一章 災いとの出会い その4

「お前だけ失敗作だ。」

「お前は出来損ないだ。」

「お前は弱い。使えない。」

「消えろ。」

(くそおおおお、おいらをバカにしたあいつらの声がまだ脳裏に響く。けど今は集中しよう。このガキに寄生すればスタート地点だ。世界への復讐のな。)

共生マムルーウルフィは野心を心に秘めて自己紹介を続けた。

「急に話しかけてごめんね。もう一度言うけどおいらはウルフィ。君と友…」

「カミサマああああああ!」

しばらく黙っていたバルナバは大声を上げた。当然ウルフィも戸惑った。

(ええええええ! なんだこいつうううう! 頭イかれているのか?)

「あの〜、君大丈…」

ウルフィの心配の言葉もバルナバは耳に留めなかった。

「天国の扉が我を待つ! レクリエーション! オリエンテーション! イリュージョン!」

(なんだこいつ⁉︎ 急に踊り出した。何の儀式? 子供ってみんなこんなん? ……いや待てよ。こいつ隙だらけだ……不意打ちで飛び掛かれば、ゲ! 顔近っ!)

踊っていたと思いきや、バルナバは顔を近づけさせてウルフィと目を合わせていた。冷静さを装い、ウルフィは質問をした。

「な、何だい?」

「あんた……」

少年の目力の強さにウルフィは冷や汗をかいた。

(こ、こいつまさかおいらの存在を既に知って…。そんなはずはない! 獣人増加計画は一般人が知らないはず! まさかこいつ関係者じゃ…。)

「第三の眼ないのか?」

(おいらの思い過ごしだったあああ! 考え過ぎたおいらが恥ずかしい!)

バルナバのしょうもない質問にウルフィは一安心した。

「右目と左目の間に第三の眼はないのかって訊いているのだが?」

バルナバは無邪気にまた質問をした。呆れたウルフィは正直に答える。

「おいらはないよ、第三の眼。」

(こいつ無駄にびびらせやがって。まあ過去がバレなきゃなんでもいいか。)

「じゃあいつ開眼するんだ?」

バルナバは夢を捨てずに質問をした。

「ないものは開眼しないんじゃないかな〜?」

「ふざけんなー! 第三の眼ぐらい持ってろよ! ったく。」

急に怒ったバルナバは荷物からマッチを取り出して、火を灯した。

「今から燃焼の実験をやる。 協力するよな?」

(理不尽過ぎる!)

「やめてくれ! 正気か?」

「ロマンを裏切る奴に生きる資格なし!」

バルナバは素早く火をウルフィに付けた。

「ぎゃあああ! 熱いよ! おいら死ぬよお!」

体が燃えたウルフィは転がり回った。

「あははは、爽快だな。燃えな、燃えな〜。」

バルナバはしばらく火で苦しむウルフィを手を叩きながら座って楽しんでいた。しばらくするとバルナバはウルフィの体質に違和感を覚えた。

「なかなか灰にならないな〜。……飽きた。」

バルナバは立ち上がり指をある方向に指し、苦しむ化け物に声を掛けた。

「モフモフボール!」

「ウルフィだよー!」

「知らん。俺名前覚えるの苦手だからちゃんと覚えれるまでアダ名付けるタイプなんだ。あっちに川があるから行ったら〜?」

バルナバはそう言うとより強く指を指した。ウルフィは疑心暗鬼の状態だった。

(おいら反対方角から来たんだよな。こいつ……信じていいのか?)

「俺も花摘んだし、帰り道だし一緒に行くか。」

バルナバは小走りを始めた。ウルフィは覚悟を決めた。

(火が消えないし信じるしかねえ!)

そう決心したウルフィは日本の小さな足でついていくことにした。

(本当に川があった! 火を消すぞ! もうちょっとで…)

「ブベ!」

突然バルナバがウルフィを踏みつけた。

「な、何を?」

「オラオラオラオラオラオラ!」「ぶぶぶぶぶぶぶぶ!」

バルナバは何度もウルフィを踏みつけることで、火は消えた。

「ぐへ〜。」

「どういたしまして。」

ウルフィのうめき声にバルナバは笑顔で答えた。

「苦しむあんたの姿と希望の目の前で踏まれる姿。最高に美味だったぜ。」

(外道が〜。こうなったら必殺技で…。)

ウルフィは最後の手段に出ようとしていた。そうとは知らずに無邪気にバルナバは質問をする。

「そういやあんた名前は?」

「忘れたの? おいらはウルフィ。」

「ところでモフラードリーム。」

「自由過ぎない⁉︎」

ウルフィは我慢の限界だった。バルナバは平然と答える。

「だから言ったじゃん。俺は名前覚えるのに時間かかるからあだ名使うって。」

「今言ったじゃん⁉︎ もう破れ被れだー!」

隙だらけのバルナバの腕にウルフィは噛み付いたのだ。バルナバはその瞬間涙を流した。

「うう、こいつ〜。もう俺にこんなに懐いている。メルゴール中のモフラー達、俺は夢の最前線に立っている。」

(いやなんで暴力振るった上においらの名前覚えられないくせに懐かれているって思えるんだ⁉︎ ……まあいい、血は吸えた。)

少量だが少年の血を吸ったウルフィはいとも簡単に自分をバルナバの体に汚染させた。側から見れば子供の体を大きな毛皮が覆い尽くした状態である。

(うまく言った。さてと…。)

ウルフィはバルナバの精神世界にいた。

(にしても真っ暗だな。まあいいや。あいつはおいらが乗っ取った時点で心の牢獄に自動的に強制送還される訳だから、おいらが脳の中枢まで行けば…)

「ジュース飲む?」

突然ウルフィの前に電灯とベンチが現れ、バルナバが座っていた。自分のシナリオ通りにいかない展開にウルフィは驚いていた。

(えええええ! なんでこいついるん⁉︎ 落ち着け! おいらの方が上手だ! 恐怖を魅せよう!)

「この体は既に俺のものだ。貴様はどうすることもできない!」

低い声に変わったウルフィは最初の可愛らしい見た目からは考えられない二足歩行の狼の化け物に姿を変えた。

「さあ小僧! 俺という恐怖の前にひれ伏せ! ……え?」

バルナバの平然とした態度に違和感を感じていた。躊躇せずに少年は口を開けた。

「なぁんだ、あんた俺を操縦したかったの? 先に言えよ〜。……んじゃあ明るくするな〜。」

バルナバがそう言うと周りが明るくなった。だがお日様の温もりはなかった。

「な、なんだこれは⁉︎」

(い、色が入り乱れて、空間が歪み過ぎた虹色だ! い、いつのまにか足が水に浸かって、いやこれは血だ! 地面が浅瀬の血の海だ! こ、こいつ本当に人間か?)

体中が震えているウルフィはバルナバを再び見ると、彼がニヤニヤしていることに気づいた。

「乗っ取るって言っていた割に門前の門前でガクブルじゃねえか? 悪いが追い出すぜ。俺の記憶の闇でな!」

バルナバが宣言すると、あるゆる方角から闇を帯びた緑色の光線が連続でウルフィに直撃した。

「うがああああ! やめろおおおお! やめろおおおお! おいらには過激過ぎる! 苦しい! 寒い! 熱い! やめてくれ!」

耳を塞ぎながら苦しむウルフィはバルナバの精神から脱出した。すると今まで仰向けに倒れていたバルナバはすぐに目覚めて逃げようとするウルフィの耳を掴んでだ。

「うぐ!」

「お前が何者か興味が湧いた。ついて来い。ご馳走する。」

バルナバはまだ震えている小さな化け物に笑顔で言った。当然ウルフィは行きたくなかった。

(や、やだよー! こんなサイコパスとなんてやだ!)

「嫌なら殺す。俺の頭の一部を覗いたんだ。血を流させるのに抵抗がないのはわかるよな?」

この少しの沈黙が流れたので、バルナバが口を開いた。

「返事はー?」

「あ、はい。わたくしはあなた様の…」

「敬語禁止。フランクにいこう。」

「おいら一緒に行きたいな〜。えっと…。」

そういえば名前を知らないと気づき、黙り込むウルフィの頭をバルナバは頭を撫でた。

「俺はバルナバ。苗字はバルスだ。よろしく。」

バルナバはウルフィを地面に降ろし、抑えつけるように撫でた。

「不服かもしれないが利害は一致してると思うぞ? お前もガキ一人に負けたままなんて嫌だろ? だったらどんな手段でも構わん。殺すも乗っ取るもやれるものならやってみろ。」

求めてるものを言われたように感じたウルフィはおとなしく彼についていこうと決心した。

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