第15話 勝負の始まり

 太陽が真上に昇り上げる頃。私は図書館に居た。


 夏でも涼しく、書棚に並ぶ本が表現しようのない独特の匂いと静けさを生み出すこの場所で工作の宿題の参考になりそうな本を探していると見知った顔と出くわした。


「あ、宵ちゃん」


 私は近づいて声を掛けた。


「宵ちゃんも何か借りに来たの?」


「ええ、ブルマーに関する本を…」


 いや、ないでしょそんなもの…


「ネットで探しても、いかがわしい本ばかりで今のところ真面目に書かれてるのは二冊しかないのよね…」


 え? あるの?


「ブェルマーの最終定理についても調べたけど何も手掛かりは得られなかったわ」


「へー、そうなんだ。ところで宵ちゃんは夏休みの宿題はどう?」


 ブルマーの話題にはついていけないので私は露骨に話題を変えた。


 宵ちゃん。ごめん。


「ほとんど終わったわ」


「おおー、流石」


 ブルマーさえ関わらなければ本当に優等生である。


 そんな日常会話をしていたらお兄ちゃんから連絡が来た。


 また、怪人出現の報せであった…



 その怪人は公園で女性の胸を鷲掴みにしたり男の立派な大胸筋をまさぐったりとやりたい放題していた。


「ア˝ッー!」


 男性特有の野太い喘ぎ声が響く。


 相変わらず酷い構図だ…


 そこに私たちが現れると複数の腕を持ち頭すらも手の形をした怪人がコチラに向かって来た。


 114514いいよ こいよ。返り討ちにしてやる。


 私は怪人が伸ばしてきた腕を焼き払った。


 しかし、目の前の腕に気を取られ過ぎていたせいで足元に伸びた腕に気づかずに私は足を掴まれ公園の噴水の中に投げ込まれてしまった。


〈やば…これだと炎が出せない…〉


 濡れると弱くなるとか何処のあんぱんだよ。と突っ込んでる暇はない。

 怪人はここぞとばかりに腕を伸ばし胸を掴んできた。


 指の形に歪まされた乳房は幾度も形を変え劣情を煽ると苛立ち混じりの声が漏れる。


「ん!…ぅぅ!!」


 胸元を弄られる感触は良い気がしない。

 敏感になった胸の先端に痛みが走り、怒りがつのるとキルカは怪人の腕を握り潰した。


 これで解放されたと思ったら今度はレッドブルマーの可愛らしい臀部でんぶ

に手が回って来た。


 怪人はそれをでたりさすったりせずに鷲掴みして揉みしだいた。


「ひ…!! ゅいっ!!」


 体に電気でも流れたかのように全身に悪寒のような何かが走り硬直する。


 ぴったりと肌に密着するブルマがお尻と一緒に伸び縮みして秘所を擦りつけ余計な湿り気を生み出すと顔が一気に紅潮した。


 コレには観客も興奮し見入っているとブルマの隙間からはみ出してきた白いレースに目が行き、思わず声が上がる。


 が、怒りの声も同時に上がり男性達の前に立って視界をさえぎる一人の女性の姿があった。


「はい! イヤらしい目で見ない!!」


 そう言ったのは同級生の黒井くろい 優莉ゆりだった。


「負けないでー!! レッドブルマー!!」


 彼女が声援を送るとレッドブルマーはただ恥ずかしがるばかりをやめて反撃に出た。


 怪人のいかがわしい手に服をまくられそうになったり胸元を触られようとも前に進み、同じく怪人と戦い続けていたブルーマーネイビーと合流を果たし、お互いに連携を取り二人は怪人を打ち倒した。


 そこで歓声を得ると黒井くろい 優莉ゆりがレッドブルマーのもとへと走っていく。


「レッドブルマーさま。カッコよかったです」


 彼女はレッドブルマーの手を取り目を輝かせながら言った。


「最近は悪く言う人も居ますけど私はいつまでも応援していますからね」


 応援してくれのは嬉しいが、上手い返しも思いつかずにキルカは無難に一言送る。


「ありがとう…ございます」


 たどたどしい反応ではあったものの彼女は大いに喜んだ。


 そんな中、銀色の髪に青い瞳とブルマーの女性…ブルーマーサファイアが彼女たちの前に現れた。 


「ごきげんよう…と、その前に…」


 サファイアは氷柱を男たちに向けて打ち出した。


「去ね!! 卑猥な目で見る男ども!!」


 以前と同様、男性に対して過激な反応である。


「この前は、どうもレッドブルマー」


 そんな意気込む彼女の前に黒井くろい 優莉ゆりは言った。


「ちょっとアナタ!! なんなの一体⁉ 同じブルマーを穿いておきながら人助けもせずにレッドブルマーさまの邪魔をして!!」


「…くだらない。守られるだけで何もできないクセに」


 冷たく見下した態度に黒井さんは怒声を上げるがサファイアは歯牙にもかけず警告した。


「同じ女性に危害を加えるつもりはないけど邪魔をすると言うなら容赦はしないわよ」


 猫のように鋭い眼光で睨まれ、ネズミのように身をすくめた黒井さんへ私は安全な場所に逃げるように伝えると彼女は正直にソレに従い、そうして公園には私たち三人だけとなった。


 一般人の横ヤリが入らない状態になるとブルーマーサファイアは躊躇ちゅうちょなく攻撃を仕掛けてきた。


 二人は飛んでくる氷を避け、レッドブルマーは呼び掛けた。


「あの!! どうしても戦わなくちゃいけないんですか⁉」


「逆に聞くけど協力してくれる気になったの?」


 サファイアに問われると彼女は言葉を詰まらせながらも答えを返した。


「でき…ません…けど! お互いに全然、話し合ってないです!」


「何を話し合えと言うのかしら?」


 こう聞かれるも私は賢く無いなりに考えながら言葉を紡いでいった。


「例えば……どうして、男の人が嫌いなんですか?」


「気色悪いからだ!!」


 身も蓋もない!


 えーっと…じゃあ次の質問…


「具体的に、どういうところが?」


 なんとなく質問の仕方が先生っぽい感じになってしまったがコレには意外と考え込んでから答えが返って来た。


「不潔。横柄。特にイヤらしい事ばっか考えるととことか気持ち悪い。その上、自分たちの気色の悪い妄想を公然と垂れ流して平気な顔をしてるとこがサイテー。えー…っとそれから…」


 わー、モロに女性から嫌われるタイプの男性像だー…


「ちょっと…ステレオタイプな気が…」


「そんな事とはないわ!! 大半の男はこんなものよ!! 実際、さっきまで居た男たちがそうじゃない」


「たまに顔を赤くして目を逸らす人もいるよ」


 サファイアは反論されると直ぐに嫌な顔をした。


「ともかく、お祖母さまの為にも貴女たちのブルマーを頂かせて貰うわ!」


 レッドブルマーは、お祖母ちゃんのためという言葉について聞こうとしたが途中で氷柱が飛んできてそれどころでは無くなってしまった。


 「一度、下がってレッドブルマー!」


 ネイビーは前に出て言うとサファイアと対峙する。


「でも…」


「こういう話を聞かないのは一度は痛い目みなきゃ正直に話し合わないわよ!」


 迷いを見せるレッドブルマーにネイビーはハッキリと言うとサファイアに立ち向かう。


「前回、負けたのに懲りないのね貴女…」


「以前と同じだと思わないで欲しいわね」


 ネイビーは不敵に笑って見せると公園の水を操りブルーマーサファイアへとけしかけた。


「バカなのかしら? 水が氷に勝てるとでも?」


 サファイアは氷で障壁を作り水を受け止めると壁が溶け始め直ぐに後ろへと下がった。


〈お湯⁉〉


 蒸気を見るとサファイアは直ぐにその正体に気づいた。


「水を操る能力によって水分子を高速で動かすことで熱湯に変えたのね」


 能力の応用を理解しサファイアが語るとネイビーは肯定した。


「そうよ。火傷したくないなら降参しなさい」


「この程度で図に乗らないで」


 二人が激突しようとする前、ブルーマーネイビーはキルカへ言った。


「さぁ今のうちに下がって。そのままじゃ戦えないでしょ」


 レッドブルマーは濡れた服をどうにかするために言われた通りに一時撤退を決める。


「直ぐに戻るから」


 その一言を残すと相対する二人のブルマー戦士が、ぶつかり始めた。



 私はレッドブルマーさまに逃げるように言われたにも関わらず出来る限り公園の近くで隠れているた。


 そうしていると私のヒーローが何処に向かっていくのを目にし、気づかれないようについて行った。 


 人気ひとけのない場所に着くと彼女は赤いハチマキを取り、私の見知った人物へと姿を変え再びハチマキを締め直し濡れた服が元通りとなると公園の方へと向かって行く。


 私はこの時、レッドブルマーの正体を知ってしまった…



 公園での戦いはブルーマーネイビーが劣勢であった。


 既に服が破けケガを負ったネイビーの姿にサファイアは諦めるように呼び掛けるも彼女は応じなかった。


「なら、氷漬けになってしまいなさい」


 鋭い冷気が彼女を襲い身動きを封じられ窮地に陥ると、都合の良いタイミングで助けがやって来た。


「大丈夫⁉ ブルーマーネイビー!!」


 駆け寄って来たレッドブルマーの優しい炎に包まれて氷が溶けていくとネイビーのケガの具合を彼女は知ることになる。


 特段、酷いものではない。だけど心が痛かった。


 そう感じている間にもサファイアの攻撃が飛んでくる。


「もう、やめて!」


 氷柱を炎で迎撃しながらレッドブルマーは訴えかけるが攻撃は止むことなく続き、その間も語り掛ける。


「ブルーマーサファイアさん。さっき貴女はお祖母さまの為にって言ってたよね? こんなやり方でブルマーを手に入れて貴女のお祖母ちゃんは本当に喜ぶの?」


「大喜びするわよ!」


 クソBBAババアじゃねーかぁ!!!!



 ……いや、勝手に彼女がそう思い込んでる可能性もあるからクソババア認定は良くない。


「お祖母さまはね、長い間ブルマーの研究を続けていたわ……」


 唐突にサファイアの身の上話が始まった。


 隙あれば自分語りってやつですね。わかります。…いや話し合いしたいので助かります。


「だけど研究は中々うまくいかず…研究費は打ち切られたわ…」


 それまで研究費、貰えてた方が驚きだよ……!!


「やがて、バカな女だ。やっぱり女の研究者はダメだなと笑われるようになっていったわ…」


 それ、たぶん男で産まれてきてもバカにされてたんじゃないかな…?


「お祖母さまは、そうやっていつも性差の格差で差別されて来たと語っていたわ。男はクズだ。男みんなは変態だと…」


 お祖母さんも差別してるんですが…それは…


 と言うか、ブルーマーサファイアが男性嫌いになった原因って、そのお祖母さんのせいでは?

 やっぱりクソババァじゃないですかー! ヤダー!


「例え貴女に批難されようとも私は、お祖母さまの名誉回復のため、女性の自由のために戦うわ!! この青いブルマーに誓ってね!!」


 さて、どこから突っ込もう。


「あの…その穿いてるブルマーを研究成果として上げれば良いんじゃないかな?」


 とりあえず。私は疑問を口にしてみた。


「残念だけどコレは偶然できた物…再現性もなく研究者からは手品だと思われたわ。それどころか、いい歳したババアがそんなもん穿いてくんじゃねぇよと罵倒され取りつく島も無かったそうよ」


 うわっ!! キッツ!!


「酷いと思わない? 女性は年齢を気にすることなく自由に服を選ぶ権利すらないって言われたのよ」


 ええっー!! そういう風に受け取っちゃう!!?


「それは違うわ!!」


 ここで、宵ちゃんが突如、声を上げた。


「ブルマーは若さの象徴を持つ物。それなのに年齢を考えないで穿くだなんて!! 間違っているわ!!」


 んんー……?? ん??


「貴女までそんな事を言うのね。ブルマーは自由の象徴! 年齢などに囚われるものではないわ!!」


「ならブルマーに見合う姿であるべきだわ! でなければ神聖なブルマーに対する冒涜だわ!! 貴女のお祖母さんはそこまで努力をしていたのかしら⁉」


「ッ!…それは…」


 二人が言い合うとサファイアは押し黙った。


 どうやら出来ていなかったらしい。


 こんな議論だったが、これで彼女が私たちのブルマーを狙う理由が少し解った。


「事情は解りました。だけどブルマーを渡すことはできません。これが無ければ怪人を倒せない。だからせめて怪人を全て倒しきるまで待ってもらえないでしょうか?」


 私は頭を下げてお願いするも、サファイアは提案を承諾しなかった。


「それが終わるのは何時になるの? そもそも怪人の正体も解らないのに全滅させられる保証はどこにあるの?」


 お兄ちゃんが作ったものだから絶対終わりはあると断言できるがソレは言えないのでどうしようもなかった。


「ごめんなさい。でも渡せません」


 渡せば正体がバレるから。


「女性の自由とか尊厳とか、正直。難しことはよく解りません。でもソレはブルマーがなくても、ブルマーにこだわらなくても出来ると思うんです。でも怪人退治はこれが無いと出来ない事なんです。だから…」


「だから、見逃して欲しいと?」


 ブルーマーサファイアは鼻で笑うとレッドブルマーは首を横に振り、ある勝負を申し込んだ。


「これから、夏休みが終わるまで、どちらが多く怪人を倒せるか勝負しませんか? それで負けたら私のブルマーを渡します」


 この方法なら、どっちも傷つかないし怪人問題も早く片付くようになる。私が考えられる限りの最善の策だった。

 もし、これでダメだったら私は逃げまくるくらいしかもう手がない。


 これに対してサファイアは考え込んだ後、答えを返した。


「いいわ…私も同じ女性に手荒なマネをするのは心苦しいかったから、その勝負、受けるわ」


 内心、受け入れて貰えない可能性が高いと思っていたのでキルカは驚いた。


「もし、約束を破ったら容赦はしないから覚悟しておきなさいレッドブルマー」


 ブルーマーサファイアは最後にそう言い残して私たちの目の前から立ち去って行った。


「ああ…良かった…」


 問題が片付き安堵すると彼女は緊張から解放され赤いブルマを地面に下ろして安堵の息をこぼすと二人は帰路についた。



 帰宅すると、私は今日の出来事をお兄ちゃんに話し色々と聞かれた。


「いいのかキルカ。負けたら正体がバレちゃうぞ」


「…一応、勝つつもりです」


「おー、ヒーローを続けて少し自信が付いてきたな」


「どうだろね…」


 私は自嘲的な笑みを見せながら言うと、「昔だったら絶対できなかったと思うと」お兄ちゃんに言われた。


 そっか…じゃあ少しは変わったのかもしれない。


 そういえばブルマー姿で戦うことについても、いつの間にか抵抗感が薄くなってきてるような気がする。


 慣れって怖い…


 そうして今日も一日が過ぎていく。


 府愛知ふえち市は今日も平和です。

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