空に走る — 天翔ける騎士・Advancer(アドヴァンサー)の物語 —
暗黒星雲
第1話 葵と詞
何もない砂漠。
ポツンと岩山があるだけだ。その岩山の麓に古い城塞がある。
基地と呼びたいが、そんな設備などどこにもない。あるのは古い石造りの城壁と掘っ立て小屋のような兵舎と格納庫とは呼べない野ざらしの駐機場だけだ。
俺はそんな辺境に飛ばされたしがないアドヴァンサー使いだ。
この岩山は、砂漠を旅する者にとって良い目印となる。そして豊富な湧き水がある場所だ。かつては交易の重要拠点として栄えた町だったらしいのだが、今や船が空を飛ぶ時代となった。陸路で旅をするものなどほとんどなく、わずかばかりの廃墟が残る寂しい土地である。
「クルーガー大尉、
けたたましい女性の叫び声が聞こえる。
声の主は整備士の
「クルーガー大尉を発見。方位020。放水開始!」
いきなり放水攻撃を浴びせられた。詞の奴はご丁寧に太くて長い消火用のホースを抱えていた。その向こうには消防車が待機している……。
木陰でくつろいでいた俺は途端にずぶ濡れとなった。
「もう。今日は消防訓練だって言ったじゃないですか」
「ああ、すまない。失念していた」
「いくらね。元エースだからってね。こんなサボリはね。許されないんだからね」
太い消火用のホースを放り投げてズカズカと歩み寄ってくる詞。顔を真っ赤に染めてプンプンと怒り狂っているのが丸わかりなのだが、さて、放水攻撃でずぶ濡れにされ、しかも、あの水圧は結構な痛みを伴う訳で、ここは俺も怒ってよいのではと思うのだが、そんな俺の気持ちは完全に無視されている。
「もう! しばらくは着替えさせてあげません。その木の下で立ってなさい。バケツ持つのは勘弁してあげる」
どこぞの熱血教師のようだ。階級は俺の方が上のハズなのだが、こいつはそんな事を気にするような奴じゃない。
俺は渋々立ち上がる。
「
「本当に? 反省してる?」
「はい。反省しております」
「仕方がないわね。じゃあこの書類にサインして」
突き出されたバインダーを開いて書類を見る。それはアドヴァンサー空技大会の参加申込書だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます