第10話 青いブルマ

 さて…と…


 何処から突っ込もうか…


 そうして一考し、まずは順を追って、いきなり現れた銀髪の彼女に何者なのかと問いかけた。


「私? そうね、名乗るような名は無いのだけれども、とりあえず貴女たちブルマー戦士の流儀にのっとってブルーマーサファイアとでも名乗っておこうかしら」


 ブルーマーブルーじゃないの…


 なんかポ〇モンが色でバージョン違い表してたらいきなりクリスタルになっちゃったような戸惑いを感じているとブルーマーネイビーが変わって質問をした。


「貴方もブルマー戦士なの?」


「さぁ? それは見方によるんじゃないかしら?」


「どういこと?」


 ブルーマーネイビーの疑問に彼女は答えた。


「私は別に助けにやってきたワケではないということよ。ただブェルマーの最終定理の謎を解き明かす鍵である貴方たちと話に来たの」


〈だからなんのソレ〉


 声を大にして言いたい気持ちを抑えながらも私は聞いた。


「その…ヴェルマーの最終定理。って何なんですか?」


「ヴェルマーじゃないわブェルマーね」


 え? 発音おかしかった?……え??!


 困惑する私をさて置いて、ブルーマーサファイアは説明を始めた。


「ブェルマーの最終定理とは、存在することは予想されているけど、いまだ証明されていない数式のことよ」


「あの…それが私たちと何の関係が…」


 理解できずに私は、恐る恐る聞いた。


「ブェルマーの最終定理はブルマーの秘めたる力を解読するために必要な数式なの。もしも、この数式を解き明かすことが出来ればブルマーの力を応用し、あらゆることが出来るようになる。例えば…こんな風にね…」


 彼女がそう言うと空中に氷の塊が形成されていった。


「もちろん。これはブルマーの力の一端。完全に解き明かしたらこんなものじゃないわ。解ってくれたかしら?」


 ふむ。なるほど。まるで解らん!!


「その力の謎を解き明かして、どうするの?」


 当然の疑問だが、それよりも先に突っ込むことがあるのでは紺野さん。


「私たちの目的はいったってシンプル…」


 ブルーマーサファイアは質問への回答を少し勿体もったいつけるように間を置くと高々と宣言した


「女性を性的に消費する社会に終止符を打ち! 全女性の社会的地位の向上させることよ!」


 サファイアの言葉にブルーマーネイビー含め、周囲が驚いてる素振りを見せているが、みんな よくついていけるな…私なんて話がぶっ飛び過ぎてて内容が頭に入ってこないよ…


 だが、そんな私の内心など露知らずにブルーマーサファイアは話を続けていく。


「貴女たちが数式解読に手を貸してくれれば、ブルマーを穿きこなすことができる女性たちの地位は高まり男性優位の社会を終わらせることが出来るわ。協力してくれないかしら?」


 要するにフェミニストの仲間になってくれないかと彼女は聞いてるのである。


 それに対し、キルカは悩みながらも自分なりに精一杯の答えを返した。


「正直。いきなり社会問題の話をされても、どう答えれば良いのか判らないです……けど…男性優位とか女性軽視とか言われても私は実感が湧きません…ただ……」


「ただ…?」


「その…何となく言っていることが過激な気がして、そう言うのは良くないって思うんです」


 その一言が気に障ったのかブルーマーサファイアは不機嫌そうな顔つきで反論してきた。


「トーンポリシングね」


「へ?」


「態度や声色を非難して論点をズラしたり相手の主張を潰す手法のことよ。どうやら貴方にとって女性が性的に消費される問題よりもそういった態度や口調の方が重要なようね」


「違う。そういう意味で言ったんじゃなくて…」


「それ以上 聞く気はないわ。協力的じゃないことが解かれば十分よ。それでソッチの子はどうなのかしら?」


 サファイアはレッドブルマーの言い分を聞くこともなくブルーマーネイビーへと視線を移し問いかけた。


「貴女。少しはレッドブルマーの話を聞いてあげたら」


「今は君に質問しているのだけど? ブルーマーネイビー」


 ネイビーはムッとした表情で眉を寄せながら言った。


「そうね…貴方の言うように女性を性的に消費することは良くないと思う。特に神聖なブルマーを卑猥な目で見ることは許されないわ」


 ネイビーは賛同的な意見ばかり口にしていた。が、最後に「だけど」と繋げた。


「ブルマーの秘めた力を誰しも悪用しないって保障がどこにあるの?」


 そこには彼女なりの正義が宿る言葉があった。


「なんでもかんでも、つまびらかにしようなんて人の高慢だわ。女性解放を目指すなら別のやり方もあるんじゃないかしら」


 自分とは違い明確な意思を持って突き返した彼女を見てレッドブルマーはカッコイイと思いながら羨望の眼差しを送るかたわらブルーマーサファイアはソレを宣戦布告と受け取り空中に浮かぶ氷を次々と作り出し言った。


「そう…なら、貴女たちからブルマーを剥ぎ取って数式を解き明かすことにするわ。悪く思わないでね」


 それが火蓋を切る合図となって一斉に氷柱が襲い掛かってくると二人のブルマー戦士は攻撃を避けたり砕いたりし対応していった。


〈ど、どうしよう。いくらなんでも人を相手に蹴ったり叩いたりは良くないし〉


 今まで物言わぬ生き物とも言えない怪人しか相手をしてこなかったレッドブルマーにとって、いきなり対人戦闘になったことは戸惑いでしかなく、防戦一方となっていた。

 対してブルーマーネイビーは積極的に攻勢に転じサファイアと肉弾戦を演じていた。


「こんなもの? 貴女…ブルマーの力を生かしきれていないわね」


 ネイビーは煽られると怒りで動きが大振りとなりサファイアは、その隙を突いて両腕の動きを封じる。

 ブルーマーネイビーは壁を前にした状態で手は頭より上の位置で氷漬けにされ固定され

彼女は前屈かがみになりながら、お尻を突き出しブルマーを剥ぎ取るのにちょうど良い姿勢となったがサファイアは紺色のブルマーを手に掛けるより先にギャラリーの方を睨みつけた。


「まだ、男たちが居たのね。サッサッと失せなさい。見世物じゃないのよ!!」


 彼女が脅しとばかりに氷柱を男たちの前に落としていくと彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「たく! これだから男は」


 苛立ち混じりに ぼやくと視界の横から蹴りの軌道が見え、ブルーマーサファイアは慌てて体を反らしコレを回避した。


「霜焼けするわよ」


 拘束していた氷は壁との繋がりだけを壊しただけで完全には解けてはいない。

 そんなブルーマーネイビーの凍った手を見てサファイアは言うがソレで戦うことをやめたりはしない。

 ネイビーは諦めずに蹴りを多用し攻撃を続けるとレッドブルマーは叫んだ。


「もう二人ともやめて!! 暴力的に解決するのは良くないよ!!」


 その声に少し動きを止めるもブルーマーサファイアはめつけて言った。


「何を今さら綺麗事など言ってるの。貴女だって今日まで怪人たちとやらの問題を力で解決してきたじゃない?」


「そうかもしれないけど! 同じ人同士。言葉も通じる相手に暴力は良くないよ!」


「レッドブルマー…」


 彼女の優しい言葉にブルーマーネイビーは戦意が薄れていったがサファイアはそうはいかなかった。


「言葉で解決するのなら虐げられる女性は居ないかったでしょうね」


 彼女は先が二股状になった氷柱を放つことでレッドブルマーの手や首を余計に傷つけることなく抑えつけた。


「⁉ レッドブルマーッ!!」


 ネイビーは叫ぶと同時にサファイアへと飛び掛かるが彼女も氷によって捕らえられてしまった。


「レッドブルマー…貴女ように甘い人間には女性解放の象徴であるブルマーはさぞ重荷だったでしょうね…まずは貴女の その赤いブルマーから奪うとしましょうか」


「逃げてレッドブルマー!」


 しかし氷柱はすでに彼女の腕を凍らせ身動きを封じていた。


「いや…やめて…」


 レッドブルマーは、しおらしい声で懇願するもサファイアは一歩ずつ近づいて行く。


〈戦いたくない〉


 自分が正しいからと言って何をしても良いわけではない。その考えがキルカが戦いを忌避する理由だった。


〈必要以上に力で訴えるのは弱い証拠だ。陰キャのぼっちなクセして、そんな変なプライドばっかあるけど、そこは譲りたくない!〉


 私がもっと強ければ。


 そう願い気持ちが昂っていくも何もできないまま彼女のブルマはサファイアの手によって下ろされ始め、その下にあった薄いピンク色の下着がスキマから覗いた。


 その瞬間。羞恥心と気の昂りが重なり合い激しい熱が吹き上げサファイアは赤いブルマから手を放し直ぐさま距離を取り目を見開いてレッドブルマーに刮目した。


「まさか…ッ!! この土壇場でブルマーの力を引き出したというの⁉」


 熱は火に変わり氷を溶かしブルマー戦士は立ち上がった。


 その炎は優しくブルーマーネイビーの拘束をも溶かし冷えたその手を温かく包み込んだ。


「これが…私の力…」


 戸惑いながら自分の姿を確認するレッドブルマーにサファイアは氷柱を放ちワザと炎で迎撃させ水蒸気を起こさせると姿を眩まし去り際の言葉を送った。


「レッドブルマー…貴方との決着はまた今度にさせて貰うわ。それまでの間は正義のヒーローごっこをしながら男どもを喜ばせてるといい」


 蒸気の霧が晴れると彼女は姿は何処にも無く、戦いの終わりを確信するとレッドブルマーは気が抜けたように倒れブルーマーネイビーが駆け寄り支えた。


「おつかれさま。正義のヒーロー…」


 疲れ切ったレッドブルマーを彼女は優しくお姫さま抱っこをし学校へと戻っていった…



「二人とも! 何処に行ってたの!!」


 学校に戻るのが遅すぎた二人は先生に叱られていた。


 仕方がない事とはいえ、怒られることに良い思いはしない。その上で今から嘘まで吐かなくてはいけないのだから余計に憂鬱になる話である。


 だが、そこで率先して嘘を言ったのは紺野さんだった。


「先生。キルカさんを怒らないであげて下さい。実は……私がトイレが間に合わなくて下着を汚してしまって…それを知った彼女が替えの下着を家に戻って取りに行ってたんです」


「え」


 彼女は凄い嘘を言い、教師を困惑させた。


「その…下着はどうしたの?」


「ビニール袋の中に入れてカバンの中に入れてあります」


 この嘘に対して先生は少し考えた後に言った。


「紺野さん。古間さん。そういう事があったら今度からは恥ずかしくても先生に最初に相談して下さい」


 そう言いながら残りの説教を続けていき最後に先生に謝ることで事なきを得た。



「すごい嘘…だったね…」


「普通は醜態を嘘に使わないからね。おかげでやり過ごせた」


 説教の後、二人だけで紺野さんと話をした。


「でも、もしも汚した下着を見せろって言われてたら危なかったね」


「替えの下着なら持ってるから、あらかじめ水で濡らして袋に入れておいたから大丈夫だよ」


「え、そこまでしてたの⁉」


「もともと、何かの為に用意してた嘘だから…それに、コレくらいでしか貴女の役に立てないし…」


 少し申し訳なさそうに言う紺野さんに私は手を握って言った。


「ううん。そんなことないよ。倒れた時は紺野さんが居なかったら私、大変だもん。いつも、ありがとう。紺野さん」


 キルカが笑顔を見せると紺野 よいは目を逸らしながら、あること聞いた。


「あの…いつも思ってたけど、名字で呼ぶのやめない…ほら、私は貴女のお兄さんと呼び方が被らないように貴方のこと名前で呼んでるし…」


「えっ…えーっと…じゃあ、よい…さん?…ちゃんのが呼びやすいかな?」


「どっちでも良いよ」


「それじゃあ…宵ちゃん。コレからもよろしくね」


「うん。こちらこそ」


 その日。私は宵ちゃんと少しだけ仲良くなった。


 変な人だとも思ったけど、良いところを少しずつ知っていく事で友達になっていける。それは大切なことなんだと、いつか、あの青いブルマーの少女にも解って貰える日が来るといいのだが…果たして話し合える時が来るのだろうか…?


 古間 キルカはそんなことを思いながら、一つだけ忘れていた事を思い出した。


〈そういえば…怪人から助けて貰ったお礼…言ってなかったな…〉

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