第5話 王立兵器工廠にて
早朝にメイル砦を出発した。
王立科学院が寄越したのが、退役寸前の老朽化した輸送船“イヴローニュ”であった。
ほぼ、完徹だったのだろう。大部屋の船室ですやすやと寝入っていた。この解体寸前の老朽船は機関の振動と騒音が激しく、とても眠れるような環境ではないのだが、それでも詞は満足そうな表情をしながら眠っていた。
鈍足のイヴローニュであったが、半日で王都メイディアへと到着した。そこは王立兵器工廠に隣接する飛行船の発着場であった。
飛び起きた詞はさっそく搬出の指揮を取るべく走り出した。俺はと言うと、まあお客様気分で優雅にタラップを降りた。
「ちょっとそこ! 気を付けてね。サスペンションはロックしてるんだから! ゆっくり、ゆっくりよ!!」
クレーンで慎重に降ろされるアドヴァンサー。詞によればこれはアルガム改二であり愛称はゼファーなのだそうだ。
ゼファーは台車へと固定され、その台車も大型の
「じゃあね。私は一度
そう言ってトラクターの助手席へと飛び乗って、運転手に何やら指示を出していた。そして俺に向かって手を振りながら兵器工廠の、幾つもある工場の一つへと入って行った。
今回は俺もこの兵器工廠へと厄介になる予定だった。とりあえず所長に挨拶でもしようと思い、玄関へと向かおうとしたのだが、目前を黒塗りのリムジンが塞いでしまう。国旗と王家の紋章の旗をひらめかせたそれは王家の所有する車両であり、また王家の人間が乗っているという事なのだが、さて、王家が俺に用事があるとも思えず困惑してしまう。
そのリムジンのドアが開き、中から妙齢の……と言うにはやや年増の美女が姿を現した。
その顔は知っている。至高のマルスリーヌこと天才科学者のマルスリーヌ・ルノアールだった。金髪で碧眼。科学者らしく白衣をまとっているが、その下は胸元が大きく開いているブラウスとミニスカートであり、美しい脚線美を惜しげもなく晒していた。
「アオイちゃん、お久ぁ!」
と言って抱きついてくる。左遷される直前に、恐らく一年前だと思うのだが、彼女とはその当時に会っているのだけれども、こういった熱い抱擁を交わすような間柄ではなかった。
彼女は豊かな胸元を押し付けながら耳元で囁く。
「ツカサとは上手くいってる? いつ結婚するの?」
この人は突然何を言い出すのだろうか。
「結婚などそのような関係ではありません」
「まあ。仲が良いって聞いてたけど」
「確かに、四六時中行動を共にしてました。しかし、狭い基地だったものですからそれは恋愛というより業務上の必然ではないかと」
「え? そうなの? ツカサの話とは違うわね」
詞は一体何を報告していたのだろうか。
「詞が何を話していたのかはわかりませんが、私たちは仲の良い同僚であって、決して恋愛関係にあった訳ではありません」
「そう。それは残念ね……いえ、これはチャンスね」
今度は俺から離れて俺の顔を見つめる。
「ねえアオイ。なら私と付き合ってくださるかしら」
突然の告白??
目の前の、33歳の推定Fカップ美女は悪戯っ子のように微笑んでいた。
全く持って、女は謎である。
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