戦え!ブルマー戦士キルカちゃん!

上代

第1話 点火と消火

 私には言えない秘密がある。


〈うぁあああああああん!!!恥ずかしいよぉおお!!!〉


 某年某日の日本にて私はブルマ姿で粘性があるゾル状の生物と戦っていた。


 何故こんなことになってしまったのだろう。


 時は何時間か前に遡る。



 私は5年2組の教室で教卓の前の席に座る陰キャだった。


 長い黒髪を垂らしていかにも日陰者なのに隅に置かれずココに座っているのは教師の真ん前の席が生徒の嫌う場所だからだ。


「ねえ、席替えどこだった」


 そうクラスの子に聞かれて席替えクジの結果を見せると交換をねだられ、陰キャに拒否権もなく席が決まっていく。


 こうやって休み時間。一人で居ると過去の事が、ふと甦っては想像の世界に浸るのが私の日常だった。


「なにボーッとしてんのよGカップ」


 Gカップと言うのは私のことだ。


「G…じゃない…し」


「じゃあ、いくつよ?」


 私が小さく反論すると彼女は顔を傾けながら私に顔を近づけ、ミディアムボブの茶髪を揺らす。


 彼女は黒井くろい 優莉ゆり

 いわゆるスクールカーストのトップだ。


「いくつなよ~教えてよ~」


 私は怖くて目を反らすと黒井さんは両手で胸を掴んできた。


「ひゃ!!」


 指の沈みに合わせて下着の形が崩れ、布の擦れる感触が伝わるとイヤに感じてしまい背筋を伸ばして逃れようと後ろに傾き椅子がガタッと音を立てると黒井さんは笑った。


「おっきいい。やっぱGカップじゃん」


 その言葉に取り巻きの女の子達が笑いながらコッチを見ていた。


 その後もブラもう着けてんの?とかドコで買ったのとか聞かれながら私は顔を真っ赤にしながら、なんとかチャイムまで逃げ切った。



 下校の時間。この時間は彼女達と帰り道が違うから安心できた。

 それでも田んぼ道や舗装されていない道を見つめながら思っていた。


〈もう嫌だよ。こんな風にからかわれるのなんて……〉


 いっそ何か面白いことが起これば良いのに

 例えばいきなり性別が逆転したりとか、そうすれば胸のことで弄られることもなくなるのに


 この前、見たアニメみたいに異世界に飛ばされて楽しい日常を過ごせるようになるのも楽しそう。


〈でも……そんな都合の良いことなんて起きないんだよね……〉


 ある日、突然 事件に巻き込まれて一躍ヒーローになるというのはフィクションの中だけだ。


 輝きたいと願うなら努力を惜しまず自分で掴みとるのが正道だ。

 外部から、きっかけが来るのを待ち望むような人間は怠惰で甘えている。


 怠惰な人間は救われるべきじゃない…救われるべきは頑張ってる人だけだ。

 それが正しいし、あるべき姿なんだ。


 そう考えても本当にそうかな?と心の奥底で思ってしまうあたり私はきっと救われる価値のない人間なのだろう。


 そんなんだからいつまで経っても陰キャのままで変わらないんだ。


 嫌なことだって、からかわれるのだって自分が悪いのに救いばかり求めて空想の中に逃げていく。

 本心は自分が悪いと本気で自覚していない証拠だ。


 だから私は私が大嫌いだ……



 家に帰宅し「ただいま」と私が言うと廊下から音を響かせながらコッチに近づいてくる人影があった。


「おかえり!希留佳きるか!待っていたよ!」


 古間ふるま 好希こうき 18歳。私の兄だ。


「お兄ちゃん。学校は?」


「学校?今日は休みだよ」


 私が靴を脱いで玄関を上がりながら話していると、どこぞの某アイドルみたいなことを言い放つと続けて言った。


「それよりもコレを着けてくれ!」


「何コレ…?はちまき?」


 私は洗面所で手洗いうがいを済ませると赤のハチマキを受けとり言った。


「まだ運動会の時期じゃないよ」


「良いから着けてくれ」


 よく判らないが別に着けるだけなら害もないので適当に結ぶと突然 光に包まれたかのような感覚に襲われる。


 そして。


「な、なっ」


 光から解き放たれると私は体育着姿でブルマを穿いていた。


「何よコレ!!!」


「ブルマーだ!!!」


「知ってるよ!!!

私が知りたいのはなんでこんな事になってるのかってこと!!?」


 というか何コレ…パンツじゃん…ブルマーとかパンツじゃん!

 なんでこんなもの存在するの?!イヤらしい!


 羞恥心の分だけ体育着を引っ張って赤いブルマを隠すことに専念していると兄が話始めた。


「兄さんはな…ずっと考えていたんだ…どうやったらお前が学校で陰キャを卒業して自信を持って生きていけるのかを」


「だから、なんでブルマ?と言うか何このナゾ技術。特許もんじゃない?」


「あ、ソレ無理。だって兄ちゃんもどうやって作ったか覚えてないもん」


 そう言いながら兄はピースしがらウィンクする。


 うぁ…殴りてぇ…


「だが聞いて驚け!そのブルマーを着装すればアラ不思議!!誰でもスーパーヒーローになれちまうんだ!」


「ワー、スゴーイ(棒)」


「ついでに顔も変わる」


「わー!!凄い!」


 兄がクルッと一回転させ洗面台の鏡を見ると活発そうな金髪碧眼の女の子の姿が映っていた。


「別人じゃん!?」


 思わず叫ぶ。


 確かにこの顔だけなら陰キャを卒業できそうなくらい見た目が良い

まぁ中身は同じなんだけどね。


「それで、どうしてブルマなの?」


「兄ちゃんの趣味せいへき


「おぇぇぇ……」


「露骨に嫌な顔するな」


 さっきまで、面白いことが起きて欲しいとは思っていたけど いかがわしい方向での変化はノーセンキューだ。

 いや、チョット面白いから確かに嬉しいけど。


「どうした?ヒーローになれるんだからもっと喜んでも良いんだぞ」


「ごめん。そもそもツッコミが追い付かないわ」


非科学的

どうやって作った

開発費どうした

オーバーテクノロジー

ブルマである必要がない

そもそもヒーローってなんだよ女性系ならヒロインだろ

夢かな?

陰キャ卒業?ムリ

陰キャは救われるべきじゃない

ご都合主義

あー、ダメダメえっち過ぎますね

etc.etc.…


「ねぇお兄ちゃん、顔をこのままで服を普通にして私の人格が消滅するように作り変えられないの?」


「清々しいほど自分を殺しに来てるな。答えはNOだ

それよりも性能テストだ」


 兄がそう言うと居間に移動してフタの空いていない缶を渡してきた。


「握ってみろ」


 アレか、缶を潰すアレか。そう思って缶を片手で持ち力を入れると中身が炸裂し盛大に顔に掛かった。


「ワーオッ!ヌレスケ!ヌレスケ!エロイエロイ!」


「お兄ちゃん……」


 まさか本当にバカ力になっているとは思わなかった。おかげで体操着の右胸あたりが濡れて下着が薄ら見えてしまっていた。


 本当に殴ってやりたい。

 しかし、ふと父に言われた言葉が甦る。

「良いか希留佳きるか。自分が正義だからといって何をしても許される道理はないんだぞ」


 だから殴ってやりたけど殴らない。

 ムカついても、やり返さない。


 プルプルと震えながら顔を赤くしか出来ないのは本当に悔しい。


「ぉぉ…希留佳きるか。泣くな。ほらハチマキ取れば元通りになるから」


 言われた通りハチマキを解くと濡れた姿でなくなり元通りになった。


「もう、二度とこんなの着けないからね」


 泣きそうな顔で私が言うと、その後に兄が言った。


「それは困る。もう、お前がヒーローになると思って兄ちゃんが作った怪人たち 野に放っちゃぞ」


…………………………ほわっつ?????


「は?怪人?」


『緊急ニュースです。突如 府愛知ふえち市で謎の生物が現れ次々と被害を出しております』


 その意味を理解できないでいると居間にある点けっぱなしのテレビからニュースが流れてきた。


『警官が出動するも対処が追い付かない状況です。近隣の方は冷静に指示に従って避難するよう呼び掛けています』


 内容を一通り聞き終えると兄は言った。


「さぁ解っただろ、あの怪人を倒せるのはお前しかいないんだ。いけブルマー戦士よ!!」


「マッチポンプじゃねーか!!!!!!!!!!」


 こうして私は兄の不始末を尻拭いをするためにブルマ姿で現場に直行することとなった。



 現場となった公園付近では野次馬が近づかないように警官が道を塞いでいた。


〈どうしよう近づけない〉


 そもそも本当に私が行って事件を解決しに行くべきなのだろうか?


 警察や自衛隊に任せクソ兄貴に全て責任を負わせるのが最善では無いだろうかと思った。


 いや身内のやらかしがバレたら、それこそ世間から猛バッシングを受けかねない。やっぱり家族の失態は同じ家族が取るのがスジだ。


 そうこう考えていたら野次馬たちから声が上がった。


「おい!アレ!?」


 アメーバのような生き物が警官の後ろから現れるとその場に居た人達が興奮とパニックで騒ぎ始める。


「スゲー!スライムじゃん!」

「いやあぁぁ!!」

「カメラ回せ!!」


 それぞれに好きに騒いでいると最初の犠牲者が出る。


「いやあぁああん!だめぇえ!」


 スライムみたいなそれに絡めとられると男は声を上げた。


 なんで男の人ってこういう時だけオネェ口調になるんだろう……


 いや!?あんなR指定なの私 戦うんかい!!!


 と思っていたが襲わそうな人の姿が視界に入ると体が勝手に動いていた。


 女性を襲おうと触手のように伸ばしたソレを蹴り飛ばすと水のように激しく散った。


「大丈夫ですか!」


 助けた女性に目を向けると、なんとそれは黒井くろい 優莉ゆりであった。


〈うぁあああ!やばいやばい!!黒井さんだったー!〉


 内心バレるんじゃないかと焦りが走るが黒井さんは「ありがとうございました」と素直に感謝を述べ、こちらを見ていた。


 そして周囲から奇っ怪な目を向けられる。


「なにアレ?コスプレ?」

「すげー」

「なんでブルマ?」


〈うぁあああああああん!!!恥ずかしいよぉおお!!!〉


 赤面で目がグルグルしてしまう。

 でも体が勝手に動いてしまったのだからしょうがない。


 嫌なことは直ぐに終わらせてしまおう。うん!そうしようと今度は本体と思える方に蹴りを入れるとアメーバのようなこの生き物の全身が震え衝撃を散らされた。


あっれ~~……

足が抜けない…


 その瞬間ジュルジュルッ!と音を立て足に絡みつく。


「ひぃ…ん!」


 内腿にヒヤッとした感触にヌルヌル感が回る。

 普段から刺激を受けることの少ない為に慣れない くすぐったさが走り、それが鼠径部に伝わると余計な刺激まで生み出す。


「ん……っ」


 鼠径部そけいぶには太い血管と神経がある。だからかなり感じやすい部分であり性感帯になりやすい。

 それは若い希留佳にとっては強すぎる刺激と言えた。


「ふぅぃ……ん」


 だが肉体の快楽はそのまま精神の愉悦には繋がらない羞恥という最大の責め苦にストレスが生まれ脳はソレを和らげるためエンドルフィンを放出する。


 しかし辛いといっても酷く苦しいワケではない。むしろ日常でのストレスにも劣る程度の不快感。

 それ対して過剰に放出された神経伝達物質は今ある生理的な興奮感を後押し敏感にするばかりであった。


「いゃ…やめて……」


 そのまま触手のような形をとった粘りけのある液体は服の下から潜り込み服を濡らして敏感になった肌の表面を滑ると、その刺激にビクンッ!と声を出して反応してしまった。


「ひゃぅ!!…ッ!!……ッ!!~~ッ!!」


 羞恥に濡れる姿に男達は思わず生唾を飲んだり「おおー」と声を出し、それに対し周囲の女性からの軽蔑の眼差しが男性陣に飛ぶ。

 その後に彼女が大きな声を上げた。


「ふにゃぁあ!!」


 脳が沸騰するような感覚に体は火照り熱を上げると、液体は粘性を上げてやがて流動性を失い固まってしまい。

 彼女が動くと そのままボロッと崩れ落ち解放された。


「はぁ…はぁ…よくもやってくれたわね」


 体が熱い。

 本当に燃えてるようだ。


 そう感じていると相手は再度、触手で絡めようと動いてきた。


 しかし、今度は先程のように行かない熱を吸うと固まり簡単に崩れ落ちてしまう。


〈そっか熱を加えると固まって脆くなっちゃうのか〉


 だったらこの体の火照り全部くれてやる。


 そう思えば思うほど体が熱くなってきた。


 根拠なんてないけど この激情をぶつけてやれば勝てるような気がした。


 だから彼女は感情の赴くままに液状生物に左腕を突っ込み叫んだ。


「うぉおおおおおおお!!私の熱!!全部喰らっとけぇ!!!!」


 熱が加わり透明度は失われ濁るような色になりながら固まっていく。

 最後に右手で殴られると衝撃に耐えきれず粉々になっていった崩れていった。


 捕まっていた人達もいたが落ちた衝撃はゼラチン状に固まった物体がクッションになって怪我も無かった。


「うぉおおおお!!すげー!!!」


 思わぬ光景に歓声が上がる。


 やり切った達成感が込み上がると直ぐに人が押し寄せてきた。


「君、名前は?」


「どこから来たの?」


 怒濤の質問攻めにどうすれば良いか判らずにいると また別の質問が飛んできた。


「なんでブルマなの?」


 自分が今どういう姿なのか思い出すと顔が赤くなり希留佳は思わずジャンプし住宅の屋根から屋根へ飛び移り逃げって行った。



次の日─。

 ニュースは謎のブルマ女子の話題で持ちきりだった。


〈死にたい………〉


 登校中も席についてもその事で頭がいっぱいだった。


〈首吊りって死んだ後に汚物を垂れ流して終わるんだっけ………〉


 そんな事を考えているとクラスでも昨日のことが話題に上がる声が聞こえてきた。


「黒井さん!!昨日ブルマの人にあったんでしょー!どんなんだったの?」


 ああ、そういえば黒井さん昨日 助けたんだっけ忘れてた。


 黒井さんはフフンと何故か得意気な感じで話し始めた。


「凄く格好よっかった!」


 思わず机に頭をぶつける。


「何やってのGカップ」


「いいえ、なんでも…ないです…」


 本気か?!本気で言ってるの黒井さん?!アレの何処に格好いい要素が?!?!


「バケモノ相手に一歩も怯まず立ち向かっていって最後にはバーンって粉々して、その上、無傷で勝利したの」


 そりゃ傷を負う要素なかったからね…


「その後、なにも言わずにクールに飛び去っていったの」


「おお~格好いい」


 取り巻きも目を輝かせるように褒めていた。


〈貴方たちの格好いいの基準が良く解らないよ…〉


 ついこないだ「ある日、突然 事件に巻き込まれて一躍ヒーローになるというのはフィクションの中だけだ」と言ったがアレは嘘だ。


 私の周囲では非日常が起こりヒーローになりました。


 マッチポンプだから全然、誇れないし恥ずかし過ぎて名乗りあげたくもないけど…


〈どうせなら もっと夢があってスタイリッシュで格好いいのが良かった〉


 こうして私は誰にも言えない秘密を抱えた新しい日常が始まったのであった。





「ところでGカップ…アンタ本当はいくつなのよ?」


 そう言いながら黒井さんは後ろから胸を鷲巣かみにし聞いてくる。


〈やっぱり、えっちなのはノーセンキューだよ~〉

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