第12話 最後まで抗う勇姿

「葵。あんたこれ持ってなさい」


 詞から長剣を手渡される。

 俺はそれを受け取り抜刀した。


 刀身は赤く輝き、その上にゆらゆらと陽炎が揺れた。


 正面のモニターには「ヒートソード“ブレイザー”を装備しました」と表示される。良く斬れる剣を受け取ったはいいが、この剣一本でこの状況をひっくり返せるとは思えない。


 灰色の指揮官機グリンドリンは静かに俺たちの正面へと着陸した。


「オレンジ色に乗っているのはアオイ・クルーガー大尉とサロメルデ王国のオーガスト・サロメルデ殿下ですね。お二人の戦いぶり、お見事でした。私はベルゼード帝国第一機甲兵団、第二大隊隊長のフランツ・モーゼル大佐です」

「私はツカサ・バーミリオン曹長です。私だって二機やっつけたんだからね!」


 詞が会話に割り込んでくる。頭に血が上り自分が抑えられないようだった。


「おお。これは勇猛果敢なフロイライン・バーミリオン。貴女の勇姿も素晴らしい。さて、私が出向いて来た理由は、お互いにこれ以上無駄な損耗を避けようではないかとの提案です」

「優しい事言ったって無駄だから。私たちは帝国の支配下に甘んじるなんて事は絶対無い!」


 そう言って指揮官機に突進していく詞だったが、モーゼルのグリンドリンはひらりとかわした。


「フロイライン。貴女の矜持きょうじは尊重いたしますが、もはや、あなた方の友軍は殆ど残っておりませんぞ。今も一機」


 モーゼル大佐の指さす方向に、それは俺たちのすぐ傍だったのだが、暗緑色のアルガムが墜落して爆散した。


「それでも戦うんだ! ゲルゼリア王国が乗っ取られてから、帝国の周辺地域がどれだけ苦労させられて来たか私は知ってる。そして、帝国の人たちがどれだけ搾取されているかも知ってる。あんたたちの皇帝がごうりでクソったれなお下劣皇帝だってみんな知ってる。私たちの国王陛下だって剣を取られるに違いない。陛下はあんた達が大っ嫌いだからね」

「フロイライン。口が過ぎますぞ」


 確かに言いすぎている。しかし、あのベルゼード帝国の皇帝が諸悪の根源であることは事実だ。


「貴女は排除しましょう。その、黄金の機体にも興味はありますが仕方ありませんね。後程、残骸を回収させていただきます」


 モーゼルのグリンドリンは右肩のガトリング砲を撃ちながら、ルクレルクとの間合いを一気に詰めた。ガトリング砲の弾道はひん曲がって弾は命中しない。しかし、モーゼルの長剣は難なくルクレルクの装甲を叩いた。


「なるほど。そういう事か」


 俺はヒートソード“ブレイザー”を構えてモーゼルのグリンドリンに向かって突っ込んでいく。しかし奴は俺の斬り込みをかわして上昇していった。


「有線誘導ロケット弾を使え」


 四機のリクシアスが着陸し、肩のロケットランチャーから有線の対装甲車両用の誘導弾を発射する。速度の遅いそのロケット弾はルクレルクの装甲に着弾、爆発した。


「きゃああ!」


 空間防御にも欠点があったのか。

 砲弾は防げても、速度が遅い攻撃、つまり、剣での格闘戦や弾速の劣るロケット弾などはその防御を突破できると。


 四機のリクシアスは長剣を抜刀して詞のルクレルクに襲い掛かる。俺は詞を援護しようと突っ込んでいくのだが、モーゼルのグリンドリンが立ち塞がった。


 ヒートソードと長剣が交わり、閃光を放つ。


「詞! 詞!」

「この野郎! この野郎!」


 詞は両腕を振り回してリクシアスの接近を阻もうとするのだが、四機のリクシアスは次々とルクレルクに長剣を突き立てていく。


「きゃあああ!」


 胴体、コクピット回りを貫かれたのか、詞の悲鳴が聞こえた。俺はと言うと、目の前のモーゼルとやり合うだけで精いっぱいだった。


 俺は背後からビーム砲で両肩を貫かれ、そして両膝をも砕かれた。モーゼル配下のリクシアスの仕業だった。


「私は一騎打ちに興味はありませんから。ああ、ご安心ください。貴方と王子は殺しませんよ」


 跪いた俺の目の前で、黄金のルクレルクが集中砲火を浴びた。もはや空間防御も維持できず、砲弾はその装甲を貫いていた。


「葵。ゼファーを大事にしてね」

「詞! ダメだ。死ぬんじゃない」

「あは。ここまでみたい。でも、言いたい事を思いっきり言ったから満足かな……。あ、一つ言い忘れてた。葵。私は貴方の事が好き……」


 その瞬間、ルクレルクは爆発炎上した。

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