第15話 希望の光

 俺の手を握ったアドレーネは再び目を閉じる。


「美しい光が顕在します。その光はクルーガー様の両手と心の傷を優しく包み癒します。私は希望の光を見出す者、そして希望の光を育てる者。希望の光よ、さあここに満ち溢れん!」


 アドレーネの言葉に俺の心が激しく反応した。

 どんな理屈なのかはわからない。胸の中心から熱い光が溢れてくる感覚だ。そして、動かない両手にも熱い光が溢れてくる。

 光と言ったが、目に見える光ではない。そんな熱いエネルギーが、俺の心と両手に溢れているのだ。


「すごく眩しいわ」


 両手で両目を塞いだルノアール女史が不意につぶやく。俺には何も見えないのだが、彼女には眩しい光が見えているのだろうか。


「ああ、やっと光が収まったわ。ちゃんと見える」


 ルノアール女史が両手を降ろして俺の頬をつつく。


「もう光ってないわね。さっきは本当に眩しかったんだから」


 何も見えなかった俺には何が何やらわからない。

 俺の両手を握っていたアドレーネが、右手の包帯をほどき始めた。


「ああ。アドレーネさん。直接見ない方がいいです。俺の手は今、ホラー映画に出てくるアイテムみたいなので」


 一瞬手を止めたアドレーネは、ニコリと微笑んだ後にまた包帯をほどく。そして黄色い薬品がしみ込んだガーゼを剥がしていく。

 ルノアール女史は俺の手の火傷を直接見ているせいか、眉をしかめて目をそらした。しかし、そこには火傷の跡など無い戦闘前の俺の右手があった。


「ええ? どうなってんのよ? 重度の火傷が消えちゃってる。酷いとこは骨まで露出してたのよ」


 俺はまじまじと自分の右手を見つめる。オーガスト王子も護衛のゼルゲイドも信じられないといった表情で俺の右手を見つめていた。


「希望の光がクルーガー様の傷を癒しました。左手の包帯もほどきますね」


 そしてアドレーネは左手の包帯もほどき始める。


「あの……アドレーネ様。私の両手を治していただきましてありがとうございます。何と……何とお礼を申し上げてよいのか……意外すぎる出来事なので……申し訳ありません。少し、混乱しています」

「お気になさらずに。私は希望の光を少し膨らませただけなのです」

「……と言われましても……」


 返答に困る。

 そして一つ気になった事があった。


 それは先ほど彼女が言った言葉の中に、「貴方が失った人が戻ってくる事」とあった。まさか、死んだ詞が生き返るわけがないと思うのだが、これはどういう事なのだろうか。現に、俺の火傷は不思議な力で完全に治癒してしまった。


「アドレーネ様。一つお聞きしたい事があります」

「何でしょう?」


 左手の包帯を全てほどいたアドレーネは笑顔で俺を見つめる。


「先ほど言われた失った人が戻るとは、どういう意味なのでしょうか」


 アドレーネは笑顔で応えてくれた。


「うふ。それはですね。そちらのお姉さまに伺った方が早いと思いますよ。ですよね。ルノアール様」

「あれー。何で知ってんのよ。もうちょっと後でビックリさせようと思ってたのに」

「意地悪は無しで」

「そうね」


 何故か、アドレーネとルノアール女史が意気投合している。俺は護衛のゼルゲイドを見るが、自分は何も知らないとばかりに首を振っていた。


「あの、それはどういう事なのでしょうか。よろしければ教えていただけませんか?」


 困り顔の王子がルノアール女史を見つめて問う。まあ、何の事か分からないのはここにいる男三名の共通項のようだ。


「では、現場に向かいましょう。オーガスト殿下。リムジンで送ってくださるかしら」

「ええ、もちろん。どころでどこへ向かうのですか?」

「兵器工廠よ」


 兵器工廠……。


 全く持って意味が分からない。

 俺たちは病院から王家のリムジンに乗り込み、王立兵器工廠へと向かう。アドレーネと護衛のゼルゲイドも一緒だった。


 

 

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