一章 災いとの出会い その3

(そうだ、母さんのために花を摘もう。喜ぶぞ〜。)

そう思い、バルナバは森の中へ寄り道をした。ドランケンの町は四方の隣町に行くには周囲の森を抜けなければいけない。秘密が多くある森には事件が絶えない。

「く、クソガキ〜!」

手首に重傷を負った一人の盗賊が緑色の洋服を着た赤髪の少年を睨んでいた。

「言ったはずだ。お前は戦うイメージトレーニングを怠ってるってな。」

爽やかな10歳の少年は先ほどまで剣を持っていた相手を、ポケットナイフで圧倒していた。少年は財布を盗賊にみせた。

「俺も鬼じゃねえ。弟のもん返してもらったし、優しさに免じて許してやる。俺の慈悲よ。」

少年はそう言うと、盗賊に背中を向けて町に戻ろうとした。

(こ、このやろううううう!)

盗賊は傷がない拳で不意打ちを仕掛けようとした。それでもゆっくり少年は振り向いた。

(チッ、やっぱ戦意は残っていたか。守るもんがねえ奴の闘争心ほど醜いものはないぜ。)

第2ラウンドが始まらんとしたその時だった。

バーン!

「え?……げ…。」

銃弾が盗賊のおでこに直撃して体が仰向けに倒れた。

「ん?」

少年は後ろを振り向くと、そこには銃と荷物を持ったバルナバが歩み寄っていた。

「大丈夫か〜、クロちゃん?」

「おおお、バルナバじゃねーか⁉︎ 数分振りじゃねーか。俺は大丈夫だぜ。」

返事をした少年の名はサイモン・クロス。バルナバと同じ学校に通う友…知り合いである。

「お前も怪物狩りか?」

「いんや、花摘みだ。じゃっ。」

バルナバはそう言うと、そのまま突き進もうとした。

「うぉーい、バルナバ。友達に塩対応は泣けるぜい。俺はお前に対しちゃ砂糖だけどね。」

「あんたも大人に重傷を負わせている時点で核砂糖だな。それに俺たちは友達じゃねえ。ただたまたま席が近くなだけだぞ。」

引き止めたのに素っ気ないバルナバの態度にサイモンは小さな怒りを燃やした。

「あんこら? 言ってくれんじゃねーかよう。戦友同士のケンカでもすっか? シュッシュッ、シュッシュッ、バコバコ、ドーン!」

口で効果音を出しながらスパーリングを始めた。

「俺の夢は聖騎士団に入って一流の狩人になることだ! 俺がそうなったら俺の家族どころかドランケンの町の暮らしが豊かになんぞ。そしてこの世界で最も危険な化け物と命がけの攻防を繰り広げた後に、勝利を掴む!」

サイモンはそう誇らしげに語った。すると今度は無表情のバルナバに質問をした。

「お前はどうよ? 夢はあるのか?」

「自分の力で自動で動く乗り物を作って、海でも陸でも猛スピードでぶっ放したいね〜。」

バルナバは正直に答えると、サイモンは人差し指を横に振った。

「ノンノン、それは目標だ。夢はそうなりたいと思った時点から始まっているんだ。ないのか? ルックス、体型、頭脳。性格以外全てにおいてパーフェクトなお前は夢がないのか?」

再び質問をしたサイモンにバルナバはほんの少しだけ考えた。

「んん〜。ねえな〜。」

「カァー! お前はいいもん持ってんのに、大切なかけらが足りないな。」

サイモンは同情すると、あ、そうだ!と言って、バルナバの肩に手を置いた。

「お前俺と一緒に聖騎士目指そうぜ。背中を任せられて頼れるバディも欲しかったんだ。」

サイモンはそう誘うと、バルナバは軽く彼の手を引き剥がした。

「規律と正しさに生きるなんざ性に合わねえ。俺は誰よりも自由でいたいんだ。」

バルナバはそう言うと、シモンに背中を向けて歩き出した。ところがすぐ後にシモンが言った一言にバルナバは立ち止まることになる。

「お互い父親に対して複雑な感情だよな。」

「……なんの話かチンプンカンプンだ。」

バルナバはこう返した時に振り向かなかった。

「おいおい、とぼけるの下手か? このサイモン・クロス様の情報収集能力を舐めないでほしになれ。」

シモンは余裕の笑みを浮かべて言い終えると、シリアスな表情に戻り話を続けた。

「俺も母ちゃんの夫を父と思っていねえ。無職になってからさらにあいつに対して無関心になった。」

サイモンはバルナバに歩み寄り、バルナバの肩にもう一度手を置いた。

「俺の場合母ちゃんがあいつより強い。あのおっさんは今も尻に敷かれている立場だからよかったけど、お前の母ちゃんは辛かったな。」

サイモンはそう言うと、バルナバの背中を軽く叩いた。

「大切なもんを守るために手を汚したお前を、俺は尊敬する。」

「つまりあれか? 似た者同士仲良く聖騎士団に入団しようってか?」

バルナバがついに体を振り向かせた。サイモンは爽やかな笑顔で返事をする。

「ビンゴビンゴ〜、バルナバ君。もちろん大した理由も無く嫌なら俺も抵抗するで。」

「んん〜。どう抵抗するん?」

「拳で!」

叫んだサイモンは右の拳をバルナバの顔に当てようとした。バルナバは右手で受け流した。

「ラディカルニー!」

次にシモンは膝をバルナバの腹部に命中させた。

「グッ!」

技が深く入り込んだバルナバにサイモンは追い討ちを掛けた。

「まだまだ行くぜ! サディスティックフック!」

サイモンのは拳をバルナバの横腹に直撃させた。

「ドメスティックヘッドクラッシュ!」

サイモンは飛び上がり結んだ両手でバルナバの頭を叩いた。

「デスティニーエルボー!」

サイモンのひじによる攻撃がバルナバの腹部に直撃した。

「バイオレントスタンプ!」

次にサイモンは右足でバルナバの右足を踏みつけた。背中を見せつつも追撃が続く。

「レジェンドバックキック!」

サイモンの後ろ蹴りがバルナバに直撃した。

「ブレイドチョップ!」

 サイモンの手刀がバルナバの肩に直撃した。

「からの〜」

サイモンは両腕を構えた。

「ダイナミックラッシュ! はいはいはい〜、あちょあちょちょちょちょう!」

サイモンは連続のパンチをバルナバに浴びさせた。最後に両手にさらに力を込めて、同時に解き放つ。

「クリティカルサティスファクション!」

両手を開いた状態でバルナバにダブル掌底のフィニッシュを喰らわせた。バルナバは無言で後ろに下がった。サイモンは高らかに自慢した。

「どうよ! この必殺技の雨あられ! 今の内に降参して俺と一緒に聖騎士団に…」

「すまん、日が暮れるんだけど? あんたとごっこ遊びしてる暇ないんだわ〜。」

なんの悪気もなく事情を言ったバルナバだが、サイモンはそれを挑発と捉えた。

「……キレそう。」

「んなこと言われてもな〜。」

「君死にたい? 死にたいの?」

「終わったなら行くぞ〜。」

「カッチーン! キレそう。」

「あんたも気をつけて帰れよ〜。」

「キレそう。」

「明日学校でな〜。」

「キレそう。」

「宿題忘れんなよ〜。」

「キレそう。」

「バーイ。」

「キレそう。殺っす。」

サイモンは剣を抜いた。そして、バルナバに向かって剣を振り落とした。しかし。

「ざ、残像?」

空を斬ったサイモンは、すぐに異変に気づいた。

(まずい、回り込まれた!)

カチャ!

後ろに回り込んだバルナバは黒いベルトで腕と胴体を結んだ。

「お、おい! クソ! 縄抜きが効かねえ! うっ、はっ!」

(後ろになんか付いている。)

「クロちゃん気づいたか? 俺が作ったミニロケットだ。これで家に帰りな。さいなら〜。」

ポチッ。バルナバは手元に持っていたリモコンのボタンを押すと、ロケットからエネルギーが解き放たれた。

「うおおおお! ぎゃああ!」

ロケットに結ばれていた爽やかな少年は上空へと舞い上がり、ドランケンの町へと帰っていった。バルナバは笑顔で空を仰いだ。

「おお、いい感じに起動したな〜。……どこまでも爽やかな奴だな〜。はよ帰って家族の面倒みな〜。」

バルナバはそう言うと、サイモンが飛んだ反対方向へと歩いた。しばらく進むと、チューリップが咲いている場所に着いた。

「咲いてる、咲いてる〜。」

バルナバは花を摘もうとしたその時だった。

「ねえ君。」

突然の声にバルナバは横下に向いた。そこには狼の耳を持った茶色いふわふわのまんま丸い二本肉球足がいた。バルナバは無表情だったが、この地球儀の大きさの化け物は話し続けた。

「やあ少年、おいらはウルフィ。僕と共生の契りを結ばないかい?」

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