二章 オオカミ少年と誠の侍 その1

 お酒を快楽と思う人は少なくない。それは大人になればわかることかもしれないし、大人になってもわからないかもしれない。お酒が好きな者が存在するから酒場は栄えるのだろう。しかしこの酒場には酔っ払いなどの客がいなければ店主もいない。いるのは低身長で丸メガネを愛用した白衣の肌色ズボンの男ただ一人。丸いテーブルに向かい合う椅子二つの一つに座っていた。

「ウル博士、遅れてすまぬ。」

 一瞬で向かいの椅子に立派なチョンマゲをした優しさと強面を合わせたような顔の侍が目の前に座った。青い羽織と黄色い着物に茶色い袴、全てを見事に着こなした180cmばかりの大男だ。

「いやあ、そんなことはござりませんよ〜。狩山大先生。いつも大先生には難題をお願いしては、度重なる恩を感じておりまするぞよ。」

 ウル博士はうれしそうに話すと、狩山は掌が彼に見えるようにあげた。

「依頼人はお客様。お客様は宝。恩は某も感じてる。」

 狩山は笑顔で返すと、急に不敵な笑みを浮かべた。

「んで博士殿、いつもの場所じゃなか。余程極秘とお見受けする。」

 狩山がそう察すると、博士はある書類をそっとテーブルの上に置いて侍に近づけた。

「プロジェクトM?」

 狩山はそう言うと、書類を観察して評価をする。

「ウル博士、あなたは勇敢なのか、愚かなのか。ますます不思議なお方だ。某に何を求める?」

「失敗作が逃げ出しまして……メリゴール中に斬界の侍と恐れられている狩山 五郎大先生に一狩りお願いしたく、ヒェッ!」

 ウル博士は突然の五郎のプレッシャーにびびってしまった。

「条件がありもす。この依頼を最後にしていただきたい。某、実は副職が見事に繁盛、主職に変えて汚れ仕事から少しずつ足を洗おうと思っておる。」

 博士はまだびびって硬直していた。五郎は優しくウルの肩に手を置く。

「わかってくだされ。某も母国の東武国に妻と娘がおりもす。家と土地もこちらの大陸で買いもおした。家庭を優先した余生を送りたい。」

 五郎はそう発言すると、ウル博士ははあ〜っとため息をしてから、口を開いた。

「わかりました。ですが…」

「極めて極秘、この化物と接触したと思った人物は誰であろうと斬り伏せもす。正解か?」

  侍の洞察力と冷酷な発言に博士は背筋を凍らせたが、深く頷いた。すると、狩山 五郎は優男の顔に戻った。

「では、詳しく標的について聞こうではないか。」

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