第20話 車竜

 残暑が残る季節へと移り変わり夏休みも終わる。


 しかし、長期休暇が終わろうともブルマー戦士の戦いは終わることなく今日も怪人との戦闘が、この府愛知ふえち市で繰り広げられていた。


「オーマイガッ!!」


「アンビリーバボぉ!!」


「ホワイ・ジャパニーズ・ピーポー!!」


 市内を爆走する怪人。


 爬虫類の特有の鱗に鋭い牙と歯。そして羽を持ちながらワゴン車のような体系に車輪を兼ね備えたその姿を目にした市民は思わず英語で自らの精神的ショックを表現した。


「ジーザス……」


 伝説のドラゴンと車のハーフ……


「ドラゴン・カー……」


 人類の業を体現した存在を前に人々は救いを求める……その時、彼女は現れた。


 黒のニーソックスと赤いブルマを柔らかな肉質に食い込ませて走るしなやかな脚…… 府愛知ふえち市のヒーロー。レッドブルマーだ!!


「ワーォ!! ジャパニーズ・ブルマガール!!」


〈なんか今日のノリ、腹が立つな……〉


 ゆく先々でエセ外国人な反応を返されキルカは少しイラッとしながらも怪人へと立ち向かって行き、早々に開幕の一撃を決めてドラゴン・カーを横転させる。


 だが、これで終わるほど相手も甘くない。


 吹き飛ばされた先で体を起こすと竜があぎとを開き喉の奥から火を噴きだした。


「いやぁ!!」


 咄嗟に両腕を交差して身を固めるとブルマー戦士は竜の吐息に包まれ体操服と下着だけ焼かれてしまう。


 無論、肌や髪などにすすがついた程度でダメージなど無く、ブルマに至っては燃やされるようなことは一切ない。


 それもこれも全て、怪人設計とブルマを開発したキルカの兄、古間ふるま 好希こうき趣味せいへきが反映された素晴らしいバカバカしい仕様であった。


 この、ふざけた兄のこだわりがより一層キルカの羞恥心を強め、頬を赤くさせると自らの手で胸を隠す。


「ノー、ノー、ノー。オープン・ザ・オッパイ」


「ぷりーず・ぎぶ・みー・おっぱい」


〈ファッキュー〉


 声に出さなかったものの男達に反応にキレ気味になるレッドブルマー。


 というかもう英語じゃねぇ……。


 バカな観客のリアクションに呆れつつあると今度は観衆の服が燃やされ、男たちは、一様に頭を黒コゲのアフロヘアにして下半身を丸出しにした。


「きゃあああああ!!」


「オ~ノ~ッ! なんてこった。ママにしか見られたことの無い裸をこんな嬢ちゃんに見せちまうなんて、とんだ失態だぜッ」


 いい加減。そのノリやめろよ言いたいところだがソレよりも先にレッドブルマーは目を閉じ顔を真っ赤にして叫ぶ。


「いいから隠してよッ!!」


「HAHAHA。恥ずかしがる君もチャーミングだね」


「いい加減にして下さい。警察呼びますよ」


「アッ、ハイ……スミマセン」


 冷淡な瞳で警告を受けると男性は、しょぼしょぼと電柱の裏へと隠れて行った。


 くだらない、やり取りを終えてレッドブルマーは改めて敵に向かい合うと怪人は竜のヒゲを自在に操り、彼女の下半身を守る最後の砦に攻め入り、その伸縮自在な生地を伸ばし要らぬ刺激をブルマー戦士に与える。


「――――ッ~!!!」


 左手で乳房を隠しながら声に出来ない恥辱に抵抗するが、もう一方のヒゲが反撃と言わんばかりに臀部側の布地を引っ張り元に戻す。


「んぁ♡」


 渇いた音が鳴り響くと熱い痛みがレッドブルマーのヒップに伝わっていき反射的に股の間が締めつけられ、刹那的に生まれた激しい情欲に耐えられず艶のともなった声が漏れてしまい、恥ずかしさと醜態を晒した屈辱に、湧き上がった色欲への罪悪感が混ざりあって泣きそうになってしまう。


〈ィゃあ……!!〉


 好き放題に引き延ばされるブルマーからクチュりと染み出すいとおしくもおぞましい衝動は理性が拒絶し本能が欲して脳を狂わせていく。


『あぁああああああ!!!! ドッ!! えっっっっっ!! チチチチチチ!!!!』


 あまりのエロさに兄の魂の叫び声を上げてしまい、ハチマキに備わった通信機能を通じてキルカに送られた。


 その瞬間、キルカは、今も何処かでこの様子を観察し喜んでいるバカの思い通りになっている事に純粋な怒りの感情を湧き上がらせ反抗心から冷めた反応へと切り替えて、炎を纏わせた手刀で竜のヒゲを焼き切ると敵との間合いを詰めて会心の一撃を叩き込む。


 彼女の蹴りは見事にドラゴン・カーの車体下に潜り込み、美しい脚部が勢いよく天に向けられと怪人は空に打ち上げられ爆散した。



 その頃、少し離れた別の場所で、もう一人のブルマー戦士。紺野こんの よいが地面に倒れていた。


 紺色のハチマキは今や彼女のもとから離れ、銀の髪に黒いカチューシャを着けた女性……ブルーマーサファイアの手に握られていた。


「ふふ、これでブェルマーの最終定理解析に一歩近づいたわ。ありがとう。ブルーマーネイビー」


 不敵な笑いを残し、サファイアは立ち去っていった。



 ブルマー戦士たちの戦いは、まだ終わることを知らない……。

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