二章 オオカミ少年と誠の侍 その6

「ってなわけで、早帰りしてきた。」

 バルナバは大量の本や紙を両手で持ちながら、部屋に戻って最初にバルナバに言った一言だった。ドサっと紙の束を置くと、ウルフィは迷わずツッコミを入れる。

「いや、どういう訳だよ。君前に何も言ってないじゃん。」

「言ったぞ、心の中で。」

「君と今一心同体してないんだからわかる訳ないじゃん。」

 ウルフィが反論すると、バルナバはチッっと舌打ちをした。

「それぐらい察しろよ。中身を焼いて、毛皮は帽子にするぞ〜。」

 こいつ要望も脅しもめちゃくちゃなんだけど、っとウルフィは思っているとバルナバは机の椅子に座り込んだ。

「運命のいたずらか、巡り合いの偶然か。俺は今日奴に逢ってしまった。」

 バルナバはそう言うと、ウルフィは一瞬背筋が凍った。

「……正体がバレたのか?」

「俺相手に全く警戒してなかったから、恐らくそこは大丈夫だろう。だが奴は御丁寧に名前と称号を明かしてくれた。……侍で賞金稼ぎ、狩山 五郎。賞金稼ぎの業界では斬界の侍としてまあまあ有名らしい。……やはり獲物はお前だ。」

 バルナバはそう言うと薄い本をウルフィに渡した。

「彼について聞き込みをして、ノートにまとめた。お前は最初にこれを読め。俺はその間に本屋から物色して盗んだ本や図書館から無断借用した本から武士道や東武国、侍の歴史や生き方や戦闘技術について勉強する。」

「……せめて図書館は手続きしろよ。もちろん盗みも感心できないけど。」

 ウルフィの注意を無視してバルナバは話を続ける。

「動物図鑑や怪人図鑑、人狼に関する本も奪ってきた。ノートに目を通したら、適当に読んどけ。お互い有効な情報を見つけたかアイディアが浮かんだらシェアしよう。」

「ん? なんでこの作業するん?」

 ウルフィは状況が読めず質問をした。

「あぁ? 決まってんだろう。今夜俺たちが侍を狩りに行くためだよ。」

 バルナバはそう言うと沈黙がしばらく流れた。ウルフィは思わず声を出す。

「しょしょ、正気か⁉︎ 我らは知ってるんだぞ⁉︎ 奴の攻撃の重さを。底が知れねえんだよ!」

「だから今からその底を埋めるんだよ。知識と知恵という泥でな。敵を倒すには敵をより深く知り、対して自身が何ができるかを理解しなきゃならねえ。」

 バルナバは本に目を向けながら冷静に語った。ウルフィはまだ言うことがあった。

「わ、悪いことは言わねえ。しばらく大人しくしよう。斬界の侍も異常がないと判断したらここら辺を離れるよ。」

「暴れたい、喰らいつきたい、獲物に悪夢を魅せたい、恐怖を植え付けたいという負の衝動を抑えて、耐え忍ぶ戦いをしたいのか? それで状況は確実に好転すると保証できるのか? 隠れて生き延びた先にあるのは臆病者という称号だけだ。挑んで駄目なら場合によっちゃ逃げるさ。だが恐怖という怪人に心を折られて、壁に挑まないなら、死んだ方がマシだ。」

 バルナバは純粋に語った。ウルフィはノートのページを開きながら、言う。

「わかった。おいらも頑張る。……君は是が非でも父親の背中を追いたくないんだね?」

「そういうことだ。お前も俺という宿主をわかってきたじゃねえか。それに……」

 バルナバは拳を突然強く握った。

「楽しみなんだよー。どう奴の体を壊せる? どう奴の心を壊せる? 奴はどこまで武士道を貫ける? 偽善のメッキはどう剥がれる? 死に際にどんな惨めで絶望的な顔をする? どんな無様さを見せつけてくれる? 可能性を考えただけで、ワクワクが止まらねえ。我らを舐め腐った奴を完膚なきまでに絞り取っては無惨に刻み殺して、血肉に喰らいつきてえ。」

 バルナバはそう言うと、二人は暗くなるまで集中して意見や知識を発しては話し合ったり黙ったりした。

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