第18話 藪蛇

 黒いハチマキを奪われてから幾日か過ぎるも私は相も変わらず怪人と戦っては、えっちな目にい、敵を倒す日々を送っていた。


 体のあちこちを触られたりがれたりいじられたりと散々ではあるものの怪人被害は確実に減っていった。


「あーーーーーーーーー!! もう!! 後どれだけ怪人を倒せば終わるのよーーー!!」


 家に帰るなり私は叫ぶ。


「さぁな…作った数を覚えてないから解らん」


 元凶がコレである。


 この記憶力の悪さには、流石に憎悪しか生まれない。


 この先、ブルーマーサファイアも何をしでかすか判らない中、不安が積もるばかりである。


 そんな、ある日。宵ちゃんが家にやって来て言った。


「ブルマー戦士として私たちは、怪人だけに限らず あらゆる悪と戦っていかなくちゃいけないと思うの」


 彼女の中ではブルマー戦士は歴とした正義のヒーローであるためか社会貢献への意識がとても高い。

 私としては、バカなお兄ちゃんの不始末さえ片付けられたら後はどうでも良いのだけれども、やっぱりヒーローとして見られてる以上、期待に応えていかなくてはいけないのだろうか…ツラい…


 ところで具体的に何をするのだろうか? と思っていると宵ちゃんがスマホを操作し画面を見せてきた。


「幽…霊列車…」


「そう、深夜、電車も走らない時間帯に電車が現れソレに乗ると言葉にできないほどの恐怖を味わされるというの」

「却下」


 私は宵ちゃんの話の途中で割り込んで拒否した。


「ムリムリムリ! 幽霊とか怖いし! そういうのは祓い屋とかに頼もうよ!」


 私は全力で嫌がったが宵ちゃんは「そういう他人任せな考えが いつまでも問題を解決させない姿勢を作り出す原因になるのだから 力のある人間が積極的に立ち向かって行かなくてちゃ」と言って譲らなかった。


「いやいや! どっかの昔の偉い人も言ってたよ幽霊は居る居ないに関わらずそういうものは遠ざけておけって、ソレが知恵と言うものだって!」


 具体的に何処の誰が言ったかまでは覚えてはいなかったが、そんな言葉だけを覚えていて、つい口走ってしまった。


「…そう…そうね…そもそも私が勝手に持ち出してきただけの話だし、無理強いするのは良くなかったわね…ごめんなさい」


 シュン…とした表情で彼女が謝ると次に言った。


「私一人で解決してくるわ」


 ダメーーーーッ!! それはそれでダメな奴だ。友達だけ危険な目にわせるのは良くない!!



 結局…私は宵ちゃんが心配なので夜の幽霊列車退治に同行することとなった。


 あー…怖いのはノーセンキューだよ~…どうか出ませんように


 しかし、そんな願いは、その夜に直ぐに壊されることをこの時、私はまだ知らなかった。



 深夜。

 もう電車も走らない時間。私たちは駅のホームに忍び込み噂の幽霊列車を待った。


 ちなみにこんな夜中に出かけたら親を心配させてしまうので宵ちゃんは私たちの家に泊まっていることにしている。


〈ウチの親が事情を知ってて良かった〉


「そういえば、どうやって除霊するの?」


 レッドブルマーは今さらながら思った疑問をブルーマーネイビーに投げかけた。


「もちろんブルマーに宿る神聖な力で幽霊たちを祓うのよ」


 知ってた。


 もう、私の日常はなんでもかんでもブルマーが中心で、どんなことでもブルマーが重要なのだ。


 何を言っているか理解できないけど私にも解らない。ともかくブルマーが全てを解決してくれるのだ。


 深く考えてはイケない。どうせ突っ込んだところで流されるのだから。


 人は流れに逆らい、そして力尽きて流される。


 諦観ていかんを抱き運命に身を任せると突然、目の前でもやのような何かが、ゆらゆらと揺れて電車の形を成していった。


 これが噂の幽霊列車なのであろうと確信できるほどの超常現象であったものの、それでもキルカは疑いの声を出す。


「あれ…電車、まだ走ってたっけ……?」


「もう終電はとっくに過ぎてるわよ」


 ブルーマーネイビーは返す言葉に続いて電車に近づきながら言う。


「これが幽霊列車ね。もっとレトロなのを思い浮かべてたけど今の電車と何も変わらないのね」


 次の瞬間。ネイビーは体の捻りを加えた強烈な蹴りを車体に向かって放つと、脚が電車の壁面に埋まり、ブルーマーネイビーは困惑の声を上げながら引きずり込まれていき、慌てて、レッドブルマーが彼女の体を掴んで引っ張り出そうとするも抵抗 虚しく二人は車内に放り込まれてしまった。


 その瞬間、レッドブルマーは背筋が凍るような不安感に包まれた。


「ああぁ…本当に幽霊列車なんだこれ…」


 震える声に動き始める車内。

 必死に脱出を試みるも、電車には傷一つ与える事も出来ず、どうすることも叶わない中、笑い声が聞こえてきた。


「な…なに…この不気味な声…?!」


 レッドブルマーが恐怖を感じると今度はお尻を手で撫でられた感触に襲われる。


「ひぃぃぃ!!」


「なにっ?!」


 彼女が悲鳴を上げるとブルーマーネイビーは過敏に怯えるように反応した。


「いま、お尻触られた」


 しかし、列車内には彼女たち二人しか居らず、当然ブルーマーネイビーは何もしていない。

 つまり、そこから導き出される答えは一つ。


「ゆ…幽霊…っ!」


「いやっ!!」


 今度は紺色のブルマーに触れる手の触感が彼女を襲い声を上げる。


「え……? なにコレ…」


 困惑する紺野こんの よいに続いてキルカは言った。


「もしかして…幽霊列車は幽霊列車でも痴漢の亡霊が乗った幽霊列車…ってこと…」


 気づいた瞬間。二人は青ざめて甲高い悲鳴を同時に上げた。


「いや!! ふざけないでよ!! 冗談じゃないわ!! 出してよ!!」


「そうだよ!! コレなら普通の怨霊のが百倍マシだよっ!!!!」


 互いにドアを叩き壊そうと全力で蹴って殴って叫んでいると唐突にキルカの胸が掴まれた。


「ひぃっ!!」


 気持ち悪さに身を固くすると恐怖に歪んだ顔に興奮した男の声が聞こえた。


「ふぉおおおおお!!」


 そこから、臀部でんぶに硬いものが膨らむ熱を感じ取ると、一気に視界が白けていき気絶していった。


「おっと、気を失っちゃったよ」


 見えない何かが倒れる彼女を支えそう言うとブルーマーネイビーは叫ぶ。


「レッドブルマー!!?」


「え? なにソレがこののあだ名? ダッサw」


 感に障る嘲笑にブルーマーネイビーが苛立つと今度は別の男の声が聞こえてきた。


「しかし、ブルマーだなんて久々に見たなぁ。なに? 最近の若い子の流行りなの?」


「まさかーw」


〈げっ…一人じゃないの⁉〉


 複数の亡霊たちの声に吐き気をもよおし嫌悪感がブルーマーネイビーの中で生まれる。


「どうしようっか? この?」


「とりあえず座らせれば」


 幽霊たちは話し合うと座席にまで運ぼうとキルカを持ち上げる。


「放しなさいっ!! 変態!!」


 ブルーマーネイビーは、おおよその当たりをつけて拳を繰り出すも空を切り、逆に反撃を貰う。


「そう興奮するなよ~、ちゃんと可愛がってあげるからさぁ」


「う…ぇ˝……」


 後ろから抱きしめられ行われる愛撫に不快感を隠すことなく吐き出すも、それが変態には、ご褒美でしかなく興奮していく。


 あっちは触れるのにコッチは殴ることも出来ない理不尽に男 特有の気色悪さへの嫌悪と増悪が相まって怒りとストレスからくる漠然とした殺意と破壊衝動が湧き上がって来るとソレに性的興奮の色が軽く一滴 落とし込まれる。


 本人の意志と関係なく肉体が感じる本能的 喜びが苦痛を和らげる大麻のように頭の中で広がっていくと体が火照り、熱の帯びた声が漏れる。


「…はッ!!……ん…ッ!!…ぅ…」


 最大の嫌悪が最低の劣情によって慰めという、今までの人生で一番最悪の感情を味わうとブルーマーネイビーは必死に抵抗する。


「やめ…て…止めて!!!」


 恥部に指が擦りつけられ、別の手が指先でコリコリと胸をいじる。


 そこから生まれる感情をどう言い表せばいいのだろうか? 言葉にならない。


 それでも口にするなら。「殺す」とか「絶対に許さない」といった思いつく限りの攻撃的な言葉だろう。


 そのかたわらでレッドブルマーにも男たちの欲望がぶつけられていた。


「んーっ。かんわぁいい」


 力の抜けきった無防備な脚は広げ、幽霊はブルマーの作り出すVラインを目で楽しみながら太ももを手で揉みくちゃにしていく。


「ん」


 気を失いながらもレッドブルマーは眉を寄せて一声 漏らすと男は悦びに浸る。


「きもちぃぃいっ!! 女の子ってドコを触っても柔らくて好きっ!!」


「されにしても最近のは発育いいな」


 今度は胸に手を掛けるとズッシリとした重みに指に沈む肉感に感動する。


「うぉお!! なんだコレ⁉ いままで一番ふくよかで手からトロけちまうくらい気持ちい!」


「クソも大概にしろよなッッ!! お前らッ!!!」


 見るも聞くも堪えがたいおぞましさにブルーマーネイビーは怒号を発すると水の刃を形成し攻撃する。


「うおぉ!? なんだ⁉」


 幽霊たちにダメージは一切なかったが驚かせることで死霊の手から逃れる事はできた。


〈これも効果がないか…〉


 ならばと思い、ブルーマーネイビーは濃い霧を発生させる。


「なんなんださっきから!!」


「ちくしょう!! これじゃなんも見えねぇ!!」


「クソォこれじゃ カワイイちゃんの顔を楽しめないじゃないか!!」


 幽霊たちは口々に不満を漏らす。


 攻撃が出来ないなら、せめて嫌がらせくらいは、というネイビーの苦肉の策であったが亡霊たちは直ぐに次の行動に出た。


「なんか知らねぇけど、さっきの子がやってるのか!」


「もういい、興覚めだよ。さっさっと追い出しちまえ!」


 そう言うと、濃霧の中でも幽霊たちはブルーマーネイビーを捕まえ停車先の駅のホームへとつまみ出した。


 助かったと思ったのも束の間。ソコにはブルーマーネイビー1人だけでキルカの姿はない。


「ッ⁉ 待ちなさい!!」


 急いで戻ろうとするも電車のトビラは閉まり、姿を掴むことも出来ずに消え去ってしまった…



「ふーっ、全くなんだったのか」


 幽霊たちは窓を開け換気を済ませると気を失ったまま席に座るキルカの前に集まって言った。


「お楽しみが、一つ減っちゃったけど、まぁコッチのの方が上玉だし、まっ、いっか♪」


 変態どもは気を取り直すとレッドブルマーの無防備な肢体をいやらしい目で見つめ、一体の幽霊が言った。


「いや~、それにしてもブルマってエロくね?」


「それな! マジたまんねぇ」


「小生は今までセーラー服が至高と思っておったが、そんなことはなかったぜ」


 唐突に始まる同志たちの語らい。


 熱い討論は次第にブルマー鑑賞会へと移行していった。


「さっきのも可愛かったが、こっちは更に最高だな」


「ああ、特にこのむっちりとした脚がたまらない…」


「ブルマーに厚みがあるにも関わらずピッタリと張りつくことで肉がハミ出すなんてエッチチチチチチ!!」


「なんかいい匂いしない?」


「しない」


「しない」


「死ね」


「キモイ」


「それはお前の勘違いだ」


「なんで、オレにだけ辛辣なのお前ら?」


 一連のやり取りの後、また別の幽霊がある発言をする。


「ところでニーソっている?」


 これについて即答は無かったが皆、熟考しながら答えていった。


「難しいな…」


「足を引き締めてムッチリ感を上げているとも言えるし、美しい肌を台無しにしているとも言える…」


 一通り考えると誰かが言った。


「よし、とりあえず脱がしてみよう。それでニーソなしありで比較をするんだ」


「イエッサーッ!!」


 亡霊たちはノリノリでキルカが履いていた黒のニーソックスに手を掛けゆっくりと下ろしていく。



 突然だがココで解説を始めたいと思う。


 彼女はなんの為にニーソックスを履いてるのだろうか?


 答えはキック力を増強するためである。


 この原理は、ブルマーから足へ流れる際に拡散してしまう神聖なブルマー力をニーソックスへ溜め込むことによって威力を増大させるという至って意味不明シンプルなものである。


 では、いきなりこのニーソックスを脱がしてしまうとどうなってしまうのか?


「ぐ…」


 脱がし終えた瞬間。ニーソックスによって堰き止めらえていた光り輝く神聖なブルマーの力が一斉に放出し始めた。


 「うぁぁっぁぁああああああっ!!!!!!」


 本来、人間が浴びても問題のないエネルギーであったが、肉体を持たぬ亡霊たちには、ブルマーと太ももによって描き出された黄金の曲線美が生み出すパワーに耐え切れず、抗うことも叶わず光の中へと飲み込まれていった……



 朝日を浴びるとキルカは自然と目を覚まし、辺りを見回す。


「あれ…? 私、何してたんだっけ?」


 気づくと隣町の無人駅のホームに設置された木製のベンチに腰をかけていた。


 なんで、こんなとこに居るんだろうと疑問に思いつつ、彼女は朝を迎えるのだった。

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