第2話 そういうの良くないよ

 5月頃。府愛知ふえち市に一陣の風が吹く。


 その風は止むことなく公園に来ていた女性のスカートをめくる。


 帰宅中の中高生。果てはお若い奥さんまで神秘のベール下にある男のロマンを刹那的に見せてしまうと羞恥の声を上げスカートを押さえる。


 前を押さえると今度は後ろから風が吹きすさみ臀部でんぶのラインと共に薄いピンク色や縞模様を女性達は見せてしまうことになった。


 おー、もーれつー。


 などと言ってる場合ではない女性からすれば迷惑このうえない。早くこの異変を解決せねばと赤いブルマの装いでキルカは公園の真ん中に居座る扇風機に手足を生やし団扇うちわを持った怪人に向かって行く。


「やめなさーい!」


 足首から付け根までの肌色が一閃を描きながら蹴りを入れると怪人が吹き飛ばされる。


「ああ、レッドブルマーだ!」


「やっちゃえブルマー戦士!そんな変態メカやっつけちゃえ!」


 女性から声援が来る。

 キルカはアレ以来から何度か活躍をし、その度エロいm……ではなく偉い目に会いながらも怪人を成敗し今ではレッドブルマーやブルマー戦士の名前で府愛知ふえち市の人気者になっていた。


 そんなことは、さて置いて扇風機怪人が立ち上がるとプロペラを回し始め風を操り始めた。


「いやー!!」


 またも始まるスカートめくり攻撃。しかし周囲には被害はあってもブルマ姿のキルカには何の効果もなかった。


 せいぜい彼女の大きい胸が風で揺らされるくらいのもので、これくらい我慢できる程度のものだ。


 そう思っていたら揺れでブラのフロントホックが外れた。


 キルカは慌てて胸を腕で隠すように抑えた。


〈イヤだ?!はずれちゃった!??どうしよう??!〉


 さらに強風がキルカの真下から真上に上がり体操服をまくり お腹まわりをさらす。


「わーーーーっ!!!!」


 腕で抑えるのが遅れていたら外れたブラまで少し見られたかもしれない危ない危ない。


 キルカは最悪の事態を避けられたとはいえチョット怖かったのかちょっぴり涙目で頬を少し紅潮させ不機嫌そうな口許で怪人に睨みつけると胸を腕で抑えながら走り出す。


「もう!!いい加減しろぉーー!!」


 今度は助走をつけてドロップキックをかまし完全撃退した。


「わー!ありがとうブルマー戦士!」


 ギャラリーから称賛の声と拍手が上がりながら人が近づいてきた。


〈いやぁあああああ!!!いまブラ外れてるから近くに来ないでぇぇええ!!!〉


 キルカは地面を足で勢いよく摩り土煙を激しく上げて姿をくらました。



「もう!!イヤぁあああああ!!」


 変身を解いて帰って来て草々に私は叫んだ。


 なんで毎度、毎度、恥ずかしい思いをしてまで戦わなくちゃいけないの。


「と言うか、なんでどれもコレもえっちなことばっかするワケ!?」


 私は全ての元凶である お兄ちゃんに向かって言った。


「え?だって悪い奴として作ったんだから当然だろ」


「だったらもっと悪役らしく作ってよ!やってることが全部、幼稚すぎるよ!!」


「人を殺したり。街を破壊するようなのがお望みなのか?」


 いや、ダメだだろソレ。


「わかった。キルカがそう望むなら、お兄ちゃん頑張って作って…」

「今のままで良いです」


 思わず、そう言ってしまった。


「いや!違う!そもそも作るな!!」


「どうしてだキルカ!今では町のヒーローで人気者じゃないか!

人に必要とされるようになって少しは自分に自信を持てるようになったんじゃないか?」


「なるか!!ばか!!

人気者って持てはやされてても裏じゃ目立ちたがりのヘンタイだって言われてるんだよ!」


「そう言うのはな。キルカより可愛くない奴らの嫉妬だ!」


「見た目!完全に私じゃないんだけど!そもそもマッチポンプで自信を持ったら完全なクズじゃん!」


点火マッチしたのはお兄ちゃん!消火ポンプするのは妹!ソコに大きな違いがあるだろうがぁ!」


「間違ってるのだ‼」


 しかし、どれだけ言い争ったところで もう怪人たちは野に放たれてしまった以上。私は戦わなくてはいけないのだ。


 あぁ……コレから普段、スポーツブラを着けよ…脱ぎ難いし可愛くないからあんまり好きじゃないけど仕方がない……

この下着。気に入ってたのになぁ……



 翌朝になると、学校ではレッドブルマーのことで話題になっていた。


「また現れたんだってレッドブルマー」


「いつも多くを語らず去っていくなんてカッコイイよね」


 ごめんね。みんな…誉めてもらって悪いんだけど私には正直。ネットでヘンタイ扱いしてる人達の意見のが正しいと思えちゃうくらい全然、解んないよ……


 だってブルマだよ!世間ではあまりに恥ずかし過ぎて不評を買って消えていった あのドン引きもんのブルマだよ!?

 それ穿いて戦ってたら普通はヘンタイさん以外の何者でもないじゃん!それが戦闘中に胸元やら脚にアレやコレやされてたら余計だよ!!


………レッドブルマーじぶんを自分でヘンタイ呼ばわりしてて悲しくなってきた…


〈違うんです。お巡りさんコレはお兄ちゃんの性癖しゅみで自由意思で着ているんじゃないんです……〉


 などと供述しており余罪の追求が急がれます。


 おっと、いけない…また…妄想の世界に浸ってしまった。コレだから陰キャぼっちは困る…


「でも、なんでブルマなんだろうね?」


 突如、耳に入ってきた声に私は聞き耳が立ってしまった。


「もうブルマなんて穿いてる学校なんてないよね」


「そう言われてみると変だよねー」


〈だよね!だよね!おかしいよね!良かった私の考えがおかしいワケじゃなかったんだ!〉


 心の奥でなぜか浮かれてしまった私に黒井さんの声が入ってきた。


「そんなの簡単よ。あの人はきっと海外から来た人なのよ

海外ではマンガの影響で日本ではまだブルマが穿かれていると勘違いしてる人が居るから激しい運動なんかをする時は日本ではブルマを穿くのが礼儀だと思ってるのよ。きっと」


〈そ…………ッッ

そうきたかァ~~~ッッッ〉


「「なるほど~」」


 納得しちゃったし………


 確かに変身時は金髪碧眼で日本人的特徴はないけど、なんという都合の良い解釈…


 いや、しかし本気で特定されてしまったら不都合なのは私なのだから、これでいいのだ(本当に良いのか?)


 そんな事を思っていたら黒井さん達に反論する声が聞こえてきた。


「バッカじゃねぇの?あんなのが何処がカッコイイんだよ」


 そう言ったのは男子だった。

 お、良いぞ男子 言ったれ言ったれ。


「あんなのより仮面バイカーのが100倍カッコイイぜ」


 激しく同意!

 仮面バイカー見たことないけど。


「はぁーバカなの??お話の中のヒーローと本物のヒーロー比べてどうすんの?」


「じゃあレッドブルマーはバイク乗れんのかよ!?乗れねぇだろ。仮面バイカーは本当に乗り回して戦ってんだぞ!どうだスゲーだろぉ~!」


「ああいうのはNGシーンとか見せないだけで実際は何度も失敗しながら録ってるものなよ。レッドブルマーは失敗なんかしないわよ」


 いやぁ…レッドブルマーはNGどころかアウトではないでしょうか黒井さん……


 そう思っていたら黒井さんの友達たちが男子に向かってお決まりのコテコテなあの一言を言った。


「と言うか、なんでアンタそんなに必死なワケ?もしかしてレッドブルマーのが好きなんじゃないの?」


「ちげーよ!なんでそうなるんだよ!!」


「赤くなってる」


「なってないっ!」


「じゃあ、なんでそんなに必死なの?教えてよ~」


「……もういい」


 男子は縮こまって言い返すことをやめてしまった。


 恐るべき!集団圧力!

 これが……いじめ……ッ!!


 助けにいってあげない時点で私もいじめ共犯者ですね……はい……スミマセン……

でも助けに行ったって好いた腫れたでイジられるだけイジられて事態を悪化させるだけなんです。


 コレが世間で話題の人気者レッドブルマーの正体だよ…どう?軽蔑した?

 あのハチマキつけてなきゃ私なんてゴミだよゴミ…ハハッ……


 そう自己嫌悪しながら今日も授業が始まっていく。



 2時間目は外での授業。体育だ。


 普段の私は運動は得意でなく100m走18秒台とダメダメでカッコ悪い。

 息を切らしていると一人の女子が綺麗に走り抜けてゴールをするのを見た。


 同じクラスの紺野こんの よいさんだ。


 紺野さんは運動も勉強も得意でカッコイイ。しかも集団に属することもない真の孤高のボッチ。一匹狼だ。

 長い黒髪に獣のような漆黒の瞳はただ黒いだけでなく空の青色を映していているのか宝石のように輝いて綺麗だった。


「よーし全員。計り終えたね。まだ時間あるから、もう一回 挑戦したい人はスタートラインについてね~」


 先生がそう言うと紺野こんのさんも再挑戦しにスタートラインへ歩いていった。


「さて残ってる方はグラウンド2週してきてもらうかな~」


「ええー」


 それを聞いて100m走にもう一回挑戦すると言い出す生徒も現れたが


「挑戦してもムダだと思ったんでしょ?だったら大人しくグラウンド走ってきなさい」


「先生!!」


「ゴネたってダメ」


「違う先生!!ヘビ!!」


 え?


 その場に居た私たちはその言葉に同じ反応を返した。


 見つけた生徒が指差した先に確かにグラウンドにヘビが居た。


 しかしヘビにしては無機質で何処か機械的だった。


「うわ!本当だ何処から入ってきたんだろ」


 見つけるとニョロニョロとこちらに近づいてきた。


 あっち行けシッシッとするもヘビは近づき突然、素早い動きで先生の足下から長ズボンのスキマに入っていった。


「わっーーーーー!!」

「キャーーーーー!!」


 生徒の声と先生の悲鳴が同時に響くと先生は硬直していた。


「いや…!わたしヘビ嫌い!誰か取って…」


 先生がガタガタと震えているとズボンの中でヘビはモゾモゾと動く。


「ひっ…!!」


 顔を青くするとヘビがズボンの上から何かを加えて勢いよく出てきた。


「イヤぁあああ!!」


 ヘビが加えていたのは引きちぎった下着だった。


 薄青くレースをつけた生地をそのヘビはムシャムシャと飲み込んでいく。


〈あ……多分これ…お兄ちゃんが作ったヤツだ……〉


 世界広しといえパンツをむさぼるヘビなど居るワケもない。


 あれ……コレって変身しないとダメじゃない私?


 そうこうしている二人目の犠牲者が現れた。

 短パンのスキマからヘビは浸入し女子生徒の可愛らしいイチゴパンツを食い千切っていた。


「ああ……ッ!!ああ……ッ!!」


 短パンを抑えながら失った物に彼女は涙を流していた。


「なんだこのヘビ??!気持ちワリぃ!!!」


 男子がキモがって潰そうとかかる。


〈おお!男子。こういう時、頼りになる〉


 と思っていた時期が私にもありました。


 ヘビは同じ手口で男の子の短パンへ入るとブリーフを抜き取り食べてしまった。


〈男のも食うんかい!!!!!!!〉


 朝は女子にレッドブルマーが好きなんじゃないかとイジられパンツを食われ、散々な一日となった彼は泣き始めてしまった。


 ちなみに先生はというとノーパンとなったことで放心状態となり動けないでいた。


「私!誰か助けを呼んでくる!!」


 そう言って私はこの場から全力で離れて行った。



 100メートル先で何やら騒がしい事態になっているとスタートラインに居た生徒たちは思っていた。


 皆が騒ぎの方ばかり目が行く中紺野こんのよいただ一人だけキルカが走って何処かに行くのを見ていた。



 キルカが居なくなった後、先生は放心状態から立ち直り怒りと羞恥を剥き出しにヘビを潰そうとしていた。


 土煙を上げながらヘビは器用に素早く避けていくと先生の上半身へと絡み付いていった。


 まだ三十代にも満たない若い教師の胸を締めつけ、その柔らかな乳房の上を滑るように動くとヘビは胸元の谷間から入り、その形を弄くり回すように動き回る。


 もう彼女は顔を真っ赤にし甲高くも小さく咽び泣き生徒たちも顔を赤くしていてパニック状態だった。


 その時。彼女は現れた。


「いい加減にしなさい!」


 先生の谷間から飛び出していたヘビの尻尾を掴み抜き取り地面に叩きつけた。


「あ……!!」


「レッドブルマーだ!」


「助けに来てくれた!!」


 歓声を浴びる姿は毅然とし露出の多い姿は彼女の自信の現れを見事に体現している。



 ように周囲から見えていた。


〈~~ッ!本当にしょうもないモノばっか作って!!見てるコッチが恥ずかしいよ!!〉


 頭の中は興奮状態で沸騰していた。


 そんな彼女にヘビはキルカの手からスルリッと抜けて豊満な体へと入り込んみブラへと噛みついた。


 しかしスポーツブラを上手く噛みきれないのか暴れて胸部を揺らす。


「ん…っ」


 成長期の彼女にとって胸の激しい刺激は痛みや不快感があり好きではなく顔を曇らせ苛立ちを感じた。

 ササッと片付けるために掴もうとするとヘビはお腹から鼠径部そけいぶへと動き始めた。


「ふひゃ!!!」


 動くとくすぐったく思わず声が出てしまった。


 ブルマの下に入りヘビの頭が盛り上がると布が引っ張られ、その分だけ下半身への締めつけが強くなる。


 下半身に走った刺激に思わず股を締め頬を紅潮させるとヘビは下着を食い千切り反対側の鼠径部そけいぶに向かうためにヘビは胴体をウネらせながらブルマへと入っていく。


「んッ…ッ!!ひャッ!!」


 締めつけの強さが増し、成れない感触に神経がピリピリすると同時にくすぐったいと小脳が感じとる。


 胸の先から送らた鈍い痛みから自律神経の興奮に慣れない刺激と、頭の中は大忙しに処理をしているため何が気持ちいいのか何が不快なのかすら曖昧になり全てがいとおしいく感じてしまう。


 それでも理性が感情を否定し拒絶する意思が羞恥となって顔に表れ筆舌ひつぜつに尽くしがたい表情となる。


 ヘビが反対側でもパンツを噛み斬ると太股の付け根から白くて可愛らしい布地を引っ張り出す。


 最早。限界だった。


 下着すらクラスのさらしものになるという恥辱の極みにキルカは脚を後方に高く上げ音速を超える勢いで地面に着地したヘビをどこまでも遠くへと蹴り飛ばした。


「大気圏の果てまで吹っ飛んでろ!!!」


 高く脚を上げ骨盤底筋こつばんていきんを振るわせながらフーッ…フーッ。と熱くなった息を吐き出し、脚を下ろすと周囲から拍手が送られ先生からは両手で握手されながら涙を流しながら感謝の言葉を貰った。


「ほんっっっとうに!!!ありがとう!!!貴女のお陰で生徒に無駄に醜態を見せなくて済んだわ!!

ほら!!みんなも感謝の言葉を言うのよ」


「ブルマー戦士さん。ありがとうございました!」


 先生の言葉に一同にお辞儀する。


〈コレはコレで恥ずかしい……〉


 すると黒井さんが近づき目を回しながら緊張で汗を掻きながら震えた手を伸ばしてきた。


「あ、あの……れっ…レ、レッドブルマーさま。良ければ、は、ぁ…握手を…」


「う…うん…」


 そう言われて手を握ると黒井さんは声にならない声を上げ感激する。


 その後もクラスの子が集まって質問と称賛が一気に来た。


〈いま私ノーパンだから返して!!〉


 とも言えず。下の落ちつかなさを我慢しながら、なんとか笑顔を作る。


 その人垣の後ろで黒井さんとその友達がノーパンになって泣いてしまった男子に得意気に話しているところが見えた。


「どう!コレが本物のヒーローよ。困ったとき直ぐに駆けつけて自分がいくら辱しめに会おうと めげることなく立ち向かっていく

アンタみたいにパンツ取らて泣いたりしないのよ」


「て言うか男のクセに情けなさ過ぎ」


 彼はまた悔しそうに泣きそうになっていた。


「そういうの。良くないよ」


 私の言葉に みんなが固まった。


「弱味を見つけて責め立てるなんて卑怯だよ」


 そうして沈黙が生まれキルカは思った。


〈やっちまったぁぁぁぁ!!!!〉


 この気まずい雰囲気。きっと『なに言ってんだ?コイツ』とか『調子のって上から目線で説教かよ』とか思われてるよきっと。


〈でも!ずっと言いたかっただもん!!悪いことは悪いって。みんな仲良くして互いを思いやって欲しいって〉


 て!!私は先生か!!


「ごめんなさい」


 最初に男子に謝ったのは黒井さんだった。

 その後に彼女の友達も言い過ぎたと頭を下げていた。


「こっちこそ悪かったよ………ブルマー戦士をカッコよくないなんて言って」


 良かった。仲直りできたみたいだ。


〈本当に出過ぎたマネにならなくて良かった〉


 心の奥底で冷や汗を掻いていたので安心すると100m走の再チャレンジ組がコッチにやってきて声を掛けてきた。


〈ハッ!チャンスだ!〉


 みんなの意識が反れた瞬間。私は猛スピードで去っていくと助けられた彼がそのことに気づき言った。


「ありがとうブルマー戦士」


 その言葉の後にパンツの切れ端が風に舞って流されていく。



 なんとも締まりの無い幕の引き方で、体育の授業が終わっていった。





オマケ。


「ところでお兄ちゃん」


「どうした妹よ」


「怪人って言ってたけど人型じゃ無かったんだけど」


「細かいこと言ってたら大人になれないぞキルカ」

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