一章 災いとの出会い その1
ドランケンの町は良く言えば個性的な町だ。しかし悪く言えば荒れた貧しい町である。物乞い、未亡人、無職、人殺し、酒酔い、暴力団員。この町は決して生半可な気持ちで住める場所じゃない。この物語の主人公の血の繋がった父親は人殺しの元暴力団員、現在は無職の酒酔いである。
物語はドランケンの町の主人公の家から始まる。いや、正確に言えば彼の家族が奪った家である。
「おらああああ!」
細長い大男が自分の息子を投げ飛ばしていた。
「酒買ってこいって言ったんだー! 聞こえなかったのか、おい! ヒック、お前はそれしか脳がねえんだからよ! 俺の言うこと聞く以外生きる価値ねえんだ!」
そう言うと酔っ払った男は仰向けに倒れた息子に酒ビンを投げつけた。男の横には彼の妻が土下座の形で震えていた。
「ごめんなさい。大神様お助け。ごめんなさい。聖母様お助け。ごめんなさい。精霊の神々おた、ヒッ!」
不確かな大いなる存在に助けを求める女性の背中は、突然男の肩に触られた。
「うーん? お前はお前で何休んでんだー? つまみ作れ雌猫がっ!」
男がそう言いながら妻に向かって拳を降ろそうとしたその時。
プスリ!
「え?」
鉄の針が男の手のひら側の手首に命中した。
ピシャアアア! っと大量の血が吹き出た。
「うわあああ! 痛ええ! 痛えええ! うわあああ! くっ…。」
男は目の前にいる息子を睨みつけた。6歳になる少年はニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
「ヒュー…ヒュー。いい顔だなクソ親父。何そんなに驚いてるんだ? 金になると思って日々“修行”を無理矢理させたのはあんただ。」
少年はナイフを持って構えた。
「あんたほどの飛距離はないが、針飛ばしはかなり鍛えたんだぜ。」
顔立ちの整った少年がそう言うと同時に、その少年の父は膝をついた。
「やったあ、効いた! その針はな、俺があんたを倒すために作った液体が針先に仕込まれているんだ! ゼラチンゾンビのあんたでも油断大敵のびっくり仕掛けさ!」
少年はそう言うと、彼の父は怒りをあらわにして怒鳴った。
「クソガキがあああ! 誰のおかげで強い肉体を持った⁉︎ 誰が学校行かせる寛大さを見せた⁉︎ 俺だ、バカヤロウ! 父を敬ええ!」
父親の言葉に、息子は呆れるばかりだった。
「父を敬え? 胸糞悪いくらい中途半端な正論だな。父と母を敬え、だろ!」
少年は自分の父親を睨みつけた。
「あんたが他の女とよろしくしている間、母さんは必死に俺を生んでくれた。あんたがお酒とギャンブルに荒れくれている間、母さんはあんたの暴力に耐えながら愛を持って俺を育ててくれた。感謝と尊敬しかねえ。」
「くたばれええええ!」
少年の父は両手で息子の首を絞めんと試みたて、突撃をした。しかし少年は極めて冷静だった。自分の父が間近に迫るまで動かなかった。
(ギリギリ、今だっ!)
ほんの一瞬の素早い動きで少年は両腕をかわして、男の心臓を貫いた。
(あんたの速さを逆に利用した……貫通した威力は倍だ。)
少年はそう思いながらパッと前に倒れる男の横に移動して避けた。
「ぐあああああああ!」
男は心臓から血を大量に出した。体をを傾けると息子が見下ろしていた。
「だがあんたは違う。尊敬の気持ちはゼロだ。」
母が身動きできないまま、少年は右足で容赦なく、父の心臓を踏みつけた。
「あああ、ぐっ!」
「なあ親父、あんたはなぜ偉い? 年上だからか? 強いからか? 父だからか?」
情けなく悲鳴をあげる大柄な男に少年は傷口にグリグリ圧を掛けながら問いた。
「お前はただの俺が生まれた過程の付属品だ。同格の大人になるまでと思っていたがこれ以上母さんの苦しむ姿は見てられない。俺たちの人生から消えろ。」
少年はそう言いながらナイフを実の父親の首横に置いた。そこからも血が少しだけできた。死の間近にいた男は最後の抵抗に声を出した。
「ヒーローにでもなったつもりか⁉︎ 俺の血を受け継いでいるお前が⁉︎ お前も所詮どこまで行こうとドス黒い悪よ! 地獄の使用人達にお前の席をよぉ〜く温めとくように言ってやるよ!」
鼻水や涙を垂らしながら男は最後の言葉を叫んだ。
「我が息子、名が地に堕ちたバルス一家の末裔、バルナバよ!」
この後すぐに、少年バルナバは最後の言葉を言い放った父にナイフでとどめを刺した。
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