第14話 ブルマーを穿くべきか穿かないべきか

 澄んだ朝の空気を吸いながら私はラジオ体操をしていた。


 あー…なんか足回りが動き難く感じる…


 穿いていた短パンの布が太もも触れると何か強い違和感を感じ無意識にブルマーを穿きたいと思った…………………


〈毒されとるーーーーーーー!!〉


 寝ぼけた頭のせいで自分に起きてる異変に直ぐに気づけずにショックを受ける。


 なんてことだあんな下着同然の服を自分から穿きたいと一瞬でも考えてしまうなんて!! 恐るべしブルマー!!


 しかし、一度意識し始めると足回りの違和感が気になってしょうがない。そんなに熱くないハズなのに足が異様に熱く感じる。


〈この少し冷えた朝の空気が太ももに当たったら気持ちよさそう…〉


…………………………やばい…マジで毒されてる…


 そんなことを思いながら新しい朝が始まってしまった…



 まさか、ブルマーあんなものを穿きたがる日がくるだなんて…


 歪められた性癖に悩まされながら家に帰宅し朝食を摂りながらニュースを見ているとブルマー戦士…つまりは私たちに関して報道をしていた。


 内容は昨日、言われたような事件を未然に防げないことに対する人たちの不満をまとめたものだった。


「かーっ! 見んねキルカ! 卑しか民衆ばい!」


 そう言ったのはお兄ちゃんだった。


「それ非公式ネタだから一部の人たちから顰蹙ひんしゅくを買うよ」


 月岡つきおかがねPの皆様ごめんなさい。


「だけど、ただ助けられるだけの立場でよく文句ばっかよく言えるよな。アニメなんかじゃ散々、皮肉られてるのに未だに不満ばっか言う奴らってなんなの? なに? ブルマー戦士の闇落ち展開でも見たいのって言いたくもなっちゃうよ」


「騒ぎの張本人が言わなければ賛同も得られただろうねー。それと誰しもアニメとか見てるワケじゃないからね」


 コレからは日常生活を送りながらネットなどで情報を出来る限り集めて対処するしかない。

 願わくば、この夏休み中で怪人を全滅させたいが…


「ところでお兄ちゃん。怪人って残りどれくらいいるの?」


「覚えてない」


 聞くだけ無駄だった。



 店が開き始めた頃、私は自転車に乗ってマンガを買いに本屋へと出かけた。


 だが私は移動しながら悩んでいた。

 はたしてマンガなんか読んでていいのだろうか? と。


 事件を未然に防ぎたいのなら僅かでも異変がないか出来得る限り気を張って情報収集に励むべきでは無いか?

 でも、ずっとそんな状態を維持することも不可能だ。


 今は巡回を言い訳に本屋に向かっているがマンガを買った後はどうだろう? きっと…いや絶対に家に帰って読んでしまう。ならば買うべきではないのだろうか?


 そんな葛藤を抱きながら私は風を切る。


 そして考えついた。


〈いいや、情報収集とかお兄ちゃんにやらせれば〉


 多少、不安はあるが今まで怪人出現の報せはしっかりやっていたのだから大丈夫だろう。そもそも元凶なのだからソコはしっかり責任を取らせるべきだ。

 その上で私や宵ちゃんが気を張っていれば今までよりはマシになるだろう。


〈たぶん…他人から見たら責任感や努力が足りないって言われるんだろうな…〉


 結局。どっちを選んでも心が壊れそうな話だ。


〈そりゃ昨今の主人公たちが闇落ちしちゃうのも無理ないよね〉


 最近は自己愛精神の大切さを教える作品も増えたが難しいものだ。


 そうして、あれやこれやと考えている内に本屋に到着する。


 結局。責任感を感じさせる態度をとりながらも自分の欲望に負けるのだ。


 身勝手で醜い…どうやって、こんな自分を愛せと言うのだろうか?


 私は自分が嫌いだ…


 本心は客観視してる自分すげー! とか思ってんだろ? そう言いながら自分大好きなんだろ? とか言われるんだろうな。


 こんなんだから陰キャなんだよね。解ります。


 はぁ…なんでマンガ一冊買うのにこんな気持ちにならなきゃいけないんだろ。


 それもこれも全部、お兄ちゃんが悪いんだ。そう。だから私は悪くないんだ。


 俺は悪くねぇっ! 俺は悪くヌェー!


 脳内で真剣に悩みながら気がおかしくなりそうな心を茶番で誤魔化しながら新刊に手を伸ばすと、もう一人 別の人の手が伸びてきたのが見えて動きが止まる。


〈おや、確かこの人は転校生くん〉


 私が隣にいる人物と目が合い会釈えしゃくをすると彼は手を不自然にズラして別の本を取った。


 あー。このマンガ ちょいえっちぃもんね。なんとなく解るよ。


 まぁ私は普通に手に取るんだけどね。


 面白ければオールオッケーだ。あとカワイイは大正義。


 私は可愛くないけど。


 しかし、転校生くんは欲しくも無かっただろう本を持ってどこかへ去っていってしまった。


 買いたいものも買えないこんな世の中じゃ POISON♪


 などと頭の中で歌いながら私はレジに向かった。



 本屋にて僕は知っている顔に遭遇してしまい驚いて思わず別の本を取って逃げてしまった。


 しかし、女の子という生き物は本当にナゾだ。あのマンガは、どちらかと言えば女性向け作品じゃないというのに買っていった。


 普段から女性は異性からイヤらしい目で見られたくないハズなのに、ああいうジャンルの本に手を出したり短いスカートを穿いたり、巷ではブルマを穿いた正義の味方がカッコイイという女性までも居る。本当にナゾだ…



 さて、私は家に帰って来たが問題はまだある…


〈ブルマを穿くべきか穿かぬべきか⁉〉


 割と大真面目な問題である。


 散々、今まで否定してきたものを自主的に穿くと言うのは抵抗感と羞恥心がある。


 しかし、さっきから足が落ち着かない。


〈自分の部屋の中だけなら別にバレないし…良いよね…?〉


 コレくらいなら大丈夫という軽い気持ちがキルカをブルマ姿にさせた。


 当然。ブルマ自体を持っているワケではないのでハチマキを使っての変身である。


 その瞬間。足が楽になり、ついでにニーソックスも脱ぎ捨て解放感に安堵する。


〈ああ…足を出すってこんなにも落ち着くんだ〉


 ブルマーこんなものに負けるなんて…ッ!! 悔しい!! でも…ッ!! 感じちゃう!!


 足に空気が触れる感触がとても気持ちよく、キルカは一人三文芝居をすると、そのままベットで横になりマンガを読み始めた。


 とても気分が良いのか足をパタつかせながら彼女はページをめくっていき、時間が過ぎ去っていく…



「あー、面白かった」


 読み終えると部屋を出て、キルカは兄に買って来たマンガを渡しに行く。


「お兄ちゃん。読むー」


「おう…」


 そこで、お兄ちゃんの動きが固まり指摘されて気づいた。


 自分が変身を解かずに部屋から出てきてしまったことに…


「ちっ…が!! コレは…!! いつでも怪人が出ても良いようにと!!」


 キルカは一気に顔を赤くし必死に言い訳を並べ、兄はニヤけながらその様子を見ていた。


「いや、別に良いって、キルカにもブルマの良さが解って貰えたようで兄ちゃんは嬉しいよ」


「違う!! ていうかジロジロ見ないで!! 見せるために穿いてるんじゃないんだから!!」


「じゃあなんの為に穿いてるんですかねぇ」


 お兄ちゃんは意地悪く言うと私は怒鳴りつけた。


「うるさい!! ブルマー穿くようになっちゃったのは私のせいじゃなくてお兄ちゃんのせいでしょ!!」


 そう言い返しながらも彼女は変身を解くことなく兄妹喧嘩を続け、最終的にブルマに毒されてしまったことがバレてしまう形でその日は幕を閉じるのであった。


 府愛知ふえち市は今日も平和です。

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