第3話 むっちり

 居間で夕飯を食べている時。ブルマー戦士に関するニュースが流れていた。


府愛知ふえちで起きている謎の生物やロボットによるセクハラ被害に対し颯爽と現れ人々と救うブルマー戦士。いったい何物なのでしょうね』


『ええ、本当に何物なのでしょうね~ちまたでは深入りするのは無粋と言う人もいるそうですけど私としては、あの格好で動き回る人を放置するのもどうかと思いますけど

どうせならもっと普通の格好をすればいいのに。ねぇ?』


 私も普通の格好のが良かったです。


「ははっ。なに言ってんだこのおばさん。ヒーローが普通の格好するわけないのにな」


 隣で茶碗を持ちながらお兄ちゃんは言った。


 お前がなに言ってんだ。と思いつつも私は口にはしなかった。


「でもブルマー戦士って本当に何物なのかしらね?急に現れて急に消えていくなんて不思議ね」


 そう言ったのは私の母。古間ふるま 有佳ゆうかだった ちなみに年齢は38歳だ。


 お母さんと単身赴任中の父はまだ私がブルマー戦士だとは知らない。


 願わくば娘があんな恥ずかしい姿で活躍していることを知られぬまま終わりたい。


「ああ、母さん。あれの正体キルカ」


「あら、そうなの」


「ゲッ…フッ!??」


 即オチ展開に思わず味噌汁を肺に吸い込んでしまった。


「あらあら大丈夫」


 大丈夫だ、問題ない。


「もう、お兄ちゃんが変なこと言うから肺に吸い込んじゃったじゃない。私がブルマー戦士なワケないでしょ」


 笑顔で答える私に兄は、いつの間にか私の背後に立ちハチマキを結んでいた。


はい。変身。

はい。バレた。

はい。ふざんけな。


「わぁ可愛い」


 お母さんは普通に喜んだ。


 あーダメだツッコミ足んねぇ。


「なにやってんの…お兄ちゃん」


 不機嫌な声で兄を睨み付ける。


「またオレ何かやっちゃいました」


「確信犯でしょうが!!どうしていきなり正体をバラすの?!」


「家族に黙ってるとか面倒だろうがー。そもそもお決まり展開 過ぎてつまんねーし」


「そういう問題!?

お母さんもなんで普通に受け入れてるの!?」


「娘の好きなものを否定するほど私もバカじゃないわよ」


「残念だけどコレはお兄ちゃんの性癖しゅみだから」


「あら?そうだったの」


 私は母と会話しながらハチマキを解く。


「そうだよ。でなきゃあんな恥ずかしい格好しないよ」


「それじゃあどうしてジャージとか上に着ないの?」


………………


 あぁあああああああああああ!!!!!!その手があったかぁああああああ!!!!


 心の中で叫びながら頭を押さえる。


 どうして今まで考えなかった?!ちょっと考えれば出来たことなのに?!どうして!


「気づいてなかったのね」と母が言うと兄が言った


「ダメだぞキルカ!ジャージなんか着ちゃ!!」


「知るかぁ!今度から重ね着して新生ジャージ戦士として活躍してやる!

はぁ~ホントなんでこんな単純なことに気づかなかっただろう。こんなんだから私って勉強も運動もできないダメダメなんだね。ありがとうお母さん。これからは人前で恥ずかしい思いをしなくて済むよ」


 天の光によって救われたような気分になっているとお兄ちゃんは言った。


「キルカ……お前そんな事をしたらいったいどうなるか解っているのか……!?」


「なんも起こんねえーよ」


「いや、お前は何も解っていない。いいかお前の身に付けているブルマーは普通の体操服ではない!戦闘服だ!

つまり鎧だ

お前はその鎧の上にジャージを着ると言っているのだぞ。普通 鎧の上にジャージは着ないだろ」


「鎧は鎧でもビキニアーマーだろ。そんなん着て戦うならマント羽織って隠すわ」


「ダメだ!そんな事をしたらブルマーによる極限まで追求された脚の稼働域が遮られ機動力を落とす」


 いや、その理屈はおかしい。


「それだけじゃない排熱も正常に機能せず熱暴走を起こしとんでもない事になってしまう!!」


「あの服のラジエーター要素ドコ!!!」


 ともかくジャージは着るなと釘を刺された。


 まぁ確かにあの服を着ると熱くなり易いのは事実だし物理法則を無視していることも考慮すれば本当に滅茶苦茶な理屈で問題を起こすかもしれない。

 そう思い私はジャージを着ることを結局、諦めてしまった。



朝だ~。


日曜だ~。


テレビを点けてみれば。


怪人出現のニュウゥゥゥス!!!


爽やかな朝、返せや。



 出撃しようと準備すると変身前にお兄ちゃんから話しかけられた。


「キルカ…コレから先の戦いはより厳しいものとなっていくだろう。そこでお兄ちゃんからコレを渡しておきたい」


 そう言って手渡してきたものは黒色の


「ニーソックスだ!!」


「キモい」


 オブラートに包んで言ってやりました。



駅前。

 そこにピッチリとしたスーツを着たペ◯シマンみたいな姿をした怪人が居た。


 怪人が両手を前に出すと空気が波打ち、それに触れると服が縮んでしまった。


「キャーーー!!」


 被害を受けた女性の服は小さくなることでスカートの丈が短くなり脚を大きく露出し上も小さくなったことで胸を締めつけ、おへそを見せる。


「もう!色々と酷い!!」


 状況が目に入った瞬間にブルマー戦士は間髪なく蹴りを入れた。


 しかし怪人はそれを片手で防ぎ機敏な動きで距離を取り、また あの服を縮ませる攻撃をしてきた。


 キルカは空気が揺れていない方向に素早く避けるとギャラリーにビーム(?)が当たってしまった。


「いやーー!!」


 今日は日曜の朝だが駅前には男性が多く彼らの着ていた服が縮み凹凸のある体のラインをくっきりと浮かび上がらせると男性陣は股を閉じて隠す素振りをする。


「センパイけっこう大きいッスね」


「ドコ見てんだオメーわっ!!!」


 と被害を受けた男たちの声が聞こえてしまった。


〈出来うる限り見ないようにしよう〉


 そう誰しもが思ったが戦っていたキルカには否応なく被害を受けた男性たちの姿が視界に入ってしまう。


 しかも戦っていく中で被害者増えていく。


〈うぁぁああ!!!男の人の


 自分でもなんで、そんなとこに視線がいってしまうのか判らないが、ともかく男たちが隠している前よりもピッチリとしたせいで見える男性の小さく引き締まった尻に目が行ってしまった。


 思わぬ形で自分の性癖を知ってしまい内心ショックを受けながら顔を赤くし目を回しているとついに怪人からの攻撃を受けてしまった。


 服が小さくなると同時に回していた目が体に走る刺激と共に覚めた。


〈股の締めつけと胸が……ッ!!〉


 鼠径部そけいぶに風を感じ、胸と腰の形が普段よりハッキリとする体を強張こわばらせ唇をブイ字状に締めながら涙目になりながら顔を赤くする。


〈恥ずかしいっ!!〉


 男性の視線も多いので余計である。


 早く終わらせる為に敵に近づきかかとを高く上げ蹴りを落とす。


 彼女 渾身の踵落かかとおとしだ。


 だがペ◯シマンもとい怪人は両腕でクロスし見事に防ぎきっていた。


 そこから腕を上げるように脚を弾くとキルカは尻餅をついて倒れ、さらに攻撃を受け体操服がより縮み胸を締めつけお腹をさらけ出しブルマはお尻のお肉を押し退けて食い込んでくると羞恥心は最大にまで達する。


「いやぁーーーーーーーーーーーー!!!」


 彼女は直ぐさま立ち上がり大きくジャンプし人目のない所へと逃げて行ってしまった。


 彼女の叫び声が遠くに去ると辺りが一旦 静まり返り騒ぎだす。


「ブルマー戦士が負けたーーー!!」


「うわあああ!これ以上オレの服を小さくするな破ける!!!」


「もう嫌だぁああ!」


 幸い女性たちはキルカが戦っている時にサッサッと逃げていたので女性への被害は無く男子達の悲痛な叫びが響いた。


 一方その頃。

 キルカは人の居ない高いビルの屋上でハチマキを解いていた。


「良かった変身前の服は縮んでない」


 キルカは状況を落ち着かせ深呼吸するとポケットからニーソックスを取り出し、朝の兄の説明を思い出す。


「一見ニーソックスに見えるがコレを身に付ければなんとキック力が2倍!さらに二足で2倍!そこに太股への食い込みが加わり2倍ムッチリで合計8倍パワーになる優れものだ!!」


 最後のは要らなかった。本当に要らなかった。キモい。


 そして、この謎理論の靴下を履くと再びハチマキを締め彼女は再び戦いにおもむく。



 怪人は次の標的を見つけるため人気の多い場所を目指し歩き、その途中で若い女性を見つけると攻撃しようと構える。


 また新たな被害者が現れる。そう思われた時。目の前にキルカが降り立った!


 一度。変身を解除したお陰で服は元の大きさに戻り堂々とした姿で着地から立ち上がると狙われかけていた女性たちが気づいた。


「あれ!?もしかしてレッドブルマー!」


 歓声が上がると同時にキルカは怪人へと向かって走り出す。


 当然、敵も迎え撃つために攻撃を仕掛ける。


 空気の揺れに触れキルカの体操服は縮んでいく。

 縮みに縮んだ服は、おへそどころか締めつけた胸部の下側まで露出させ、ブルマは鼠径部そけいぶを丸見えにしニーソを履いた脚と同様に肉を押し上げ食い込み コレでもかと言わんばかりに柔らかな肉質を強調した。


 しかし気にせず走った。


 そして助走を着けた鋭い蹴りが怪人へ放たれる。


 防いだ腕は衝撃に耐えられず、そのまま体ごと吹き飛ばされ崩れ去っていった。


 全てが終わり服のサイズも戻ると彼女は、いつものように何も言わずに去っていった。



 キルカは家に帰るとお風呂場の脱衣所へ行き服を脱いでいく。


〈はー、ようやく胸が楽になった〉


 小さくなった服の圧迫がなくなってもスポーツブラの軽い締めつけがあり、いつまでも解放感がなく家に帰るまでずっと落ち着けていなかった彼女がようやくホッと一安心し汗を流すためにお風呂場でシャワーを浴びる。


〈うう……さっきまで締めつけられてたせいかシャワーがいつもより感じちゃうよ…〉


 胸にかかるボワッとした感覚に自分の恥ずかしい記憶が次々とフラッシュバックし赤面する。


 忘れなきゃ。彼女はそう思いながらシャワーを浴びていたが この時。キルカは知らなかった服のサイズが戻る少し前にギャラリーに写真を撮られていた事を

 そして、そのムッチムッチの姿が明日の新聞に載ることを…


〈はぅ…もう、えっちなのはノーセンキューだよ~〉


 今日も府愛知ふえち市は平和である。

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