第7話 三種の実験機
明朝、俺とオーガスト王子は兵器工廠の寄越したピックアップで現場へと向かった。昨日王都に到着した場所、飛行船の発着場だった。
王子は整備士用のツナギを着用していた。
「葵、おはよう! そこの可愛らしい少年は誰? ああつ! これは好みかも。ねえ君、名前は?」
「僕は王立大工学科研修生のオーガストと言います。整備主任の詞・バーミリオン曹長ですね」
「オーガスト君ね。よろしく!!」
この馬鹿者は王子の名も顔も知らないらしい。王子もまたそれを咎めるような真似をしない。今日は研修生として見学に来たという筋書きなのだろう。
王子はやや俯き、そして詞を真正面から見据えて話始めた。
「あの、今日はクルーガー大尉のご厚意でアドヴァンサーの見学をさせていただくために参りました。よろしければクルーガー大尉の専用機を拝見したいのですが」
「あれは機密なんだけど……まあ、葵が連れてきた子だからいいか! 君、可愛いし。こっちよ」
颯爽と駆けだす詞だった。
奥には三機のアドヴァンサーが起立していた。
かなりスマートに改修されたアルガム改二ことゼファーと、黄金色に塗られた大型の機体、そして長大なレールガンを構えた銀色の機体であった。
「はいはーい。赤と白のスマートな奴が葵の専用機“ゼファー”よ。こっちのおデブちゃんは“ルクレルク”です。防御システム実験機なの。奥の長物抱えている銀色が攻撃システムの実験機“ラファール”よ」
初めて見た機体だった。
俺は主に空中での戦闘機動に関して実験を繰り返していた訳で、新型の防御システムと攻撃システムの実験、実証機も存在していて当然だ。
「これは第五世代機になるのでしょうか?」
「よく知ってるね。少年。これらは残念ながら第四世代型アルガムの改修機。我が国のアルガムシリーズは第四世代に属するアドヴァンサーなんだけどね。他国の第四世代型と比較して基本設計が古くて苦戦してるんだ。だからね。頑張って大規模な近代化改修を施し、能力向上を試みてるんだけどね。それでも帝国の第五世代型には及ばないので、こうして第五世代型の開発ベースとすべき機体を試作して実験しているのよ」
「つまり、四・五世代型?」
「そうなるかな? でもね。王国製の第五世代型ももうすぐ完成するわよ。でも、それは見せてあげられないのよね。超機密なんだ。へへ」
「近寄ってみてもいいですか? コクピットも見れますか?」
「いいよ。じゃあこのヘルメット被ってね。ああ君、この子にゼファーのコクピット見せてあげて」
詞は近くにいた整備士に声をかけて、王子の案内を言い付けた。彼は王子にヘルメットを被せ、そして高所作業車のバケットへと案内する。そしてバケットはアドヴァンサーの胸の位置へと上昇していく。
「ねえ葵。あの子とどういう関係なの? もしかしてそっちの趣味があったの」
眉をしかめながら詞が問いただす。この顔はもしかしたらBL系だと疑っているのかもしれないと思いカマをかけてみた。
「昨夜は一緒に寝たぞ」
バチン!
思いっきりビンタを食らった。
「あんた不潔よ。男同士で寝るなんて!!」
顔を真っ赤に染めて怒り狂っている。そう言えば、詞に腐女子の傾向は見られなかった。同性愛を気持ち悪がっている様子がありありと伺える。
「落ち着け詞。あの方は王家の末っ子、オーガスト殿下だ。俺は昨夜、王宮へと招かれて王子の部屋に泊まったんだよ。あの方はお前と同類でな。極度のアドヴァンサーマニアなんだ。だから夜更けまでアドヴァンサーのよもやま話を聞かせてあげていたんだ」
「ほんとに。同じ部屋で寝て欲情しなかったの」
「しない。俺が欲情するのは揺れる胸元なんだ」
バチン!
またビンタを食らった。
「知らない!」
詞は不貞腐れて走っていく。そしてオーガスト王子に何やら解説を始めた。女性に対して欲情するのだという意味で「揺れる胸元」と言う表現を使ったのが逆効果だったらしい。これは失言だった。詞の胸元が寂しかった事をすっかりと忘れていた。
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