第2話 アドヴァンサー

 国王主催の空技大会。簡単に言うと、アドヴァンサーで模擬空戦を行う王国の一大イベントである。


 アドヴァンサーとは、天翔ける騎士とも呼ばれている空を飛ぶ人型機動ロボット兵器の事だ。俺はそのパイロットで詞は整備士。彼女は王国の魔術師と称されるほど優れた技術を持っている天才だった。


 詞が調整する機体は基本性能を大幅にアップするだけではなく、パイロットの特性を把握し、その能力を十二分に引き出した。

 その天才整備士詞の調整した機体に俺が乗る。そして各地の空技大会で何度も優勝を収め、王国主催の大会でも優勝した。まさに無敵、王国最強のアドヴァンサー使いの称号は俺のものとなった。


 しかし、そのような栄光を掴んだ者は必ず嫉妬される。

 平民出の俺と詞は途端に蹴落とされる運命をたどった。


 麻薬密売。

 王族との不貞。

 公金横領。


 それらは全て捏造であり疑惑でしかなかったのだが、不名誉なその噂は王国一のパイロットには不都合だった。

 そして、実戦の中にも罠が仕掛けられていた。


 隣国との小競り合い。

 王都守備隊である俺が国境付近へと出張した際に、狙ったように侵攻してきた敵部隊。味方数機を失うものの何とか敵部隊を退けた。しかし、俺はその損害の責を負わされた。さらに、撃墜数を得るための工作だとも揶揄された。

 もちろん全ては根も葉もない噂であり誹謗中傷だったのだが、そんな俺を気遣ってか、サロメルデ国王が命じたのがこのメイル砦への左遷だった。そして何故か詞もくっついて来た。


「葵は私がいないとダメなんだから」


 それが詞の口癖だった。

 そのような横柄な口調が許されるのも、自由な風潮の強いサロメルデ王国の特徴なのだろうか。確かに詞は天才整備士だが階級の差は歴然としているのだ。


 俺は水にぬれた書類にサインした。


「これでいいか?」

「いいよ。それでね、大会は一か月後。一週間前には出発するから準備しときなさいよ」

「わかった。ところで、俺たちが抜ける穴はどうするんだ?」

「代わりの装甲車をよこすって。一個小隊だけど」

「という事は、2両と整備が2名?」

「だと思うよ。アドヴァンサー一機とは全然釣り合わないけどね。詳しくは指令に聞いて。まあ、ここは暑いけど暇だから人気スポットなんだよ。左遷じゃなくてバカンスだって言われてるの、知ってる?」

「そう……だったな」


 こんなところにもサロメルデ国王の心遣いが表れているという事か。我が境遇は幸福なのか不幸なのかよくわからない。


「それとね。葵。このアルガム・クルーガーも大改造するからね。覚悟しときなさい」


 いや、この機体は既に原型を留めていない。そこを更に改造するってのか。酔狂な奴だ。

 しかし、未だかつて詞の改造プランが外れた事はない。

 その点に関しては、まさに大船に乗ったような気持ちでいっぱいだった。

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