず三人は目を向けてしまった。
(で、でっけえええ! この前仕留めた熊よりでけえ御仁だ。だがあの熊と違って勝てる想像ができねえ。…良さそうな剣だな。いや刀というのだな。スピード重視の武器をこの大男が振るったら…。)
サイモン・クロスは男を見た瞬間そう思った。
(なんと美しき筋肉! 人間の限界以上に体を鍛えてらっしゃる雰囲気だ! しかも武器からして技も研ぎ澄まされているとみた。しかも素敵な偽りのなさそうな笑顔ときた。この世界に数少ない、信頼できそうな大人だ。)
ステパノは男を見た瞬間そう思った。
(この声と隠しきれてない威圧感! 間違えねえ、奴だ! もう俺の素性がバレたのか? いや、ウルフィは家にいる。とりあえず何者かを知っとくか。)
バルナバは澄ました顔をしながら、脳内では焦りそう思った。すると、男はお辞儀をした。
「いやあ、失礼しやした。某もこう見えて、おまはんらのような小さき時期がありもした。それを思い出させてくれたおまはんらの友情に乾杯しもす。」
「オッチャンどこをどう捉えて美しい友情なんだ? どう見たって強制連行だよ。」
バルナバはちゃんと立ちながら反論すると、ステパノは彼の背中を軽く叩いた。
「コラバルナバ。初対面の方に対して失礼だぞ。」
「知りもしない俺らの行動に間違った評価をする方が余程失礼だろ。」
バルナバはそう反論すると、男に目を向けた。
「オッチャン見た感じこの辺のもんじゃないね。なにもんだ?」
「某、生は東武国、地位は武士、心は侍。名は狩山 五郎と申す者なり。」
五郎はそう自己紹介すると、ステパノとサイモンは侍と聞いて、目をキラキラさせていた。五郎はそのまま話を続ける。
「時に子どもたち、某、ある調査をしている。差し支えなければ協力をお願いしたい。」
「もちろん協力します。」
「仕方ねえな。この俺様がお侍さんに協力してやるよ。」
「めんどい。他当たって。」
「「だからバルナバ、おま失礼だって!」」
ステパノとサイモンがツッコミを入れると、五郎は笑う。
「ハッハッハッハッ、よきよき。強制ではござらん。子どもは正直が一番。……丸っこい狼のような生き物を探しているんだが、見たか聞いたか何かしら知らんか?」
「んん〜。僕は聞いたことありますが、何者かとかは知りませんね。」
「俺は狼を何度か仕留めたことあるが、お侍さんの言うよう奴は見たことねえ。すまないな。」
ステパノとサイモンは正直に言うと、今度はバルナバが口を開ける。
「俺も知らねえな。」
「そうか。……お邪魔した。失礼する。」
五郎は子どもらに背中を向けて町の方へ歩き出した。
「待てよ、おっさん。」
バルナバは引き止めると、五郎は顔を向けた。優しい笑顔だった。
「なんだね、少年?」
「勝負しようぜ。」
バルナバはそう言うと、拳を構えた。ステパノとサイモンはいきなりのバルナバの発言に動揺する中、五郎は笑顔のまま手のひらがバルナバに見えるように上げて、首を振った。
「某は無益なケンカはせぬ主義なので、お断りする。」
「なんだ〜おっさん。びびってんのか〜? 腰抜けか〜?」
ステパノとサイモンが呆れる中、バルナバはわかりやすい挑発を言い放った。するとバルナバはハッハッハッ、っと大笑いしながら拍手をした。これにはバルナバも驚いた。
「少年、正解だ。某はとても弱い故におまはんが怖くて怖くて仕方ない。腰抜けのビビりである。よって棄権する。」
そう言うと、狩山は下手くそな演技で逃げるような走りをして、その場を去った。
(弱い? …腰抜け? …嘘つけ! 舐めやがって! 見てろよ、狩山 五郎! 東武国の侍だがなんだか知らねえが、今夜は我らがお前を狩ってやる!)
バルナバは心の中でそう決意した。
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