第13話 氷
7月下旬。猛暑の中 私は大量の荷物を抱えて下校していた。
明日から夏休みのため学校に置いてある荷物は全て持ち帰らなくていけないのだが、これが苦行なのである。
習字バックに絵のバックその他もろもろを何故、一斉に運ばされなくてはいけないのか?
普通に考えても分割して運んだ方が効率的であることは小学生でも直ぐに判ることなのに学校側はソレを禁止しまとめて運ばせる。
〈習字も図工も夏休み始まる前にとっくに終わってるんだから先に持ち帰ったって別に良いのに〉
まさか、まとめて持ち帰らないと荷物を失くす可能性があるとでも考えているのだろうか?
だからって一度にまとめて運べば失くさないという理論は破綻している。
失くす奴は失くす。失くしたら本人の責任だし、失くしたのなら最悪再度購入すればいいだけの話なのだから荷物を大量に運ばせる理由にはならない。
などと考えながら私は一人で歩いていた。
しかし本当に重い…特に習字バックと辞書が重い。
本来ならポケット辞書のような軽い辞書を持っていくのが普通だが
重い暑いの二重苦に悪態しかでない。
〈せめて荷物を持った瞬間から直ぐに下校していれば少しは良かっただろうに…〉
終業式の日は集団下校をしなくてはいけない。そのために決まったグループの生徒が集まるまで帰ることが出来ないのである。
その間グランドで重い荷物を背負って待たされるのである。さらにグラウンドからの出発分 帰り道も微妙に長くなると言うオマケつきである。
そこまでやって最後には一人でトボトボと歩かされる。家が遠ければ遠い程 集団下校の利点は無いのだから虚しいことこの上ない。
歩き疲れた頃、ようやく家に到着し私は玄関の前で倒れた…
※
「生き返った」
クーラーで涼み、暑さから解放されたことに感謝しつつアイスを口へと運ぶ。
これでストレスとも おさらば…とはいかない。
ニュースで街中に怪人が現れたと聞けば直ぐにでも駆けつけに行かねばならないからである。
そうして私はいつものように家を出た…
※
街中にいた怪人はちょこまかと動き回り道行く人のお尻を触り騒ぎを作り出していた。
相変わらずしょうもない敵の姿を見ると私は呆れながら一撃で粉砕した。
強くなったおかげで難なく倒せるようになり、いつものようにえっちな目に遭わずに済んで良かったと思ったが怪人による被害者からクレームが飛んできた。
「ちょっと!! もっと早くきなさいよ!!」
相手の威圧的な態度にレッドブルマーは畏縮した。
「私、怪人とかいうのに襲われたのコレで二度目なよ!! こんなんじゃ怖くて外も歩けないわよ!! どうにかしなさいよ!!」
「ご…ごめんなさい…」
今までブルマー戦士は事件が起きてから出動するばかりで殆ど未然に防げずに終わっているのだからこういった不満が噴き出してきてもなんら不思議ではない。
むしろ今まで持ち上げられてきたことの方が異常なのだとキルカは内心 理解していたので、彼女の怒りが正当なものでしかないと受け止め、謝ることしか出来なかった。
「たく、反省してよね!」
「そうだ。そうだ。あっという間に倒してどうするんだ。サービスシーンをもっと見せろ」
なんか、関係のない文句も来たがコッチは完全に無視していいな。
「ごめんなさい! 今後は出来得る限り早く対処して被害が最小限になるよう努力します。そうして怪人を全滅させて町のみんなが安心して暮らせるように頑張ります」
深々と頭を下げるレッドブルマー。それに対して被害者は苛立ちある声色で「しっかりしなさいよ」と苦言を送って来た。
「え?! 怪人居なくなったら ブルマー戦士の
なお、この男は近くの女性に蹴り飛ばされた。
なーんで男ってバカなんでしょうねー。
とりあえず謝罪を終えて私はこの場を立ち去った。
その帰り道の途中。人気のない場所で見覚えのある人と遭遇した。
「ごきげんよう。レッドブルマーさん」
黒のカチューシャと銀髪に青い目…ブルーマーサファイアだ。
彼女の姿に気づくとレッドブルマーは立ち止まり思い出したかのように頭を下げた。
「この前は、ありがとうございました」
言われてサファイアは眉をひそめた。
「なに? 嫌味?」
「ち、違います。この前、怪人から助けて貰ったのにお礼を言ってませんでしたので」
慌てて誤解を解くが好印象は抱かれることは無かった。
「貴女ってホント、イライラさせるわね。まぁいいわ。どう? 人助けしてるのに文句を言われた気分は?」
「出来る限り頑張りたいと思いました…」
レッドブルマーが自信無さ気にうつむきながら答えると苦虫を噛み潰したような反応が返って来た。
「どこまで、お人好しなの貴女は」
別にお人好しなワケではない。ただ兄がしでかしたことで誰かに迷惑が行かないように、家族の失態がバレないようにやっているだけでしかない。
その本音を言えずにキルカは黙った。
「貴女の持つブルマーを渡しなさい。ブェルマーの最終定理さえ証明できれば全ての女性が自らの身を自らで守れるようになり、守られるだけで何も出来ない女子は世の中にいなくなるわ。そうすれば貴女も
「それって…心配してくれてるってことですよね?」
キルカは噛み砕いて相手の意見を受け取った。
「私は女性の権利と尊厳を尊重しているだけ。貴女個人を
ツンデレですね。解ります。
などと考えているせいでキルカは少し笑ってしまった。
「なに笑ってるの。気持ち悪い」
「ごめんなさい…。でも女性には優しいんだなって」
「あたりまえよ。女性は男たちの被害者なのだから」
「それは極端だと思うけど…」
一言、口にするとサファイアは睨みつけてきた。
「やはり、貴女とは雌雄を決するしかなさそうね」
「え⁉ ちょ…?!」
弁明をするより早くブルーマーサファイアは動いた。
前回同様、二股の氷の槍を作り出しレッドブルマーに向かって投擲してきたのでキルカは炎を巻き上げた。
しかし氷は溶けず炎を突き抜けて彼女の両腕を拘束し、抜け出そうと火で熱すると氷は溶けるどころか逆に膨張し凍っていった。
〈これ氷じゃない⁉〉
氷の結晶構造は現在判明している限りで17種類存在する。
その内の一つにアモルファス氷と呼ばれる水の
これは原子が規則正しく並んでいる氷と異なり原子が不規則に並んだ水の個体となる。
これを熱すると不規則に並んだ原子が規則正しい並びに戻ろうとし水特有の不の膨張の性質が現れ、今まさに起こっているようなこととなる。
もちろん、そのまま熱し続ければ氷を溶かすことができるが、そこまでの科学知識のないキルカからすれば熱すれば熱するほど凍ってしまう氷としか写らず。火を起こすことを途中で止めてしまった。
「それじゃあ頂いていくわ。貴女のブルマーを」
サファイアは地面に倒れ釘付けとなった彼女のブルマに手を掛け無理やり脱がそうとする。
「イヤ!! 止めて!!」
レッドブルマーは必死に体を動かし抵抗するが足の動きも押さえられ、ブルマをずり下ろされると、はみパンしないように食い込ませた薄ピンクの下着が現れる。
「いやぁあ!!」
恥ずかしさに声を上げるもブルーマーサファイアは容赦なくブルマを奪い取っていった。
「返して…」
懇願するもサファイアはキルカを見下ろし言う。
「悪いけど出来ないわ。でも、その恰好では流石に困るでしょうし変わりにコレを上げるわ」
ブルーマーサファイアは近くに置いておいたバックからタオルを取り出しキルカへ渡し拘束を解いて、その場を去って行った。
なんだか嵐が過ぎ去ったような気分でキルカは呆然とし、人知れずに変身を解除し帰宅していった。
※
「ごめん。お兄ちゃん。ブルマ盗られた…」
家に帰るとキルカは兄に報告をした。
「ん? ハチマキを持ってるなら大丈夫だぞ」
「え?」
「変身を解いた時点で持っていかれたブルマも消えて元に戻るからな安心して今後も変身できるぞ」
と言うことは…ブルーマーサファイアが持って行ったブルマは今頃…
※
「随分とあっさり奪い取れたと思ったら…そういう事ね…ブルマー戦士…覚えておきなさい」
手にしたブルマを失い、わなわなと怒りに体を震わせながら彼女はレッドブルマーとの再戦を誓っていた。
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