第6話 事故紹介
ここは
「じゃあ私から。私は
えっへん! 先輩の自己紹介はこれで終わった。
俺たちはある程度ガヤを飛ばした。そして、俺は考えたわけだ。
(さてなんと言おう……ダメだ思いつかない……)
どう言えばいいのだろう……。趣味はあるのだ。しかし、どう言えばいいのか分からない。俺は映画鑑賞や絵画の鑑賞、音楽を聴く事が好きだ。他にも読書やアニメ鑑賞など、大まかに言えば創作物を楽しむのが好きなのだ。
しかし、広く浅く、俺は本物のファンじゃないのだ。
中学の時、それで失敗した事がある。
ならばどうするべきか……。能力のことを自虐すれば多少はウケてくれるだろうか?
(……いやダメか、多分引かれるだろう)
どうするべきか……。
俺があーだこーだ考えているうちに次の人の番が来た。
「次は私の番ですね。私は
(俺も終わりです!)
なんて、冗談を言っている場合ではないな。
どうにか時間を稼いで、自己紹介を考えることにしよう。それに、ちょうど聞きたい事があったしな。
「上本さん、トリガーを共有ってどういうこと?」
(よし! これでなんとか時間は稼げるだろう)
質問している身で申し訳ないが、自己紹介の内容を考えさせてもらおう。
「トリガーを共有は大雑把過ぎましたね、ごめんなさい。分かりやすく言うと、とりあえず相手の真似をする。という事です!!」
説明したにもかかわらず、星奈を無視する実咲。
「……あの、酉乃くん聴いていますか?」
(どんな自己紹介をするべきか……)
考え込んでいる実咲に呆れた懐愛は実咲の頬をつねり、こう言った。
「
「え!?」
(……ヤバい。考え込んでいた)
どうすれば、どうすれば!! 先輩が鬼の形相でこちらを見ているよぉ。
こんな時はとりあえず謝るんだ!
「ごめんなさい!!」
俺は精一杯謝罪した。
「星奈ちゃん、こんなやつ許さなくていいからね!」
懐愛は呆れていた。しかし、星奈はここぞとばかりに、実咲にある条件を提示した。
「……いえ、許します。そのかわりと言ってはなんですが、酉乃くん」
「……なんですか?」
「私のこと名前で呼んで欲しいです」
俺は黙っていた。意味が分からなかったのだ。何より、俺は彼女の容姿に魅せられていた。赤面した彼女の顔は俺にドストライクだったのだ。つまり、一目惚れした。
「……別に嫌ならいいですよ、でも本音は……名前がいいです」
感動していた実咲に追撃を加える上本星奈。
俺は嬉しさを噛み締めた。
「うん。……よろしく星奈ちゃん」
我ながら気持ち悪い笑顔をしていたことだろう。しかし、星奈ちゃんはそんな俺を笑わなかった。
「はい! 改めて、よろしくお願いします!」
「……ふーん。よかったわね実咲」
(よし! 一件落着だな)
そして俺は話題を変えた。
「次は部活の内容を教えましょうよ、先輩!」
(星奈ちゃんだってこれを一番知りたいだろうしな)
「そうね。じゃあ星奈ちゃんこの部活のこと教えるね!」
(うんうん)
自己紹介を気にするのは杞憂だったようだ。
ああ今日は幸せだな。
「——あの……私の勘違いではないのでしたら酉乃くんの自己紹介がまだだと思います……。私、聴いてみたいな」
ふしゅー、ふしゅー、ふしゅー。と人間ならざる呼吸をした酉乃実咲。
その背景には、人間らしい怠惰な感情が詰まっていた。
(自己紹介どうしよー! あわよくばしない方向に持っていきたかったーッ!!)
だが、後悔しても意味はない。
俺は大人しく、自己紹介を始めた。
「ごめん、忘れてた」
「ふーん」
懐愛は実咲に疑いの眼差しを向ける。
(自分だって忘れていたくせに)
「本当に忘れていました! じゃ、始めますよ!」
星奈は拍手した。
「ふー。俺の名前は
(……上手くいったか?)
俺は反射的に瞼を閉じてしまった。
「……あの?能力がないってどういう——」
「——よし! 自己紹介も終わったし、部の紹介に移ろうか!!」
実咲は感謝した。
実を言うと、俺は能力が無い事を人に話したくなかったのだ。だが、話してしまった。
なのに助けてくれた。
いつもいつも、先輩は俺を助けてくれる。
(ありがとうございます、先輩!)
「じゃあ、始めるね!」
「え……あ、はい」
星奈は場の空気を読んだ。
「うん、じゃあ言うね。この部
「質問です。研究とはどのようなものを?」
「……ごめん星奈ちゃん嘘ついた。こんな名前の部活だけど内容はただの散歩。散歩の存在理由は侵略者探しのためなの」
星奈はキョトンとしたが、すぐに意味を理解した。
「侵略者探し……危なくないんですか?」
「危なくないわよ。私がいるもの!」
「そ、そうですか」
「それに、侵略者を探してはいるものの、本当に会う事はないから、大丈夫!」
「そう言う事ですか……分かりました!」
(要はお遊びという事ですね!)
と星奈は確信した。
「星奈ちゃん! 終わり」
「そうですか……」
(……?)
先輩の語彙力は旅立ったらしい。
そして、この悪い空気を破るように先輩が口を開いた。
「そうだ! 今から散歩に行こうよ!」
「いいですね! 楽しそうです!」
(星奈ちゃんも同意のようだ)
「なら俺も行——」
「ちょっと待ったぁぁぁぁあ!」
(先生!?)
ドアを勢いよく開け、部屋に入ってきた俺たちの顧問。
「はぁはぁ……みんな! これ見て!」
俺たちは一つのニュースに目を向ける。
【畑宮市にある市民図書館に侵略者の本が入ったそうです。皆さんもぜひ、読みに行ってはいかがでしょうか! では、次のニュース……】
「へー、面白そうですね」
と実咲が言った。
「確かに! 私も行ってみたいです!」
一年生の二人がそう言うと、顧問は嬉しそうにこう言った。
「じゃあ行ってらっしゃい!」
三人は顔を合わせる。
「じゃ、畑宮図書館へ、ゴー!!」
そして、俺たちは外に出た。
□◼︎□◼︎□
一方その頃、図書館では。
「ぐへへ……何やらうまそうな匂いがするなぁ。セーナはどう思う?」
「よだれ垂らしすぎだと思う」
「なんだよーそれ!」
気持ちのいいくらい爽快なツッコミのようなものを入れた男。結局何を入れたのだろうか?
その男達は今、暗い事務室にいる。
(くぅーセーナはノリが悪いな)
だが何か起きそうな予感がする。
まったく、今日は幸せだな。
と男は思った。
□◼︎□◼︎□
一方その頃、波田高校前では。
「うわぁぁぁぁあ! こっちにくるなぁぁぁぁあ」
どこかで見覚えのある犬が実咲を追う。
「ワンワーン」
その犬を見た飼い主は焦って名前を呼んだ。
「こらー! ポチー」
(どうやら飼い主の匂いを伝ってここに来ていたらしい)
「うわぁーッ!!!!」
ま、俺にそんな事は関係ないがな。
(まったく、今日は厄日だ)
俺はそんなことを思いつつ、数分逃げ回った。
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