一章 災いとの出会い その2

バルナバが父を殺してから4年が経った。10歳になったバルナバは学校の桜の木の下で女の子に呼び出されていた。

「待ってたよ、王子様。」

少女はやってきたバルナバに振り向いた。がその途端、彼女は年齢の割には長身の茶髪の少年の笑みを浮かべながらの殺意に青ざめてしまった。

「……金。」

「え? あ、はい。」

少女は平静を保とうとしながら、素直にお金の入った袋を渡した。バルナバは袋を奪いあげると、回れ右をしてその場を去ろうとした。

「ちょ、ちょっと。私の王子様。」

「ん?」

「なんで呼んだと思っているのよ⁉︎」

「金くれるって手紙に書いてあった。」

淡々と答えるバルナバに少女は少し歯がゆい思いをしていた。

「いや、あの……前にも何枚か手紙送ったでしょ?」

「ん? ああ。燃焼実験に使わせてもらった。よぉーく燃えたよ。」

しばらくの沈黙が流れてから、バルナバは口を開いた。

「今日の封筒には金をもらえる的なこと書いてあったから来た。」

「あ、うん。まあいいわ。」

少女はそう言うとオッホンと一息して後ろに手を回してモジモジ話し出した。

「あの〜私。ずっとバルナバ君のこといい感じだなって思っていたのよね〜。」

「ふーん、どこが〜?」

バルナバはいかにもつまらなそう表情で質問をした。少女は元気に答えた。

「ほら、いつも一人でいる感じでクールじゃん?」

「これからも一人がええな。」

「足速くて、勉強できるの素敵だと思う。」

「否定はせんが、この腐った世の中でそれらが本当に役に立つのか?」

「子供の割にはすらっとしていてモデル体型。」

「鍛えている。」

「あ、私バルナバ君の一番好きなとこ言うね。小顔の上に整っていてすごくハンサム…キャッ!」

褒め続ける少女の胸ぐらを、バルナバはハンサムという言葉を耳にした瞬間掴んだ。

「俺の顔を評価するんじゃねぇ。俺はみてくれを一番の基準に考える奴は大っ嫌いだ。」

そう言うとバルナバは彼女を離して、その場を去ろうとした。

「ま、待ちなさいよー。……あんた達!」

少女が呼びかけると四人の剣を納めた少年がバルナバを囲んだ。

「ムギレッド!」

「ムギブラック!」

「ムギイエロー!」

「ムギブルー!」

彼らはダサいポーズをしながら、名乗りを上げた。最後に少女が名乗りを上げる。

「麗しの天使、ムギピンク!」

「我ら麦子様の幸せを守るムギレンジャー!」

ムギレッドが叫んだ。

「麦子様をよくも振ったな!」

ムギブラックも叫んだ。

「俺達はこの学校でみなてめえにやられた奴らの中から選ばれた精鋭よ!」

ムギイエローが叫んだ。

「すまん、あんたら誰?」

「「「「え?」」」」

場を乱すバルナバの質問に四人が戸惑った。

「ちょいちょい、それはないんじゃね⁉︎」

「ええええ! 嘘だろ?」

「記憶力無いのかよ⁉︎ 興味持てよ!」

「俺なんか同じクラスだぜ⁉︎」

どよめく四人にバルナバはため息をして、説明した。

「すまんすまん。俺もケンカした相手多過ぎて、いちいち覚えてねえんだ。」

この言葉に四人はピリッと怒りを沸騰させた。

「麦子様だけでなく俺らも愚弄するか⁉︎ お前ら、合体技いくぞ!」

ムギレッドはそう三人に指示すると、剣を抜いて両手で空に掲げた。

「「「おうよ!」」」

そう三人が叫ぶと三人も同じく叫んだ。バルナバに逃げ道はなかった。

「お前ら飛斬できんのか?」

バルナバは呆れながら質問をした。するとなぜかムギピンクこと麦子が代わりに答えた。

「子供なんだからできるわけないでしょ⁉︎ だけど中距離なら大人の飛斬に引けを取らない威力だわ! あんた達、やっておしまい!」

「「「「はっ! 斬衝、」」」」

四人は勢いよく剣を地面に叩きつけた。

「「「「砂山!」」」」

四つの斬撃が縦に長くバルナバに直撃して細長い山の形に砂が舞う…はずだった。バルナバは即座にポケットに入れていた瓶を取り出した。フタを開けると黄色い煙が出てきて、それと同時にバルナバはソレを持ったまま、腕を伸ばして回転した。

「え?」

「嘘だろ?」

「斬撃が打ち消された?」

「まるで攻撃などなかったようだ。」

合体技が決まらなかった子供達の心には焦りがあった。バルナバはただただにやけていた。

「あんたらちゃんと日々何かを学んでいるか? 強力な斬撃とは鉄と大気との摩擦で生じるものだ。その摩擦を打ち消す程よい温度の物質を解き放ったまでだ。」

バルナバはにやけ続けながら、話し続けた。

「未遂とはいえ、殺意を込めて攻撃したよな? だったら礼儀を持って殺意で返そう。」

そう言うとバルナバは格闘家の構えをした。

「ヒッ!」

「ぎゃあ!」

「人殺しの目だ!」

「逃げろおお!」

四人はあっさり逃げた。バルナバはケンカが強い。この学校でそれを知らない者はいなかった。

「ちょ、何逃げてんの? くううう、覚えてなさい!」

麦子も捨て台詞を吐き、その場を去った。

「なんとまあ、根性がないちっぽけな悪がいたものだ。さて、俺も家に帰るか。」

バルナバはそう言うと、少ない荷物を抱え家に向かって下校した。

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